皇女様ご一行 オシャンティな別荘に落ち着く
竜の強襲。からの突然の消滅に、コーラルスフィアの地元民も観光客も腰を抜かしていた。
「ごめん遊ばせ!」
「マジごめん遊ばせだろ、俺ら……」
彼らが混乱するのでキューちゃんはいったん引っ込めた。
俺たちはお騒がせな観光客となり、なんか道一つにしても小綺麗でオシャンティな通りを進んで、別荘地ひしめく丘の上へと歩く。
「むふふっ、楽しかったでしゅっ」
「まさかここの人たちも、そこの山の頂上から人が竜に乗って降りてくるとは思わなかっただろうよ」
隣を歩いてくれていたメメさんが、前を歩くミシェーラ皇女の隣に行ってしまった。
メメさんはスキップ。ミシェーラ皇女も弾むような元気な足取りだ。そうしているとまるで姉妹のように見えた。
「去年もあそこの別荘をお貸しいただいたのですが、それはもうかわいらしいお家でして!」
「デカいとか、豪華とかじゃなくて、かわいい……?」
「はいっ、かわいいお家です! この夏は必ずヴァー様をあそこにご招待しなくてはと、その願い叶ってわたくし今テンションがだだ上がり中にございます!」
「いや、さっきからずっと上げっぱじゃなかったかな……」
少し進むと、区画・別荘街とでも呼べる場所にたどり着いた。その辺りまでやってくるとますますオシャレで、花の木の街路樹が綺麗で、道行く人たちはいかにも金を持っていそうな雰囲気だ。
当然、俺たちみたいな学生は見あたらなかった。
「あっ、ありました! あそこですっ、あそこがリンドブルム家に縁深しき名門貴族様の、かわいい別荘ですっ!」
かわいいと言うものだから、壁がピンクで屋根が赤い、なんだかんだデカい別荘を想像していた。
しかしこうしてやってきて見ると、俺の想像よりもずっとその建物は小さかった。
壁は白、屋根は青、二階建て。庭は広いが建物はこぢんまりとした、なんかこうちょうどいいサイズの別荘だった。
華美でないのもいい。それに落ち着いていて、とても過ごしやすそうだった。
「ようこそ、わたくしの城へ」
「借り物だろ。いや、でも、なかなかいいじゃん。確かにかわいい家だ」
「この夏はわたくしとメメとここで遊び倒していただきますっ! ご覚悟を!」
「特別に遊んであげるでしゅよ。メメにくっつかれて、鼻息フンフン荒くしてたヴァレリー?」
「まあっ、そんなことがっ!?」
「姫様、ヴァレリーはやっぱりエッチでしゅ。お部屋には鍵を閉めることを推奨するでしゅ」
軽く流して別荘の中に落ち着いた。
1階の部屋は俺。2階の部屋はミシェーラ皇女とメメさんの相部屋。
夜中に忍び込もうとしたら階段が鳴って気付かれる、妥当な部屋割りだった。
メチャクチャな登山。登山というかバトル付きのフリークライミングを乗り越えて、なんかもう昼間からお疲れだ。俺は部屋のベッドでしばらく休んだ。
「ふぅ…………あ、そうだ、サモン・みんなっ!」
それからみんなを召喚した。
まおー様がポテッとベッドに落ちて、ワンコがクルリと回って着地、キューちゃんは俺の胸に体当たりを仕掛けてきた。
「へっ、わけーのにー、だらしねーなー?」
「こっちは崖登らされた後なんだよ……」
「しょうがねーしー、ぽいんっぽいんっ、してやんよ。せなかむけて、ねろー?」
「アオォンッ!」
俺よりミシェーラ皇女に懐いているガルちゃんは、部屋のドアノブにしがみ付いて、アグレッシブに真のご主人様のいる2階に駆けていった。
キューちゃんは昼寝にするようだ。俺の背中の上で、まおー様が『ぽいんぽいんっ』とはねてくれた。
「あーー……気持ちいい……寝そう……」
「そーは、とんやが、おろさねーぜ、べいべー」
「え、なんでだー?」
「すぐわかるしー」
少しすると階段が鳴った。
ミシェーラとメメさんがガルちゃんを連れて部屋にやってきた。
「まあっ、おやさしいのですね、まおー様!」
「へっ、しゃてーおもい、だろー?」
「ふふっ、そうですねっ。あ、ヴァー様、そろそろ海に参りましょうか」
「えっ、もう……っ!?」
今日はもう疲れたし休みたい。
そう口にする権利は俺にはないようだ。
「さあ行くでしゅ、姫様のお言葉は絶対でしゅよ!」
メメさんの超やわらかい手に引っ張られて、ベッドから立ち上がった。
現状、この2人にフィジカル面では勝てそうもない。あの登山――つーか遭難で思い知った。
「わたくし、こんなこともあろうかと、このような物をご用意いたしました!」
「うげ……っ」
今日は浜辺でまったりゴロゴロコースを希望したかった俺の前に、ビーチバレーボールが現れた。
ファンタジー世界なのになんで存在するの【ポリ塩化ビニール】!? とか思っちゃいけないよ、君。だってここは美少女世界、この辺は元よりゆるゆるだ。
「姫様、ヴァレリーは休みたそうでしゅから、メメが引っ張り回してあげるでしゅよ」
「なんでそーなるよっ!?」
「はいっ、わたくしがヴァー様を鍛え上げてみせます! 差し当たって本日は、わたくしと浜辺でガチバトルをよろしく願いいたします!」
ビーチバレー。海遊びの中でもむっちゃ体力使うやつ。
ゴロゴロしていたいけど、誘われてしまったものは仕方がない。
「よしっ、じゃあ行くか!」
だるいけど、2人の水着を拝むためにもこのイベントは回避できない。
ミシェーラ皇女はボールを上に投げてクルリと回り、元気はつらつにポーズを決めた。
「手加減いたしませんわっ!」
「ならこっちは魔法使うわ」
「ダメです、それは反則です!」
「なんでだよ……。著しくフィジカルお化けどもに有利な条件提示しやがって……」
俺は涼しくて快適な別荘を出て、ギラギラとした日差し降り注ぐ外に出た。……当然、ここからは水着で。
俺はこれでも青少年だ。同い年の女の子の水着が気にならないと言ったら嘘になる。
原作シナリオ通りの水着か、あるいはそれ以外となるのか。
どちらにしろ楽しみで楽しみで、俺は別荘の軒先でニタニタと笑って近隣セレブに怪しまれてしまったりしたのだった。
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