最強カリスマ冒険者、パパにジョブチェンジ!

帯刀しぐれ

1話『Sランク冒険者、その実態は……!?』


「はァァァァッ!!」


ゴブリンに向けて大剣が振り下ろされる。血飛沫をあげながら絶命するゴブリンを尻目に男ーールーク・ドラゴンハートは大剣を軽々と肩に担いだ。


「リーダーぁぁっ!!こっちもお願いしやすっ!」


ゴブリンの大軍に襲われ、悲鳴を上げているパーティーメンバー、ダグを見て、ルークは大剣を構え直した。


「ちっ……全く、仕方ねぇな!」


ゴブリンの群れに突撃すると、大剣を勢いよく振り回し、瞬く間に全匹を蹴散らした。


「ほら、さっさと立て。そんなんじゃ、いつまで立っても強くなれねぇぞ」

「うっ……すんません、リーダー……」


そんなやりとりをしていると、森の奥で戦っていたパーティーメンバー達が叫んだ。


「リーダーぁぁ!!ワイバーンの群れがこっちからやってきます!」


その声を聞いて、ルークは無言で大剣を構え直した。ゆっくりと息を吐き、戦う姿勢を見せるルークにメンバー達は言う。


「リーダー、今は一旦逃げましょう!そんで、一回体制を立て直して……!」

「逃げる、だぁ?お前らはいつからんな腰抜けになったんだ?」


ちっ、とぶっきらぼうに舌打ちするルークは

腰が引けているメンバーたちにこう言い放った。


「まぁ、いい。お前らはその活躍をそこで指を咥えてみてろ。ーー俺が全て倒す」

「なっ……そんな事できませんよ。俺たちも戦います。弱い俺たちを見捨てないでくれた、

リーダーのためなら……!」

「ふっ。そういうと思ってたぜ?」


ルークはメンバー達を牽引するように一歩、前に出た。

大剣を振り上げ、一気に特攻する。


「オラァァァァァァァ!!いくぞ!!」

「おおおおおお!!」


ーーー

ーー


「はぁ、はぁ、勝ちましたよ……」

「死ぬかと思ったぁ……」


血塗れでへたり込むメンバーたちに、ルークは呆れたように溜息をつき。


「これくらいでへばってるようじゃまだまだだな」

「て、手厳しいっ!」

「ま、だが……仲間のために戦う選択を選んだのは、評価してやる。その心意気を忘れんなよ」


くしゃくしゃとダグの頭を撫でてやる。

ダグは顔を輝かせ、「リーダー……!!」と

抱きつこうとする。


「ええい、はなせむさ苦しい!」

「俺、俺、感激っすーー!」

「リーダーはツンデレなんだよね〜」

「うるせぇ、ぶっ殺すぞ!」


そんなじゃれあいを遠目で見ながら、パーティメンバー三人、ロイ、カイ、ライの三人は囁きあっていた。


「やっぱ、リーダーカッコいいよな……」

「おいらも褒められてー!」

「黒髪に、漢前な顔立ち、黒い眼帯……圧倒的な戦闘力に、皆を率いるカリスマ性……」


うっとり、と言った様子でルークを眺める三人。その瞳には間違いなく憧れと尊敬が入り混じっていた。


「さっすが、ドラゴンをワンパンで倒しただけあるよな!」

「おいらは岩盤を素手で砕いたって聞いたぜ!」

「悪徳貴族を根絶やしにしたとか……」


ロイ、カイ、ライは口々に言い、ルークたちを眺める。


「おい、1秒以内に離さなかったら殺すからな!いーち、ぜろーー」

「ええっ!ちょっとま………ぎゃぁぁぁ!」


ダグに向かって大剣を振り下ろし、間一髪で免れたものの、近くにあった巨大な岩に直撃する。

ぴしりとヒビが割れ、一気に崩れていく。

その欠片をただつまみ、三人は冷や汗を垂らす。


「リーダーって、結構ツンデレなんだよな……」

「ツンデレで片付けていいものなのか、あれ?」

「ツンツンツンツンツンツンだろ」

「なんか言ったか?」

「ぎえぇ!!」


いつのまにか眼前に迫っていたルークに、ロイが話題を変えるように慌てて言った。


「あっ、そうそう、嫁さんとの結婚生活はどうですか?順調ですか?」

「は?なんだよいきなり」

「ちょっと気になって!どうなんですか?」


気になっているのは本当だ。

この最強カリスマ冒険者がどんな風に妻と子供と接しているのか……やはり剣を習わせているのだろうか。びしばし鍛えているのだろうか。


「別に。順調だぜ?」


にひっ、と凶悪な笑みを浮かべたルークに、三人は思う。


(やばい……どんな鍛え方してるんだ……!)

(全身傷だらけで素振りさせてるのかも……この人ならやりかねない……)

(カリスマに育て上げる気だ………)


失礼なことにそれが共通認識だった。

優しいのは理解しているが、その分だけ自分にも他人にも厳しい事を知っているから。


「じゃ、俺はそろそろ帰らなきゃな。……子供達が待ってるからよぉ……」


またもや凶悪な笑みを浮かべたルークに、ロイ、カイ、ライは脂汗を垂らしつつ見送ったのだった。


ーーー

ーー

ーー


「パパのおかえりだぞーーーっ!!」


ドアを開けて早々、そんな事を叫びながら子供たちの的に突撃する、ルーク。


「わっ、パパ!おかえりなさいです」

「おかえり。父さん」


微笑みながら抱きついてくる子供たちに、ルークはだらしない笑みを浮かべる。


「パパ、今日も血がいっぱいです!心配です……」


上目遣いで見上げてくるのは癖っ毛な黒髪を

ボブにして白いリボンをつけた3歳くらいの

少女、リリー。


「父さんのことだから、今日も無茶したんだろ?父さん、身体頑丈だから別に心配しなくていいよ」


つっけんどんなことを言うのは桜色の髪に、青い瞳を持つ6歳くらいの少年、イヴ。


「リリー、心配してくれてありがとな。イヴーはもっと心配してー!」

「ああ、もう、鬱陶しい!本読んでるんだから抱き付かないでよ!」

「やめなーい!」

「やめなーい、じゃねえよ!」


すりすりと頬擦りをするルークに、台所から一人の25歳ほどの女性が出てきて言った。


「ふふっ、イヴが素直じゃないのはお父さん譲りね」


腰まで伸ばした桜色の髪に、透き通るような青い瞳の美人、ジュリア。

言うまでもなく、ルークの妻である。


「ジュリアもただいま!おかえりのちゅーは?」

「子供達のいる所ではやりませんよ。それより手を洗って靴下脱いで、お風呂に入ってくる事。そしたら夜ご飯ですよ」

「はーい!」

「靴下はちゃんと裏返してくださいね」

「はー……「あと身体はよーく洗ってきてくださいね。血塗れで臭いですから」

「…………はい」


臭いと言われ、しょんぼりしながら風呂場に向かうルーク。


ともあれ、ドラゴンハート家の日常はこんなもんである。

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