最強の座を降りた魔王様は転生者たちの混沌を楽しみます〜チートofチートの転生者相手にどうこうしようなんてもう遅いので〜

画竜点睛

第一話 敗北と目覚め

 【魔王ディザスター】。セカイの敵。

 ある時このヒストコアの地に生まれ、魔術という意志力スキルとは別種の世界干渉システムを作り出し、やがて生態系さえも魔物たちにより破壊したのち大陸の半分を支配した存在。

 それが俺。名前はギルギス・バスタード。

 魔物の王だから魔王。結構安直な二つ名だがこれは勿論俺が付けたわけではない。王を目指していた訳でもないのだが、事実魔王城と呼ばれる城に篭って王座で踏ん反り返っている現状を見るとさほど間違っている訳でもないのかもしれない。

 そんなこんなで俺は人類様に結構そこそこ嫌われてしまったらしく、いつしか勇者と呼ばれる討伐隊パーティが組まれるようになってしまった。今の俺はそんな雑魚共を片手で蹴散らしながら(蹴散らすというから片足だろうか。まぁどうでもよいのだが)適当に魔術の研究をする毎日なのである。

「おいレヴィ。本当に一人で来るんだろーな?」

 俺は玉座の隣に佇む女の方を向く。胸元や太ももを露出させ涙ぼくろのある鋭い眼光でこちらを睨む(本人は睨んでるつもりはないらしい)その美貌の女を見るとちょっとだけ気分がのる代わりに寒くねぇのかなとムードもへったくれもない感想を抱いてしまう。

 レヴィ・バスタード。俺が肉体を改造して魔力効率と術式への適当能力を底上げした魔女と呼ばれる魔物である。見た目は俺と同じく人間と全く変わらないので人間社会に送り込んでいたが、いつの間にかどこかの国の専属魔術師になってた優秀な部下だ。だから人間社会に関してはこいつの方が詳しかったりする。ちなみに苗字が同じなのは俺が適当につけた結果である。

「えぇ。どうやら一人で四天王(自称)と魔王軍(自称)たちを殲滅してこの魔王軍を目指しているとの話です」

「ふーん。あいつらも弱くはないはずなんだけどなぁ。転移者ユウシャだっけ? 観測だけはされてる異世界パラレルワールドからの使者」

「何やら特殊な意志力スキルを持つとの事だそうで。くれぐれも油断はしないようにお願いしますよ」

 特殊ということは普遍意志ノーマルスキルでも固有意志ユニークスキルでもないのだろうか。なんにせよ討伐軍パーティで挑んだとしても四天王最弱(自称)にすら敵わない奴らが多い中で単独でこの魔王城まで来れるということはいつもみたいに片手間で相手できるような奴じゃなさそうだ。

 仕方ないので俺は転移者ユウシャとやらを待つために足を組み直した。多少は威厳があった方がいいだろうと思ってのことだ。

 ちなみにレヴィは俺の質問に答えた後にどこかしらに逃げやがった。俺が負ける想定じゃなくて俺の全力に巻き込まれないためだろうが配下としてそれってどうなんだろう。


 *


 さて、噂の転移者ユウシャが俺の目の前にやって来た。どのようにしてここに辿り着いたのか。それをダイジェストでお届けしよう。

 魔王城には多くのトラップと数多の厳選した魔物たちが常備している。流石にそれで止められるとは思っていなかったが小手調べにはちょうどいいだろうと思っていた。ならばその不法侵入者はどんな手段をとったのだろうか。答えは簡単だ。

「うっそだろ……。城をぶった斬りやがった……」

 俺のそこそこかっこいい(主観)の魔王城は綺麗に水平にぶった斬られていた。お陰で室内でも夜空が見えるようになってしまう。星空が綺麗じゃねぇかちくしょう。

 俺は慌てて警戒レベルを引き上げる。実際俺もシェルターに籠ってるやつがいたら一発極大魔術をぶち込むから別に理解できないわけじゃないが、逆に言うとコイツは俺と同じことができる強さを持ってるということなのだ。

「ハローハロー。こんばんは。貴方が魔王のギルギスさん? 挨拶しに来たよ」

「へぇ。挨拶にしちゃ随分な所業じゃねーか」

 そんでもって、絶対ドアはノックなんてしないで突き破るタイプの来訪者は気楽に片手をあげて左右に振った。まるで本当に深夜に突然やってくる気まぐれな友達のよう(だとしたら被害状況が尋常じゃないが)に。

 確かにその男は奇妙な外見であった。右手に片手直剣と左手に大きな盾を持ってるとこまではいい。そこまではまだこの世界の住人であってもおかしくはないだろう。

 しかしまず服装がおかしい。こういう時、普通は鎧を着るはずだが軽装の誰か知らんオッサンの半袖を着ていた。そして髪と目の色がおかしかった。その男の髪はこの夜空に似合う黒色で瞳も全てを吸い込むような漆黒だったのだ。どうやらこの外見を見る感じ異世界パラレルワールドから来たというのは間違いではないらしい。

「俺の名前は千星せんぼし瑛人えいと。あ、でもこっちじゃエイト・センボシって言うのかな? よろしくね。魔王さん」

「そうか。死ね。【究極破壊魔術ラグナロク】」

 ちょっと急に城をぶった斬られた仕返しをしたくなってしまった。俺の最大火力の魔法をくらいたまえ。生きてさえすればかなり凄いと思うよ。

 しかし意地悪で放った一帯を更地にするはずの究極破壊魔術ラグナロクは男の場違いな盾にぶつかった瞬間弾け飛んで消滅した。盾に傷一つつけぬままに。

「は……?」

 男はピンピンしながらこっちを向いて首を傾げる。

「あぁ。ごめん。結構すごい魔術だった?俺は盾で守れる攻撃は大体無効化できるんだ。この特異意志チートスキルってやつで」

 流石にこの事態は理解が追いつかなかった。意味がわからない。俺の最大火力の技だぞ? なんで紙屑を投げられたみたいになんでもないように立ってるんだ? 意志力スキルごときでそんなことができるのかよ?

 意志力スキルとは俺が魔術を生み出す前から、世界が生まれた時から存在したとされる力だ。それは名前の通り意志の力で物理法則を超越する力を発揮する能力である。しかし、それは普遍ノーマルの上の固有ユニークだとしても俺が極めた魔術の足元にも及ばない力のはずなのだ。意志なんて不安定な物で極めた技術に敵うわけがないのだ。ないはずなのだ。であればなんなのだろう。その特異意志チートスキルとやらは。

「【英雄理論ヒロイズム】。それが俺の特異意志チートスキルだよ。効果は色々あるわけだけど簡単に言うと俺の剣はなんでも斬れて俺の盾はなんでも防げる。そんな能力だ」

「ふざけてるだろ」

 呟いた瞬間男は無造作に剣を降った。瞬時に術式に魔力を注いで最上級の防御魔術を発生させる。ハニカム型のシールドが俺を覆う。そして、俺の左手が飛んだ。

「ほらね?」

 どうやら俺ごときが作り出したシールドなんて豆腐よりも柔らかいらしい。とてもひどい冗談だ。

「えっと、ご紹介が終わったところで俺は貴方を殺さなくちゃいけない。俺が英雄だって証明しなくちゃいけないんだ」

 男は先程と同じくニコニコしながら。しかし先程とは違う冷たさと違う熱を持ちながら言った。それは俺には待てない覚悟というやつなのだろう。

 異世界パラレルワールド意志力スキルによって昔から観測だけはされている。しかしその別世界ついてわかっていることは二つしかない。一つは異世界パラレルワールド意志力スキルや魔術は存在しないということ。そして二つ目はその物理法則のみで成立する世界は複数存在するということだ。

 異世界パラレルワールドの数は一つしかないこのヒストコアの世界の軽く十倍はあるだろう。もしかしたら百倍もあるかもしれない。それが意味することは簡単である。存在するはずなのだ。明らかに母数が違うのだから。

 世界を壊せるほどの意志を持ちながらそれを実現できない者たちが。

 それが世界を渡りこのヒストコアへとたどり着いた転移者ユウシャならば俺に敵うはずがない。俺に覚悟や意志の力などないのだから。

「じゃあね。魔王さん。また会おう」

「あぁ。そうかい。最悪だな。お前とまた会うなんて」

 さっきとは異なり男はしっかりと剣を構えて俺へと上段から斜め斬りを繰り出した。その軌道は宙を舞い、俺の体を粘土みたいに切断する。

 それに俺はいっさいの抵抗はしなかった。俺の視界がボヤけて光に包まれる。あぁ。ここで諦めちまうのが俺の悪いとこなんだろうなと俺は治すつもりもない自分の欠点を嘲笑した。


 *


 俺は夢を見ていた。どんな夢を見てたかって? それは勿論あの千星瑛人エイト・センボシとかいうチーターにボコボコにされる夢である。何が悲しくてあんな体験を二度も繰り返さなくてはならないのだろうか。あぁ。またイラついてきた。次に会ったら一発くらいは殴ってやろう。

 そう思いながら顔を歪めた時。俺はベッドから飛び起きた。目の前には鋭い瞳を心配三割驚き七割で見つめるイイ女がいる。

「ギルギス様。ようやく起きたのですね!」

 その女(勿論名前はレヴィという)はこちらを覗きながら安堵した表情を浮かべた。

「ギルギス様はあの始まりの転移者オリジンである千星瑛人エイト・センボシに倒されてから百年間も眠っていたのですよ」

「え? マジ?」

 状況が理解できない……訳でもない。事実俺は自分自身に保険的魔術をかけていた。それを今まで忘れていたのは秘密であるが、それが発動したお陰でどうにか百年かけて俺は復活できたのだろう。その間待たせてたレヴィには悪いことをした。

 しかしそ俺にも理解できないことがある。

始まりの転移者オリジンってなんだよ!? まるで他にも転移者ユウシャがいるみてーじゃねぇか」

「えぇ。その通りです」

 レヴィは俺の記憶と違わないように神妙に頷いた。

千星瑛人エイト・センボシ以降このヒストコアには数年に一度転移者ユウシャが召喚されるようになりました。彼らは一部は各国の重要戦力となり、一部は特異意志チートスキルの力のままに暴れ回っています。おそらく今の台風の目はギルギス様ではなくなっているかと」

 まぁそりゃそーだ。転移者ユウシャ全員があのダサファッション野郎と同じ覚悟を持ってるならば俺にどうこうできる訳がない。にしてもレヴィは変わらず辛辣だけど。

「オーケイ。レヴィ。なんとなく理解はしたぜ。お前にまだ俺に仕える意思があるならもっとこの百年間の事を教えてくれ」

「私はギルギス様に作っていただいた存在です。命の危機がない限りは貴方にお仕えいたしますよ。それで、何をするつもりですか?」

「お前のそーゆー冷徹なとこ好きだぜ。レヴィ。もちろん怪獣大決戦を特等席で鑑賞してやる。世界がどんなふうに転がるのか。のんびりとな」

 それが俺の全てだ。確かにそれは欠点なのかもしれないが、最大級の武器にもなる。あぁ。面白くなって来た。そう俺は百年前とは真逆の意味を持ってニヤリと笑った。

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