第5話 団らん(2)
仮眠から起こされた勝則が、伽耶に連れられてダイニングルームに入ってきた。
「早く席に着きなさい」と達也。「みんな待ってたんだぞ。」
勝則は伽耶に促されて、伽耶と沙耶の間の椅子に座った。
「さあ食べましょう。」と真知子。それぞれが、いただきますと言って箸を取った。
「勝則、伽耶と沙耶の部屋で寝るのは今日だけにしなさい」と達也。「明日からは自分の部屋を片付けて寝るんだ。」
「だめよ、お父さん」と伽耶。「しばらく勝則兄さんを私たちの部屋で世話するから。」
「沙耶にはさっき話したが、同じ部屋で寝るなんて駄目だ。」と達也。
「お父さんは私たちが兄さんの面倒を見ることを認めてくれたでしょ」と伽耶。「今更だめだなんておかしいわ。」
「年頃の兄妹が一緒の布団で寝るなんて、いくらなんでもおかしいでしょ」と真知子。
「兄さんを放っておけないわ」と伽耶。「お母さんは心配じゃないの?」
「もちろん心配よ」と真知子。「だから勝則に合った学校を探しているのよ。」
「もう見つかったよ」と達也。「山奥にある全寮制のオルタナティブスクールだ。勝則が男らしい男になれる場所だ。」
「お父さん、本気で言ってるの?」と麻衣。「勝則がそんな場所で生活できるわけがないでしょ。お母さんは賛成なの?」
「わからないわ」と真知子。「それが勝則のためになるならいいと思うけど。」
「兄さんはどうなの?」と沙耶。
「もちろん、全寮制の学校なんて行きたくないよ」と勝則。
「勝則、昼間に言ってたことと違うじゃないか」と達也。
「気が変わったんだ」と勝則。「昼間はどこにも行くところがないと思っていたけど、今はここにいたい。」
「そんなに妹のベッドがいいのか?」と達也は怖い顔をした。
「うん」と勝則。
達也は顔を真っ赤にして立ち上がった。「ちょっとこっちに来なさい!」といって、向かいに座っていた勝則につかみかかった。テーブルが大きく揺れて、コップが倒れかけた。
伽耶と沙耶が勝則を両側から庇い、真知子と麻衣が達也を抑えた。
「父さん、ひょっとして変な想像してるの?」と言って伽耶は軽蔑した顔をした。「いやらしいわ。」
「伽耶、やめなさい!」と真知子。
「勝則、隣の部屋に来なさい!」と達也が勝則を連れ出そうとした。
「だめよ」と沙耶。「兄さんのことは私たちに任せてくれるって約束したでしょ。」
「そんな約束は無効だ」と達也。「こんなバカげた話は父親として受け入れられん。」
「横暴だわ」と伽耶。「私たちも父さんの考えを受け入れられないわ。」
「お前たちはもう黙ってなさい!」と達也。「もう決めた。勝則は、すぐに全寮制の学校に入学させる。明日のうちに引っ越しの準備をしておきなさい。」
「そんなこと、いくらなんでもひどいわ!」と麻衣。「私だって勝則が帰ってくるのをずっと待ってたのよ。それなのに……。」
「明日話せばいいだろう」と達也。「とにかく、もうここに勝則をおいてはおけん。」
「それなら、私たちにも考えがあるわ」と沙耶。
「なんだ、父親に逆らうのか?」と達也。
「そうよ」と沙耶。「家族の気持ちを踏みにじるような人を父親とは思わないわ。」
「どうとでも思えばいい」と達也。「おまえたち子供に何ができる。」
「とうとう本音が出たわね。」と伽耶。「私たちのことなんて、好きにできると思ってるんでしょ。」
「いい加減にしなさい」と達也。「お前たちはまだ未成年だ。お前たちのことは、私たち親が決める。」
「従わないわ」と沙耶。「理不尽すぎるもの。」
「お前たちは好きにしたらいいだろう」と達也。「とにかく、勝則は明日引っ越しさせる。」
「そう、なら好きにするわ」と伽耶。
「何をする気なの?」と真知子。
「私たち、兄さんを連れて出ていくわ」と沙耶。
「発信機ですぐ場所が分かる」と達也。
「家出するためじゃないわ」と伽耶。「兄さんと月見橋から飛び降りるつもりよ。」
「冗談はよしなさい!」と達也。
「もう遺書は用意してるわ。お父さんとお母さんの誓約書と一緒に」と沙耶。「お兄ちゃん、こんなことになってごめんね」と沙耶は勝則の背中をさすった。勝則は沙耶の胸にすがって子供のように泣いた。
「あなた、少し頭を冷やしなさい」と真知子。
「私も勝則の味方よ」と麻衣は達也に向かって言いながら、勝則と達也の間に立った。
達也は真知子に促されて部屋を出て行った。麻衣は勝則の髪を何度か後ろから撫でると、何も言わずに部屋を出て行った。
沙耶と伽耶は料理を皿にのせて自分たちの部屋に持ち込み、勝則に食べさせた。
「何も心配ないから、兄さんはすぐに寝て」と沙耶。「片づけは私がやっておくから。」
「兄さん、疲れてるでしょ」と伽耶。「そのまま横になって。」
勝則は何も言わず、布団の上に倒れた。伽耶が布団をかけ、上から覆いかぶさるように添い寝をした。伽耶は勝則の髪をなでた。
「兄さん、寝る前に少しだけ聞いて」と伽耶が勝則の耳元でささやいた。「もし離れ離れになっても、私たちは兄さんのことを待ってるわ。だから必ず会いに来て。忘れないで、私たちは兄さんのことが大好きよ。いつまでも待っているから。」
「うん」と勝則はうなづいた。
「おやすみ、お兄さん」と伽耶。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます