第8話
8「勇者・タラカーン 1」
タラカーン達は人狼に襲われていた。以前遭遇した時はアポスが前線に立つと同時に人狼は撤退して事なきを得た。
だが今回は群と成した人狼に追い立てられタラカーン達は逃げ惑い、フィールドの端で狩りを進めるしか出来なかった。
「本当に頭にくる!」タラカーンは仕留めたモンスターの素材を蹴って言った。
「おい、折角集めた素材だろうが。使い物にならなくなる」大剣使い・ムナガノーシカはうんざりしたように言った。
「この程度の素材なんて二束三文にしかならない」
「じゃあなんでクエスト依頼を受けたのよ」ズミヤもまた疲れ切ったように呟いた。アポスが去ってから聞かされるタラカーンの愚痴にうんざりしていたからだ。
「こんな雑魚しかいないとはな。もっと大物がいると睨んでいた」
「人狼のせいだ。大きな狩場は奴らのテリトリーだからな。それにフィールドクエストは運だ。敷地内のモンスターを狩るだけだが報酬はモンスターの個数による歩合だから」ムナガノーシカは懐から取り出した短剣でモンスターから牙や角を切り落としていく。「クソッ。こんな作業はアポスの役割なんだが」
「前回はアポスがいたら人狼が立ち去ったものね。なんでだろ。大物狙いならドラゴンでも狩る? クエストを掲示板で見たわよ。報償金も桁違いだった」ズミヤは嫌味っぽく言った。
「ドラゴンなんて相手にしたら死んでしまいます」とパウークは心底恐怖して言った。
「ドラゴンか」タラカーンは顎に手をあてて考え出す。「ここからクエスト依頼も出来るよな?」
「テイムした鳥に依頼内容をギルドに届ければおそらく」ズミヤは不思議そうに言った。
「ではドラゴン退治の依頼を受諾するとギルドに送ってくれ」
「何を言っているんだ! 俺たちではまだ無理だ!」ムナガノーシカは素材を剥ぎ取る手を止めて叫んだ。「それにこの後は遠征クエストもあるだろう?」
「落ち着け。依頼を受けるのは俺たちじゃない。アポス一人だ」タラカーンはニヤけた表情を浮かべて言った。「このままのうのうとパーティーを抜けさせてたまるか」
「そんな事、出来るんですか?」パウークはムナガノーシカが剥いだ爪を拾い集めながら訊いた。
「パーティーからの依頼とその参加者を明記するという決まりはギルド自体が決めた事だ」タラカーンは腹を抱えて笑だした。
「確かにここのギルドは規約が明確な分、抜け穴も多い。こんな悪知恵を働く奴は想定外だろうが」ムナガノーシカは再びモンスターの皮を剥ぐ作業に移る。
「仕方ないわね」ズミヤは近くにいた土鳩をテイムしてその足に依頼内容を明記した紙片を括り付けた。「さあギルドまで飛んでこの紙片を届けるのよ!」
「アポスさんが依頼を受けない場合はどうするんですか?」パウークは思いつきを口にする。
「それについては私も知っている。キャンセル料は報酬の料金に比例して高くなるのよ。つまりクエストを受けてもキャンセルしても地獄ってわけ」ズミヤは訳知り顔でパウークに講釈を垂れた。
「はえー」パウークは笑い転げるタラカーンを尻目に興味なさげに呟いた。
「まあこの後俺だけ素材を換金しにギルドへ行くからその時に確認してやるよ」ムナガノーシカは素材をまとめつつ言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます