・悪役令息 竜とロボを引き連れて英雄となる

 スロープ道の最後に到達すると、職員権限でカテドラルと分棟1階を繋ぐ魔法の扉を開放した。


「標的発見。ヴァレリウス様、殲滅の許可を」


「許可する。ルートは先述の通りだ、モンスターを片付けながら、俺に付いて来い!」


 魔法兵を裏世界に連れ込むことは出来ない。デカ過ぎて適切な角度からのエスコートが不可能だった。


 なので俺たちは分棟東口を出る。

 そこからアビストロルやアビスゴブリン、得体の知れない死霊系だらけの東回廊を南に進む。


 スラスター搭載型の軽量化魔法兵は、どんな相手だろうとその突撃力と破壊力で薙ぎ倒し、俺のために道を拓いてくれた。


 魔法学院の周囲には高い塀がある。

 そのため敵は南側の正門からの進入がほぼ全てのようだ。

 つまり進めば進むほどに、敵の密度が跳ね上がっていった。


 回廊を進み、本校舎南側に回り込んだ。

 正門と正面玄関を繋ぐ並木道は、突撃を仕掛けるモンスターたちで密集状態になっている。


「あっっ!? お、おい、あれを見ろっ、あれは魔法兵だっ!! ヴァレリウス先輩が魔法兵を連れて帰って来てくれたぞ!!」


 屋上の連中が俺たちの姿に気付いた。

 一年生を見張りに使う。そう提案したのはそういえば俺だった。


「おお、魔法兵っ、本当に魔法兵だっ!! アイツやりがやった!!」


「ヴァレリウスッ、エントランスホールのやつらを援護してくれっ、押し込まれているっ!!」


 屋上側でも死霊タイプとの交戦が始まっていた。

 ターンアンデットでスッキリしたいところだが、使ったらまた力が抜けて動けなくなるだろうか。


 と、なればここは。


「召喚!! キューちゃんっっ!!」


 我らがライトニングドラゴンの力を借りよう。


「ギャォォォーッッ!!」


「キューちゃんっ、あの並木道に向けて【雷撃の嵐】っっ!!」


 ライトニングドラゴンは戦闘機のように空を上下360度の大回転で飛び回ると、マスターの命令に従って、チャージした【雷撃の嵐】を並木道にぶっ放した!


 渦巻く雷が駆け抜け、範囲必中攻撃がモンスターの恐ろしい大強襲を一網打尽にした。


「ギュルゥゥゥーッッ♪♪」


「なっ、なんだあの金色のドラゴンはっっ!?」


「あ、あんなに強い魔界の怪物どもが、一瞬で全部、黒焦げに……」


 キューちゃんの雄志に屋上の連中は度肝を抜かれた。

 我ながらこれは反則だ。やはりライトニングドラゴンの【雷撃の嵐】はバランスがおかしい。


「強いっ強いっ強いっ、あのドラゴン、いくらなんでも強過ぎるだろ!!」


 キューちゃんが作り出した焼け野原を抜け、俺たちはようやく正面昇降口前に到達した。

 引き続き戦闘機のようにキューちゃんは上空を飛び回り、飛行タイプの死霊系をその翼で斬り裂いていった。


「キューちゃんっ、これを受け取れ!!」


 破損すれば本校舎ごと吹っ飛ばしかねない超危険物【メギド・クリスタル】を天に投げた。キューちゃんは華麗にそれを足で掴む。


「我がライトニングドラゴンよっ、それを敵の中心に落として来いっ!! あ、マジでそれヤベーから、超高いところから落とせよ?」


「ギュルゥゥーッッ♪」


 正門の彼方には、無尽蔵にも見えるモンスターの軍勢がひしめいていた。

 俺たち人間はさながら、アリの巣の前に落とされた砂糖菓子のようなものだった。


「お帰りなさいませ、ヴァー様っ!!」


「よくやったでごじゃりますヴァレリーッ、危うく前線が崩壊するところだったのでごじゃるよ!!」


 昇降口の敵を蹴散らし、ミシェーラ皇女とメメさんが合流してくれた。

 ライトニングドラゴンの姿が遙か遠くなってゆく。

 天空から見ると、敵の中心はそれだけ遠い場所にあるのだろう。


「あ……!」


 そのライトニングドラゴンから『キラリ』と輝く何かが落ちた。

 するとまもなくして、大量破壊兵器という表現が適切となるほどの規模の、閃光と大爆発が引き起こされた。


「ピ……ピェェェェーッッッ?!!」


「メメッ、掴まって!!」


「姫しゃまぁぁぁーっっ!!」


 あまりに強烈な爆風に、遠方の俺たちまで吹き飛ばされそうになった。

 ミシェーラ皇女がメメさんの手を取り、俺がミシェーラ皇女の背中に手を回して屈ませた。


 メギド・クリスタルの爆発は、地上の塵を舞い上げてキノコ雲を形成していった。


「ギュルゥゥーッッ、ギャウッギャウッ、ギュールルゥゥッッ♪♪」


 楽しそうなのはB29のごとき黄金のドラゴン、キューちゃんだけだった。


「お見事だ、キューちゃん。一端、召還解除で温存させてもらうぜ」


 キューちゃんは輝く星となって、召還者である俺の中に戻った。

 敵影は――まあないこともないが、綺麗さっぱりだ。

 突撃は止まり、やつらは撤退を始めた。


「ウオオオオオーッッ、やったああああーっっ!!」


 静まった世界の中で、誰かが独りそう叫んだ。

 すると一斉に全校生徒が歓声を上げて、本校舎中が激しい興奮に包まれた。


「ヴァレリウスッッ、お前、すごいよっっ!!」


「魔法学院最強は間違いなく貴方よ!!」


「ヴァレリウス先輩と一緒ならきっとなんとかなる!! なんとかなるよ、みんな!!」


「ちょ~~っっ、カッコイイですっっ、先輩!!」


 想定を越えるド派手な結果となった。

 屋上や窓、昇降口から顔を出した学生たちに、俺は腕を上げて見せた。


 別に名誉が欲しいわけではない。

 ヒーローになりたいわけでもない。

 俺の狙いは主人公となって、シナリオを破壊することだ。


「ああ、きっとどうにかなる!! 一緒に力を合わせて、がんばろう!!」


 俺は一学期のラストエピソードで、主役となることに成功した。



 ・



 それからずっと、ずっと、長い籠城生活が続いた。

 モンスターたちが目の前の砂糖菓子を諦めることはなく、やつらは断続的に襲撃と撤退を繰り返すようになった。


 それにより戦闘不能となる負傷者が何人か出たが、今のところ死者は1人もなく、戦闘不能者たちもいずれ復帰可能な怪我で済んでいる。それは軍用魔法兵【FM9-Rp】が最前列を受け持ってくれているのも大きかった。


 あの戦いの後、俺は魔法学院の皆に認められた。

 行動と功績、結果をあの『2-A』の代表まで認めてくれるようになった。


 そこには1日に2回『タァァァンッアンデットォォォォッッ!!!』と屋上から両手を逆手にして叫んで、死霊系を根こそぎ消滅させていたのもあるのだろう。


 憧れの目がヴァレリウスというサブキャラに集まった。

 それは嫉妬の目を増やすことにもなったが、そんなものを気にしてなどいられない。


 1人も欠けずに生き残る。

 そしてその結末をもって、俺が一学期の主役となる。

 そのために俺は夜のないこの世界で奮闘を続けた。


 自腹を切って備蓄した食べ物や生活雑貨を放出し、彼らの心を買った。

 心を買うなら今が底値だ。生還すれば貴族階級父兄からの返礼も期待出来る。この投資には何の損もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る