俺の大切な人
花園眠莉
俺の大切な人
この恋はきっと実らないと思っていても消えることはないと思う。
俺が好きになった女子は一言で言うのは難しいけれどあえて言うなら『自由』な人だ。高校一年生の頃に出会って時間もかからずに親友と呼べるくらい距離が縮まった。そしていつの間にか友情から恋に変わっていた。それに気がついたのは高校二年生の冬だった。
ある日彼女は消えた。なんの前触れもなく連絡が途絶え、学校にも来なかった。最初は寝坊魔の彼女だから仕方ないのかもなんて思っていたが一ヶ月近くの間、学校に来ることはなかった。一番仲が良いというのはうぬぼれかもしれないけれど何でも話してくれる彼女が俺に何も言わないで消えたことに俺は心を抉られた。連絡が取れない間彼女のことが気がかりで仕方なかった。
そして急に消えた彼女は急に戻ってきた。どうやら施設から脱走していたらしい。そして男絡みのことで学校から謹慎を食らっていたから登校するのが遅かったと話してくれた。彼女は寂しがりやだから誰でもいいから愛されていたかったのだろうか。だったら俺が愛すのに。そう思った自分にストンと納得がいった。ああ、俺は君に、七瀬花に恋をしているのだと。出会い系で会っていた男の話をしてくれたがあまり話が入ってこなかった。そんな誰かからの愛情を欲している彼女も含めて愛したいのにそれを受け止める器は俺にはまだないみたい。話は滝のように流れて覚えていない。花はただ俺の側に居て、俺のことを頼ってくれればいいのに。けれど俺では埋められない彼女の傷があるのだろう。
「創真、花は創真が大事だよ。悲しくなったらいつでも頼ってね。」俺の表情が曇っていることを気にして声をかけてくれる。これは親友としての大切さ。だから恋にも愛にもならない。そうわかってしまうけれど愛することを止められない。
「うん、俺も。」君が泣きたくなったら俺がそばにいるからなんてできるかわからないことは口に出せずに飲み込んだ。
それから無事二人で三年生になって同じクラスになった。どうやら謹慎中に先生と話してクラスは俺と一緒がいいって言ってくれたとか。二年生の頃から仲良くなった黒瀬と日高は別のクラスだったけど市村と早乙女は同じクラスだった。花と席はあまり近くなかったけれど休み時間になれば話に行った。そうして最初の長期休み、ゴールデンウィークを迎えた。俺はバイトを詰め込んで案外忙しくしていた。気がつけばもうすぐ学校が始まるなんて思っていたとき部活で仲の良い奴らとのグループラインにメッセージが送られた。花からだった。内容は脱走したということ。そして連絡は取れると思うけど学校には暫く行かないこと。そして脱走したことは市村や日高達には言わないでほしいと言われた。……俺は嘘が苦手だからいずれボロが出ると思うけど。
二度目の脱走。少しは驚いたが正直、花が生きていて連絡が取れるならいいかと思った。他の男の家で過ごしているかもしれないけれどそれで少しでも満たされるならいいのかもしれない。結局、俺が花に何かしてあげられることなんて思いつかないから。いつ登校するようになるのかはわからなかったからその点については不安だった。けれど花のいない生活に皆も、そして最低なことに俺も慣れてしまった。そのことに気がついた時は自分の軽薄さが嫌になった。でもたまに無性に花に会いたくなる自分もいて嫌だった。たまに担任に花の単位はどうなるのかと聞いたりもした。
俺が花の心配ばかりするからか担任は花からの伝言を教えてくれた。
創真、いい子にしててね。
うるさい、俺はいい子じゃない。花のいた生活を鮮明に思い出せなくなってるし、なんだかんだ楽しく日々を過ごしてしまっている。けれど、花が居ないと市村達と上手く話せない気がするし孤独な気がする。やっぱ俺にとって花は大きい存在なんだと実感してる。はやく花の笑顔が見たい、声が聞きたい。
花が戻ってきたのは学校祭一日目だった。他のクラスに行って友達と話してチャイムが鳴って戻ったら花がいた。俺の好きな笑顔で、声で、俺を呼んだ。夢かと思った。けれど間違いなくこれは現実で目の前に花がいる。気づいた時には泣いていた。クラスメイトもHRだから揃っているのにもかかわらず馬鹿みたいに花の前で泣いた。そんな俺を見て困ったように「泣きすぎ。」っていう花に「花のせいだ。」なんて八つ当たりをした。それでも笑っている花を見て相変わらず好きだと思った。ちなみに日高は花を見た瞬間泣いて膝から崩れ落ちた。俺は日高の気持ちがよく分かるから何も言わずに黙っていた。黒瀬が俺と日高のことを散々笑ってきたのは絶対忘れてやらない。
その後はまた普通に学校に来た。何事もなかったかのように登校している。まあ出席日数的には留年だが補習とかで補ってくれるみたいだ。花が登校してからすぐに夏休みに入った。夏休みの間は忙しくてどう過ごしたのか覚えていない。
夏休み明けすぐに前期末テストがあった。テストはなんとなく頑張った気がする。仮評定が決まる時期に何をしているんだって話だけどやる気がなかったから仕方ないだろう。テストは火曜日から金曜日までの四日間。金曜日はテストという地獄から抜け出して最高の気分だ。しかもテスト終わりに花と遊んだ。昼ご飯を食べて、カラオケに行って、街を歩いていたら花の携帯の充電が無くなりそうだったから解散した。モバイルバッテリーと充電器は持っていたけど花と俺の機種は充電器の形が違ったから貸すことが出来なかった。俺は携帯の差込口を全部統一してほしいなんて無茶なことを考えた。
また花は脱走した。ここまで来るとアクティブというかなんというか……。でも今回は少し様子が違った。自分が壊れてしまいそうで怖い、自分も周りも大切に出来ないから心と体を休める為に一時保護所に行く。元気になって戻って来る。ってストーリーが投稿されていた。
花は自分の意見を言っているように見えて周りのために自分をないがしろにしちゃうところがある。他人の変化に敏感で友達想いな性格だからだろう。たまに友達と仲良すぎるところを見ると若干嫉妬してしまうけれど花がしたいことをしてほしいから黙っとくよ。友達想いなところも好きだけどもっと自分を大切にしてほしい。もし大切にできないのなら俺が代わりに大切にする。むしろさせてほしい。掴みどころがありそうでない花のことはまだまだ知らないことだらけだから傷つけてしまうかもしれないけれど一番大切にする。花は何でも言葉にして伝えてくれるから俺も言葉にして伝えようと思う。きっと見るのは一時保護所を出てからになるがメッセージを送ろうとDMを開いた。
待ってる。どんな花でも大切な親友だよ。ゆっくり休んでおいで。
散々悩んで悩んで悩んだ結果出てきた言葉だった。まだ既読にならないこのメッセージを後何回見返せば花に会えるのだろう。
俺はずっと花の都合の良い親友でいるよ。だからいつでも頼ってね。
俺の大切な人 花園眠莉 @0726
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