第2話
――バルデス視点――
「カレン…僕が悪かった…こうしてお願いをすることも失礼な事であると自覚はしているが、それでも頼まずにはいられないんだ…。君とていろいろな思いがあるのは僕もよくわかっているつもりだが…。それでもあえて言わせてほしい、僕たちは間違いなく以前は素晴らしい関係だったじゃないか。誰からもうらやまれるほどの美しい夫婦だったではないか。今こそその時に2人の関係を戻すときなんじゃないか?君とて心の中ではそうなることを望んでいるのではないか?」
カレンに向けた手紙の内容に筆を走らせつつ、その内容を自分でもう一度読み上げてみる。
…なんと、なんと深い言葉をかけていることだろうか…。
自分でも感動せざるを得ない。
カレンがこれを呼んでくれたなら、きっと今の僕の思いを完璧に理解してくれることだろう。
過去に僕がひどく当たった事や、彼女を裏切った事、彼女の思いに気づかずにいたことなど、全て許してくれることだろう。
だってカレンは、心の中では今も僕の事を好きに決まっているのだから。
「カレン…。いつでも構わない…。僕をもう一度受け入れてほしい…。君だって最初はあんなに僕の事を好きでいてくれたじゃないか。その時の言葉や思いを思い出してほしいだけなんだ…。今になって調子の良いことを言っていると思われるかもしれないが、僕は今寂しくて仕方がないんだ…。心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような思いを抱いているのだ…。この空白を埋めてくれるのは、この世界にたった一人しかいないんだ。君だけなんだよ、カレン…!」
女性はこう言った言葉を羅列しておけば、母性本能が刺激されるとかなんとかできっと僕の事を助けてくれるのだろう。
あの時僕の事を逆追放した君はすさまじい殺気を放っていたが、それはあの時だけの事だろう?
今の君はそんな感情とはとうにお別れをしていて、もう僕の事を許してくれているのだろう?
…だから僕は、あえてこのタイミングで君に向けて手紙を書くことにしたのだから…。
手紙を書く自分の手のスピードの速さに、自分でも驚きを隠せない。
この手紙を受け取ったカレンがその表情を赤らめ、僕の事を再び受け入れてくれる姿を想像したら、楽しくないはずがない。
カレンは最後には僕のいう事を聞き入れてくれる、それは昔から決まっていることなのだから。
「さて、あとは何を書き入れるべきだろうか…」
過去の思い出やカレンへの言葉は、すべて出し切った気がする。
かといって、このまま手紙を出してしまうのもそのままで芸がない気もする。
これから確かな夫婦となる僕たちの再会の門出が、この手紙から始まるのだ。
後から思い出しても後悔のないほど、全ての思いを込めて書き上げなければ…。
「…そうだ!これから先に展開される二人の未来設計図を書けばいいのか!そうすればきっとカレンも僕との未来に現実味を感じて、よりうれしさを感じてくれるに違いない!そうだそうしよう!」
一度アイディアが出てきたなら、その後はとどまることをしらない。
僕は心の奥底から湧き出てくる欲望のままに、カレンに対する言葉を次々に書き上げていく。
「過去と同じ失敗はもうしない。僕が君を置いて何人もの貴族女性と個人的なパーティーをしたことがあったが、それも今の僕を形成する大切な思い出ではあるのだ。しかし、それが君を傷つけてしまったというのなら僕はその過去と決別しようじゃないか。そうして新しく形成されていく僕たちの未来が、美しくないはずがない。カレン、頭の良い君ならその事を一番に理解できていることだろう?僕たちはやはり再び結ばれるベき関係のもの同士なのだ」
子どもは何人がいいだろうか?名前はなににしようか?どこに屋敷を構えて、同家族と一緒に暮らしていこうか?
そんなことを一つ考え始めたなら、とどまることなどあるはずもない。
「カレンに似たらきっと可愛らしい子になることだろう、僕に似たら思いやりのある素敵な男の子になることだろう。きっと近所の人たちのうらやむ素晴らしい家族になれることだろう。だって、僕たちはもともとそういうレールの上をかつては知っていたのだから。ほんの些細な気持ちのすれ違いで今はこうなってしまっているだけで、ほんとうは僕たちはそういう関係にあるはずなのだから」
この手紙を読むころ、カレンは嬉しさのあまり涙を流しているのではないだろうか?
はたまた、手紙で返事をしてくるのではなくて自分の言葉で僕に返事を告げに来るのではないだろうか?
「ククク…。カレン、今からもうすでにこの手紙を読む君の顔が見たくてたまらないよ…。でも、それは後に取っておくことにする。だって君はこの手紙を心の底から喜んでくれると確信しているのだから…!」
書きあがった手紙を見た時、僕は気持ちが天にも昇る思いを抱いていた。
さて、あとは今後の未来を確かなものとする段階に移っていかなければ…!
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