・犬型テイムモンスター 3分で裏切る

「キュゥーンッ♪」


「ああああーっっ、ずるいでごじゃります、姫様ぁぁぁぁーっっ?!」


「残念でしたーっ、早い者勝ちでーすっ♪ ガルグウォーン、私が貴方のママよー♪」


「ま、百歩譲ってガルちゃんだな……」


「ヒャンッ!」


 ガルちゃんはミシェーラ皇女の胸に甘えながら、主人に勇ましく鳴いた。

 テイム成立らしい。わんこの右前脚と、俺の右手首が光の模様で繋がれた。


 基礎能力値ステータスの共有により力が俺の中に流れ込み、身体が羽のように軽くなった。


―――――――――――――――――――――

【通知】

 ヴァレリウスは【魔法:ターンアンデット】を体得!!

 まおーは【戦技:ホーリークロー】を体得!!

 キューは【戦技:ホーリークロー】

 ガルは共有可能な全魔法、戦技を体得!!

―――――――――――――――――――――


 ターンアンデットはプリースト系上位のみが使える花形スキルだ。

 死霊系にのみ有効で、その力は超広範囲に及ぶ。格下なら一撃。少数相手には燃費がすこぶる悪い。


 ガルちゃんにアイデンティファイをかけた。


――――――――――――――――

【名称】ガルちゃん

【種族】大狼

【段階】ミニ・マーナガルム(聖)

【能力】力25魔5耐7速99運35

【戦技1】ホーリークロー

【戦技1効果】威力32・命中90%

       魔族、死霊、闇属性特効

【解説】月が大好きなミニ狼

    満月の日は遠吠えをせずにはいられない定め

――――――――――――――――


 以前にも触れたが、ステータスの25%が俺たちの間で共有される。

 これでもうシャーロットに鈍臭いとは言わせない。

 俺はこの一瞬で【速+25】の補正を得た。


「ほわぁぁぁっっ、ふわふわでしゅぅぅーっっ♪」


「ヴァー様っ、一生のお願いですっ!!」


 こっちがステータスやスキルのことばかり考えていると、ミシェーラ皇女がガルちゃんをメメさんの胸に預けた。

 彼女はかしこまったように姿勢を整え、真剣な目で俺を見た。


「たまりませんっ、たまらないのです! だからどうかこの子を私たちに飼わせて下さいっっ!!」


「え……ええええーー……」


 俺も愛でたい。懐かせて芸とか仕込みたい。ごすずんと慕われたい。一緒に散歩とかしたい。


「えーじゃありませんっっ、下さい下さいお願いします、私たちに下さいっ!!」


「あいっ!! 刺し殺してでも奪い取るでしゅ!!」


「はいっ、私も決裂次第では刺し殺す所存ですっ!!」


「そんなに欲しいのかよ……。じゃ、ガルちゃんがお前らと暮らしたいって言ったらな……」


 ククク……。俺とガルちゃんの間にはテイマーとテイムモンスターという絆がある。

 生まれたばかりのガルちゃんが、マスターである俺を選ばないはずがないのだ。


「ガルちゃん、私のお部屋で、私の家族になって下さいませんか?」


「ひゃんっ♪」


「ガルちゃん、お前は俺の下に残り、俺の力になってくれるな?」


「……きゅぅーん?」


 ガルちゃんは首をかしげてすっとぼけた。

 絆……絆、どこ行った……?


「お、おいっ!? 何が不満だ、ガルちゃんっ!?」


「ガルちゃん、私なら毎朝毎晩、お散歩に連れて行ってあげますよ」


「お金持ちのメメたちに付いてきた方が、ご飯も断然美味しいでしゅよ!」


「きゃぅーんっ♪」


 飯で釣るのは条約違反にするべきだろ……。

 ガルちゃんはメメさんの頬を舐め、マスターに振り返ると首を横に振った。


「錬成後3分で主人を捨てるのか、お前っ!?」


「あうんっ♪」


「……わかった。ミシェーラ皇女の護衛は、お前に任せた……」


「ぐふふっ、見直したでごじゃりますよ、ヴァレリー」


「私、この子を大切にします!」


 こうして俺はテイムモンスターのうち一体を、ミシェーラ皇女に貸し出すことになった。

 まあ、必要になったら、召喚すれば良いだけか……。


 シナリオ上、危険な立場にあるミシェーラ皇女には、強い護衛が必要だ。そう自分に重い聞かせなければやってられなかった。

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