最強の座を降りた魔王様は転生者たちの混沌を楽しみます〜チートofチートの転生者相手にどうこうしようなんてもう遅いので〜
画竜点睛
第一話 敗北と目覚め
【
ある時このヒストコアの地に生まれ、魔術という
それが俺。名前はギルギス・バスタード。
魔物の王だから魔王。結構安直な二つ名だがこれは勿論俺が付けたわけではない。王を目指していた訳でもないのだが、事実魔王城と呼ばれる城に篭って王座で踏ん反り返っている現状を見るとさほど間違っている訳でもないのかもしれない。
そんなこんなで俺は人類様に結構そこそこ嫌われてしまったらしく、いつしか勇者と呼ばれる
「おいレヴィ。本当に一人で来るんだろーな?」
俺は玉座の隣に佇む女の方を向く。胸元や太ももを露出させ涙ぼくろのある鋭い眼光でこちらを睨む(本人は睨んでるつもりはないらしい)その美貌の女を見るとちょっとだけ気分がのる代わりに寒くねぇのかなとムードもへったくれもない感想を抱いてしまう。
レヴィ・バスタード。俺が肉体を改造して魔力効率と術式への適当能力を底上げした魔女と呼ばれる魔物である。見た目は俺と同じく人間と全く変わらないので人間社会に送り込んでいたが、いつの間にかどこかの国の専属魔術師になってた優秀な部下だ。だから人間社会に関してはこいつの方が詳しかったりする。ちなみに苗字が同じなのは俺が適当につけた結果である。
「えぇ。どうやら一人で四天王(自称)と魔王軍(自称)たちを殲滅してこの魔王軍を目指しているとの話です」
「ふーん。あいつらも弱くはないはずなんだけどなぁ。
「何やら特殊な
特殊ということは
仕方ないので俺は
ちなみにレヴィは俺の質問に答えた後にどこかしらに逃げやがった。俺が負ける想定じゃなくて俺の全力に巻き込まれないためだろうが配下としてそれってどうなんだろう。
*
さて、噂の
魔王城には多くのトラップと数多の厳選した魔物たちが常備している。流石にそれで止められるとは思っていなかったが小手調べにはちょうどいいだろうと思っていた。ならばその不法侵入者はどんな手段をとったのだろうか。答えは簡単だ。
「うっそだろ……。城をぶった斬りやがった……」
俺のそこそこかっこいい(主観)の魔王城は綺麗に水平にぶった斬られていた。お陰で室内でも夜空が見えるようになってしまう。星空が綺麗じゃねぇかちくしょう。
俺は慌てて警戒レベルを引き上げる。実際俺もシェルターに籠ってるやつがいたら一発極大魔術をぶち込むから別に理解できないわけじゃないが、逆に言うとコイツは俺と同じことができる強さを持ってるということなのだ。
「ハローハロー。こんばんは。貴方が魔王のギルギスさん? 挨拶しに来たよ」
「へぇ。挨拶にしちゃ随分な所業じゃねーか」
そんでもって、絶対ドアはノックなんてしないで突き破るタイプの来訪者は気楽に片手をあげて左右に振った。まるで本当に深夜に突然やってくる気まぐれな友達のよう(だとしたら被害状況が尋常じゃないが)に。
確かにその男は奇妙な外見であった。右手に片手直剣と左手に大きな盾を持ってるとこまではいい。そこまではまだこの世界の住人であってもおかしくはないだろう。
しかしまず服装がおかしい。こういう時、普通は鎧を着るはずだが軽装の誰か知らんオッサンの半袖を着ていた。そして髪と目の色がおかしかった。その男の髪はこの夜空に似合う黒色で瞳も全てを吸い込むような漆黒だったのだ。どうやらこの外見を見る感じ
「俺の名前は
「そうか。死ね。【
ちょっと急に城をぶった斬られた仕返しをしたくなってしまった。俺の最大火力の魔法をくらいたまえ。生きてさえすればかなり凄いと思うよ。
しかし意地悪で放った一帯を更地にするはずの
「は……?」
男はピンピンしながらこっちを向いて首を傾げる。
「あぁ。ごめん。結構すごい魔術だった?俺は盾で守れる攻撃は大体無効化できるんだ。この
流石にこの事態は理解が追いつかなかった。意味がわからない。俺の最大火力の技だぞ? なんで紙屑を投げられたみたいになんでもないように立ってるんだ?
「【
「ふざけてるだろ」
呟いた瞬間男は無造作に剣を降った。瞬時に術式に魔力を注いで最上級の防御魔術を発生させる。ハニカム型のシールドが俺を覆う。そして、俺の左手が飛んだ。
「ほらね?」
どうやら俺ごときが作り出したシールドなんて豆腐よりも柔らかいらしい。とてもひどい冗談だ。
「えっと、ご紹介が終わったところで俺は貴方を殺さなくちゃいけない。俺が英雄だって証明しなくちゃいけないんだ」
男は先程と同じくニコニコしながら。しかし先程とは違う冷たさと違う熱を持ちながら言った。それは俺には待てない覚悟というやつなのだろう。
世界を壊せるほどの意志を持ちながらそれを実現できない者たちが。
それが世界を渡りこのヒストコアへとたどり着いた
「じゃあね。魔王さん。また会おう」
「あぁ。そうかい。最悪だな。お前とまた会うなんて」
さっきとは異なり男はしっかりと剣を構えて俺へと上段から斜め斬りを繰り出した。その軌道は宙を舞い、俺の体を粘土みたいに切断する。
それに俺はいっさいの抵抗はしなかった。俺の視界がボヤけて光に包まれる。あぁ。ここで諦めちまうのが俺の悪いとこなんだろうなと俺は治すつもりもない自分の欠点を嘲笑した。
*
俺は夢を見ていた。どんな夢を見てたかって? それは勿論あの
そう思いながら顔を歪めた時。俺はベッドから飛び起きた。目の前には鋭い瞳を心配三割驚き七割で見つめるイイ女がいる。
「ギルギス様。ようやく起きたのですね!」
その女(勿論名前はレヴィという)はこちらを覗きながら安堵した表情を浮かべた。
「ギルギス様はあの
「え? マジ?」
状況が理解できない……訳でもない。事実俺は自分自身に保険的魔術をかけていた。それを今まで忘れていたのは秘密であるが、それが発動したお陰でどうにか百年かけて俺は復活できたのだろう。その間待たせてたレヴィには悪いことをした。
しかしそ俺にも理解できないことがある。
「
「えぇ。その通りです」
レヴィは俺の記憶と違わないように神妙に頷いた。
「
まぁそりゃそーだ。
「オーケイ。レヴィ。なんとなく理解はしたぜ。お前にまだ俺に仕える意思があるならもっとこの百年間の事を教えてくれ」
「私はギルギス様に作っていただいた存在です。命の危機がない限りは貴方にお仕えいたしますよ。それで、何をするつもりですか?」
「お前のそーゆー冷徹なとこ好きだぜ。レヴィ。もちろん怪獣大決戦を特等席で鑑賞してやる。世界がどんなふうに転がるのか。のんびりとな」
なんとなくそれが俺の全てだ。確かにそれは欠点なのかもしれないが、最大級の武器にもなる。あぁ。面白くなって来た。そう俺は百年前とは真逆の意味を持ってニヤリと笑った。
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