祠壊しはソレが全て

風宮 翠霞

それが目的なんだけど?

 ガシャンッ!!


 私は、赤い字で『封』と書かれた札が五枚貼ってある、愛用のバールを頭上に振りかぶってから重力に従って振り下ろした。


 そうすると当然、大きな音がして、近くの村の神をまつってるとかいう逸話いつわがあるほこらこわれる。


 つぶれた祠の扉から、黒いモヤのような“ナニカ”……祠に祀られていたものが、壊れた祠かられ出してくる光景が、私にはわかった。

 背筋に冷たいものを押し付けられたような、ゾクゾクとした感覚におそわれる。


 ああ、やっぱ祠壊しはやめられない……!!


「祠を壊すなんて……君、死ぬぞ」


 通りがかりかなんか知らんが、見知らぬオッサンが話しかけてくる。


 いや、うっざ。


 その男は、喫煙者きつえんしゃに厳しい今の世で、珍しくタバコを吸っていた。


 うわ、受動喫煙しちゃったよ。まだ未成年なのにさ。


 そんな事を考えながら、私は口元に笑みを浮かべながら振り返った。


「いや、それが目的だけどなにか?」


「はっ……?」


 あ、タバコ落ちた。


 間抜けな顔だなぁ……。


「いや、だからぁ!! 祠を壊してココの“ナニカ”殿どのに殺してもらう事が目的で、祠壊しやってるんだって!!」


 まぁ、今んとこ五回失敗してるけどね〜?


 私がそう言うと、何故かオッサンがフルフルと震えながら私を指差す。

 おいオッサン、人のこと指さしちゃいけないって習わんかったんか?


「黒い猫耳パーカーと、同色のロングスカート……お前っ!? ま、まさか……最近この近辺で祠を壊して回ってる【迷惑少女】って、お前の事か!?」


 チッ、無能オジが。私の顔をもっとちゃんと見ろ。白い肌に黒曜石のような瞳の、超絶美少女だろうが!!


 おうおう、そうこうしてる内に、祠から黒い“ナニカ”がい出てきてるぞ〜!!

 うんうん、いい感じに怒ってるねぇ〜? 今回は成功するかなぁ?


 よしっ、ここらで震えるオッサンに、私の名前を知れる名誉めいよを与えてやろう。


「迷惑少女かは知らんけど、祠を壊したんは私だよ〜!! ども〜。初めまして、御影みかげ千秋せんしゅうっていいます〜。御影家の次女だよ!!」


 御影家とは、業界内では有名な名家なんだよ〜?

 安倍晴明あべのせいめいで有名な安倍家とは違って、一般的には知られてないけど……代々続くはらい屋一族。そこの次女やってます〜!!


 オッサン、マジでモブ顔だけど祠の危険性知ってるなら、業界の人間だよね?


 だったら、御影の名前も知ってるはず〜!!


「な……なんだって、祓い屋の人間が神をしずめている祠を壊したりすんだよ……?」


「え? やだな〜オッサン!! そんなの、私が御影家大っ嫌いで、家に出来るだけ大損害与えて死にたいからに決まってんじゃん!! 祓い屋の人間が、大きな霊障れいしょうを起こして周りに被害を出しながら死んだら、家には大ダメージでしょ?」


「それだけの理由で、近隣きんりんの人間に被害を出そうとするなよ!! ここに祀られてるソレは、一応上級の土地神だぞっ!? いくらここが山奥とはいえ、近くの町五つからは死人が出てもおかしくない被害が出ると予想されるんだぞっ!? 仮にも祓い屋の一員なら」


「知らんよ」


 オッサンの言葉の途中だが、さえぎった。

 最後の言葉だけは、私には耐えられないから。


「オッサン、それだけは言わないで? 私は、祓い屋になりたくてなった訳じゃないんだから。私は祓い屋になったのは、それしか選択肢がなかったから。祓い屋としての自覚なんて、微塵みじんもないよ」


「っ〜〜!?」


 ごめんね、オッサン。ちょっとかも。

 あ〜、ダメダメ。感情的になると、ついつい力が溢れて漏れちゃうんだよね〜……常人相手だと傷つけちゃうから、気をつけないと。


「……だからって、周りを巻き込むなっ!! そもそも、土地神級の奴を祀った祠ばかり狙わんでもいいだろ!?」


 ん? このオッサン、もしかして大分良い祓い屋か?


「ダメ〜!! 本家が気付くくらいの強さがないと、意味がないでしょ?」


 オッサンもさぁ、実の子供を悪霊の巣窟そうくつに放り込むような人間が蔓延はびこる家なんて、潰した方が世の為だと思わない?


 黒いモヤを見つめながらオッサンに問いかけると、返ってくるのは沈黙ちんもく


「あ〜そりゃ、どっかの分家ぶんけの分家くらいの家格の人間が、業界の重鎮じゅうちんに関して安易に『潰れればいい』とか言えないよね。いいよ、聞くだけ聞いて? 死ぬ前にさっさと話すからさ」


 うん、ありがと。

 実はね? 私、本当は、四女なんだよ。

 でも、姉が三人死んだから、次女になったんだ。

 姉達は、悲惨ひさんだったよ……悪霊にわれて、泣き叫びながら死んだ。

 可愛い妹だって、弟だって、兄だって、みんなみんな犠牲ぎせいになった。


 悪霊の巣から生還せいかんしたって、親戚のジジイに嫁がされるのが嫌で、自ら命を絶った妹だっている。「女は、家の為に親の言うところへ嫁げ」なんていう事が当たり前のように言われる、時代錯誤じだいさくごな家なんだよ。令和の世とは思えないよね〜……。


「ま、兄弟の中でも一番力が強い私は、家が祀ってる守神に捧げる生贄いけにえになれって言われたから、こうやって無関係な神に殺してもらおうと頑張ってる訳ですが〜? 

 全っ然襲ってくれないんだよね〜?」


 あ、ほら。今回も逃げようとしてるし。

 まぁ、流石に周りに被害出して自分は死なないっていう結末は御免ごめんだから、封印させてもらうけどさぁ……。


「これで、六回目の失敗かぁ……」


 一回目は、N村の隅にある、大妖怪を封印した祠。


 二回目は、S市の真ん中にある、怨霊おんりょうを封じたくい


 三回目は、A町の近くの山にある、山の主の居住地となっている祠。


 四回目は、I村で祀られていた神社の奥にある、とある神の分霊ぶんれいが宿った神木しんぼく


 五回目は、H街の路地の奥にある、子を見守る地蔵じぞう


 そして六回目の今回が……B村の入り口近くにある、土地神を祀った祠。


「も……もうやめろって!! いつか、本当に死ぬぞ!!」


「……だから、私は死ぬのを目的にやってるって言ってるでしょう? 祠を壊す理由なんて、ソレが全てだよ」


 さぁて、次はどこの祠を壊すかなぁ?


 私は、土地神の封印に使った『封』と書かれた札を、愛用のバールに貼り付けながら……祠に背を向けて歩き出した。




 ◇




 ガシャンッ!!


 私は、赤い字で『封』と書かれた札が六枚貼ってある、愛用のバールを頭上に振りかぶってから重力に従って振り下ろした。


 今回こそは、ちゃんと死ねるかなぁ……?


 そんな風に、考えながら。


 私は今日もまた、祠を壊した。


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祠壊しはソレが全て 風宮 翠霞 @7320

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