ヤケクソでお悩み相談を始めたら、なぜか俺の周りが美少女だらけになっていたんだが!?

水無月

第1話 恋愛青春部 始動!

『未来』


 誰しもが一度は想像するだろう少し先の世界。そこで、自分がどうなっているのか。気にならない人はいないはずだ。


 好きな人と結ばれているのか?

 自分らしく生きれているのか?

 自由にのびのび暮らせてるか?

 自分の好きな物を受け入れてもらえてるか?

 憧れの人に近づけているか?


 不安を抱え、自問自答を繰り返し、望む未来へ歩んでいくのが理想の歩み方だ。

 けれど、もし、神のイタズラで未来を見通せる力を持った人間が現れたら……どうだろうか。


『未来の結果を早く知れる』


 人は、そんな甘美な響きに釣られて思考を放棄し、他人に甘え、自分の人生をその一人に背負わせる。

 葛藤し、苦悩を抱え、他人と衝突し、生まれるドラマを経験せずに得た未来は…………本当に望んだ形の未来なのだろうか。



 ◇◇◇◇◇



茅颯ちはやっ!新しい部活動を作ろうっ!」


 入学式から一週間が経ち、緊張感の薄れつつある、ある日の放課後。

 幼馴染の新垣あらがきたけしは、バンッと俺の机に部活動申請書を叩きつける。何人かが振り返ったが、マイペースな猛は気にする素振りもない。


「なんでまたいきなり……。『サッカー部に入って青春の汗を流すんだー!』って、息巻いてたろ」

「あん時の俺は若かった。汗を流すだけが青春だと思っていたんだ」

「……今は?」

「もう一つの青春の道を見つけた!この道を見つけたとき、俺は自分の可能性に震えちまったぜっ!!」


 そうか……。

 こいつが震えるときは、大抵ろくでもないことになるのがオチだ。


「つーわけで、部活名は……『恋愛青春部』――」

「ちょっと待て」

「なんだよ。いま、部員まで書いちゃうから……――部長『新垣猛』で副部長『久遠くおん茅颯ちはや』と」

「いや、本当に待ってくれ」


 部活申請書を取り上げ、もう一度目を通す。

 聞き間違いであって欲しかったが、残念ながら俺の耳は正常だったらしい。


「気でも狂ったか?」

「失礼なやつだな!狂ってねぇよ!」

「なんだよ『恋愛青春部』って。つか、勝手に俺を巻き込むな!」

「そのまんまだって!みんなの恋愛と青春をアシストする部活!って事で提出してくる!アディオス!」

「あ!おい!猛!俺はやらないからな!」


 ビュンッと風を切って走り去っていく。

 残された俺は、クラスメイトから慰めとも憐れみとも取れる視線を一身に受けることになってしまった。



 ◇◇◇◇



「通らなかったぁ!」

「だろうな。さすが生徒会長だ」


 翌日の放課後、猛は再び俺の机に部活動申請書を叩きつける。

 そりゃ、そうだ。あんなふざけた部活動が通るわけ――


「せめて、顧問を見つけてこいって言われたんだ!」

「せめて……?」

「『顧問を見つけておいで。そうすれば認めてあげられるから』だってさ!さっすが生徒会長だよなっ!太っ腹!」


 俺の言葉を、そっくりそのまま返された。

 にしても、顧問か。ほとんどの教師が部活の顧問を担当しているのが現状。

簡単には見つからないだろうし、これは、最大の壁になるだろうな。


「よし、行こうぜ!」

「は?どこに?」

「顧問をやってくれそうな先生には、既に目星つけてんだっ!あとは、頼みに行くだけ!」

「……お前一人で行けよ」

「部員全員で頭下げねぇーでどーすんだっ!おら、行くぞ!」


 無理やり立たされて引きずられていく俺を、クラスメイトは生暖かい目で見ていた。



 ◇◇◇◇◇



「――という訳で……顧問になって頂けないかなと思いまして……。あ、全然、断ってくれていいです。むしろ断ってください」

「うんうんっ!話は聞かせてもらったわ。けど、『恋愛青春部』かぁ〜――」


 部活動に出払って、人気のない職員室の一角。

 俺と猛は、担任である星園ほしぞの朱里あかり先生を訪ねていた。


 やや抜けている性格と愛嬌のある雰囲気で、あっという間にクラスの人気者に成り上がった俺たちの担任だ。

 ちなみに、担任を持つのは俺たちが初めてらしい。


「頼んますっ!あかりん先生!」

「こらっ!星園先生――でしょ?……でも、そうねぇ」

「お願いします!星園先生しか頼れる先生がいないんです!」


 猛は、熱心に頭を下げる。星園先生と猛を交互に見ている内に、ザワザワと俺の中に巣食う嫌な予感が強くなっていく。


「うん!いいよ!引き受けてあげる!というか、先生も仲間に入れて欲しいなっ!私も青春したい〜!!」

「まじかよ……」


 嫌な予感ほど的中するものだ。

 満点の星空の様な笑顔で快諾してしまった。

 ギュッと握りこぶしを作った際、ブルンッと豊満なバストが揺れる。

 それを見た猛が、僅かにニヤついたのを、俺は見逃さなかった。



 ◇◇◇◇◇



「よしっ!『恋愛青春部』活動開始だ!」

「なんで通ったんだよ……」


 部活動申請書に顧問の名前を記入し、提出した翌日。

 俺と猛は、空き教室を部室として使わせてもらい、『恋愛青春部』の活動を始めることになってしまった。

 いや、本当になんで通ったんだよ。


「なぁ、改めて聞くけど、活動方針は?」

「昨日言ったろ?恋愛と青春のサポートだって」

「具体的にだよ」

「え、具体的?」


 猛の間の抜けた表情を見てため息をつく。

 この馬鹿の思いつきに、具体性を求めた俺も馬鹿だった。


「まぁ、いいや。活動方針は追って決めていこう」

「この部活の中心は茅颯だ!よろしく頼むぜ!」

「部長はお前だろ……?」


 ため息をついて、自身の手のひらに目を向ける。そして、再度、深いため息を吐く。


「よしっ!改めて!頑張るぞぉー!」


 声高らかに拳を突き上げる猛。心配でしかない。



 ――三週間後


 俺の心配は的中してしまう。

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