・悪役令息 前日譚でヒロインの友人になる

 その日から俺の日常は変わった。

 残りの冬休みを【魔力制御】の訓練につぎ込むつもりだったのに、この世界を訪ねて来てくれる友人が出来てしまった。


「そんなにお星様を作って、神様にでもなるつもりでしゅか?」


「現状、これが一番効率が良いんだ」


「姫様がお呼びでごじゃります。『ご一緒に自主練でもどうですか?』とのお言葉でごじゃりますが、断ったらどうなるか、わかっているでしゅね……?」


「それ、もし断ったら?」


「メメはどっちでもいいでしゅ。姫様が半泣きになられるだけでしゅ」


「わかったよ……、行くよ、行けばいいんだろ……」


 あれから毎日がこんな調子だった。

 おでこを赤くしたメメさんがここを訪ねて来て、訓練場に移動して、チャートから外れる自主練に励む。


 ミシェーラ皇女との友好関係はシナリオ破壊に有効であるので、これを断る理由はなかった。

 ただ気になるのはネルヴァだ。今思い返してもあの狂気、普通ではなかった。


「な、何かしら、ヴァー様……?」


「ガン見でしゅ……っ、またメメの姫様をガン見してるでしゅ……っ」


「いや、少し考え事を」


「私を見ながら……?」


「ああ、ちょっと気になって」


「わ、私がっ!?」


「……ああ、そうだが?」


 もし俺とネルヴァの物語上の役割が入れ替わったと見ると、危険なのは俺ではなく、ミシェーラ皇女なのではないか?

 俺がシナリオ通りに動かないから、ネルヴァが役割を引き継いだのではないか、という妄想が先日より頭から離れない。


 だからどうしようもなく、ミシェーラ皇女のやさしい顔立ちを見つめて安心を求めてしまう。

 ディスプレイ越しに眺めた時にそうするように、思考がまとまるまでじっくりと彼女を見つめた。


 ああ、本当に、ミシェーラ皇女は神デザインのキャラクターだ。

 いくら眺めても飽きない……。


「ヴァレリウス様はいらっしゃいますか?」


 そんな幸せの訓練場に来客があった。

 声の主は、実家の庭師の若い方だった。


「あっ、ヴァレリウス様っ、旦那様がお呼びです……」


「え、父上が?」


「和解したいので屋敷に来てほしいとのことです」


「俺としてはもう関わらないでくれたら、それが一番なんだが……」


 あの後ネルヴァがどうなったか、気にならないかと言えば嘘になる。

 俺の妄想が現実となるならば、ネルヴァの狂気はさらに悪化することになる。


「お断りします。ヴァー様は学業にひたむきで大変お忙しい方です。どうかお引き取りを」


「メメもド反対にごじゃります。和解なんてどうせ嘘でしゅよ」


 そうメメさんが大げさな見解を述べた。

 いや、ところが、庭師の男の顔が青くなった。


「え、まさか、マジ……?」


「い、いえっ! いえ、ですが、ご当主様とネルヴァ様は……。私に言づてを命じたとき、著しく平静を欠いているようにも見えました……」


「怪し過ぎましゅ」


「罠よ! こんな誘い、乗る必要ないです!」


 ここで行くやつがいたらソイツはバカだ。

 俺は頭上の魔法の星を消滅させた。

 極小のファイアーボールが恒星で、アイスボルトが二連星。星のバリエーションが増えて訓練の楽しみが増えてきたところだった。


「この人には小さい頃世話になったんだ。ちょっと行って来る」


「アホでしゅかっ!」


「気になるんだよ、ネルヴァが」


「リンドブルム帝国の名の下に命じます! バカなことはおよし下さい、ヴァー様っ!」


「なら家臣の末席として言う。やつらを放置すると皇女殿下のセキュリティー上の問題に発展する可能性がある。確認に行かせてくれ」


 譲る気はない。

 俺はこの話を押し通し、裏世界を通せばすぐに行ける故郷タミルにまたもや帰省した。


 ……無策で行くのも愚かなので、多少の準備の後にな。

 罠を仕掛けるならそれで結構。こちらはそれを逆手に取るだけだ。

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