ここが、あなたが、大好き
草の中に埋もれていた
ただずっと、そう、ずっとそうしていたのだ
柔らかくて優しい匂いがわたしを包んでいた
若草の香りだ
新しい命の香りがする
丘陵の斜面に寝転んでいた
足のずっと下には青い泉がきらきらと輝いている
温かい日差しにわたしは目を閉じた
泉の水際がさぷさぷと少し騒がしくなる
水面が揺れる音に耳を澄ませていた
時折り止んで、また聞こえる
わたしは頬を緩めた
いつも、浅瀬を進んでやってくる
わたしは彼の気配を感じていた
陰が落ちる
目を開けるとあなたがいた
ぴたひたと髪から水滴を落としながらわたしを覗き込んでいた
「潜ったのね」
わたしは微笑む
「綺麗なものを見つけたんだ」
彼は笑ってわたしに見せた
爪より少し大きな、でこぼこな丸
「あぁ、綺麗……」
それは海の形を、空の形を、していた
わたしは体を起こして、受け取った綺麗を手の中で転がす
陽光が当たるととても明るくなる
美しい
「ありがとう」
横に座るにこやかな彼に言った
「どういたしまして」
優しい霞んだ声が返ってくる
草の海に腰掛けるわたし達の間を、涼やかな風が抜けていく
泉と、彼の香りがする
優しい匂いだ
「泉に行きましょう」
そう言うと体が宙へ浮き上がる
「よし!」
わたしを抱き上げた彼が楽しそうに駆け出す
また風が吹いて、空に二人の笑い声が響いた
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