距離感が近めな女の子

緋月 羚

初対面

今日は高校の入学式だ。

中学のときとはまた違う緊張感で夜はあまり寝れていなかった。

ひとつ上の先輩から聞いた話で高校に入るのは楽しみだ。

こんなときよくある少女漫画だと曲がり角でぶつかるなんてあるがそんなことはあらず学校につき自分の席を探す。

「えーと…坂本ってどこだ?」

隣から腕が伸びてきて坂本と書いてあるところが差される。

「ここだよ!あっ急にごめんね。私、君のとなりの席なんだぁ。これからよろしくっ!」

…あんまり得意なタイプじゃないな。

「うん…よろしくね。」

すると先生が教室に入ってきて事前指導が始まる。

説明が終わると出席番号順で並んで体育館に向かう。


ただめんどいだけの入学式が終わって教室に戻ると次は自己紹介が始まる。

自分を表すのがあんまり得意じゃないからこの時間は苦手だ。

とりあえず趣味…オタクなんだよなぁ。

まぁゲームならみんなするだろうし、それでいいだろ。

そろそろ私の番だ。

「はじめまして坂本真さかもとまこです。趣味はオンラインゲームです。一年間よろしくお願いします。」

ふぅ…こんなもんで大丈夫だろ。

やっぱりみんなの前で立って話すのは苦手だな。

そのまま順番に進んでいき、自己紹介は終わってプリントが配られていろいろ説明される。

終わりのチャイムがなって挨拶をすると隣の子に話しかけられた。

「ねぇねぇゲームしてるって言ってたけどなんのゲームしてるの?」

あんまりマイナーなやつを言っても伝わらなくて苦笑いされることが多いからメジャーなものを選んで話す。

「音ゲーとかFPSとかはよくやるよ。」

「私もやってるんだけど一緒にやらない?」

この子の名前なんだっけな…。思い出せない。

「いいけど。」

許可を出す前にゲームを開いてIDを見せてきていた。

スマホを出して同じゲームを開き、フレンド申請をしたらすぐに承認された。

「他にはなにかゲームしてるの?」

いうだけ言ってみるかと思って

「モンスター狩るやつとかもやってる。」

「え!私もやってるよそれ。なかなか女性っていうか仲いい人にやってる人いなくて…よかったらそっちもやらない?」

そっちはゲーム機本体のフレンドにならなきゃいけないので連絡先を教えてもらって家に帰ってからIDを送る話になった。

連絡先が本名のままだったのでそこで名前を覚えた。

本谷もとやりん…。」


入学式の日は午前授業で終わりなので帰る支度をしていると隣の子が話しかけてきた。

「今更かもしれないんだけどさ、まこちゃんって呼んでいい?」

「なんでもいいよ。呼びやすいように呼んで。」

「ありがとっ!ね、真ちゃん一緒に帰ろうよ。あ、でもバス?電車?それとも自転車?」

「今日はバスで来たけど。」

「私もバスで来たから帰れるかな。方向どっち?」

「駅越えたほうだけど。」

「なら私と一緒だね。帰ろっか。」

「わかった。」

二人で靴を履き替えてバス停に歩いていく。

私よりも10センチほど背の高いりんと不思議と歩幅はあっていて歩きやすかった。

「あと6分後には来るってさ〜。」

時刻表を見に行ったりんが教えてくれる。

「ありがと。」

ふたりとも黙ってスマホを使い始める。

少し待つとバスが来て私が前、りんが後ろに座った。

「真ちゃん〜なにしてるの?」

抱きつかれて体がビクッとした。

「あ、ごめんびっくりさせちゃった。」

「あんまり抱きつくのとかやめてもらえると嬉しいんだけど。」

「んー…なるべく気をつける!」

絶対思ってないやつだなこれ。

誰とでもこんな感じだし、まぁ仕方ないのか?


少し話していると私の降りるところに着いた。

りんはあと2つ先のところらしい。

また、と挨拶だけして家まで歩く。

5分ほど歩くと家に着いて手洗いなどを済まして2階の自室に向かう。

「あーつかれたぁ!」

バックを適当に投げてベットに倒れ込んだ。

机の上にある時計を見て時間を確認して、眠くなってきたからそのまま寝落ちた。

起きたのは母親が夕飯に呼びに来たときで7時になっていた。

一応スマホを見てなにか来ていないか確認しておく。

特に何も来ていなくてベットに放り投げて服を着替えてから下に降りる。

母親と二人でご飯を食べ、今日の話をする。

「なんかね、りんって子が話しかけてきたんだけどさ。私と趣味とか似てて友だちになったんだけどすごく距離が近いんだよね。隣の席なのに私の机の前まで来て手を触ってきたり、バスで前後に座ったと思ったら抱きついてくるし。別にそんなに嫌ってわけではないから幸せそうな顔してやってくるから言いにくい…。」

「仲のいい友達ができてよかったね。学校楽しかった?」

困ってることに関しては全部スルーされた。

「楽しかったよ。」

母親からも話をきいたりしているとすぐに食べ終わって皿洗いだけして部屋に戻る。


「まだ8時かぁ。なんかゲームでもしようかな。」

イヤホンと指サックを机の上から取って滑り止めをしいて音ゲーを開く。

ログインして一日一回だけのライブをしようとすると画面が切り替わって着信画面になった。

「りん?なんのようだろ。」

ボタンを押して通話に出てみる。

「真ちゃんやっほ〜今なにかしてた?」

出てみるとイヤホンをしていたから声が近くてびっくりした。

というか家でもこのテンションなのか。

「音ゲー始めるとこだった。」

「え、マジか邪魔してない?」

「ギリギリセーフだったよ。」

「ならよーし。あ、そうそう暇だったから連絡してみたんだけど音ゲーしてるなら私もやっていい?」

「いいよ。先に開いとくから招待するね。」

「通話つなげたままにしとく?どっちでもいいけど。」

「私もどっちでもいいから決めて。」

「ならつなげとこー」

すぐにオンラインになったりんを招待してランダムに曲を選ぶ。

やりながらりんのコンボ数を見ていると全然ミスらない。

曲が終わってリザルトが表示されるとAPしていた。

「え、これAPすんの。」

「なんかね、やってたら出来た。」

そのレベルの話じゃない。

その後も3曲くらいやって私はフルコンを逃したけどりんはフルコンしていた。

「りん眠くないの?もう結構いい時間だよ。」

「あ、ほんとじゃん。疲れたし寝ようかな。そうだなぁ寝落ち通話でもする?」

「絶対ヤダ。おやすみ」

ちょっと酷かったかな。

まぁりんが悪いし…眠いから寝よ。



朝起きて顔を洗いに下に降りていく。

顔を洗ってリビングに行くと母親がご飯を作ってくれていた。

朝からガッツリ食べて、服装を整えて家を出る。

バス停に着くと5分ほどでバスが到着した。

乗り込んで車内を見渡すと何人か同じ制服の人がいて一番奥にりんが座っていた。

「おはよ。」

「おっはよ~!顔暗いし、もうちょっとテンション上げない?」

「りんのテンションが高いだけだよ。私は通常がこれ。」

「まぁ仕方ないか…。私は馬鹿みたいに騒いでればいいんだもんね…。」

「そんな事は言ってないじゃん。そんなにしょぼんってしないでよ。」

「えへへ~知ってた。わざとだし〜。え、ちょ殴るの良くないんだよ。」

「はぁ馬鹿は殴っても無駄か。」

「馬鹿じゃなくてアホだからっ!」

「どっちも同じでしょ。」

会話が途切れると周りの視線に気づいてしばらく座席の裏に隠れた。


教室は初日より人が少なく少し寂しいような感じだった。

「んんー疲れたぁ。まだ学校についたばっかなのに。」

「できれば学校なくなればいいのにって思ってる。」

「そうなったら真ちゃんと出会えてないからやだなぁ。」

「昨日が初対面なんだけど…?」

「そうだけど、楽しいしかわいいし最高じゃん。この学校友達来てないからさ。」

「そうだね。私もこの学校友達いなかったし話しかけてくれて嬉しかったよ。」

「えっ急にデレるじゃん。」

「もう二度と言わないわ。」

「ごめんってば。機嫌直して?」

気がつくとチャイムが鳴っていて、りんが席に戻る。

次は移動教室で今さっきのことを許していない私はりんをおいて先に移動し始める。

移動先の教室で待っているとりんが複数人に囲まれて入ってきた。

「なんだ私以外に友達いるじゃん…。」

一日りんに話しかけられてもずっと無視し続けた。


りんは部活見学にいったらしく今日は一緒に帰っていない。

そもそも一緒に帰るつもりはなかったが。

夕飯まで勉強して夕飯を食べたらパソコンの電源をつけてFPSゲームを起動する。

するとベットの上に投げ捨てていたスマホが震えた。

りん以外の可能性もあったから一応確認しにベットに近づく。

ホーム画面で通知を確認すると見たくなかった通知が目に入ってくる。

『私今日なんかしちゃったかな。謝りたいし、今日寂しかった。』

既読をつけるか悩んでいるとまたスマホが震えた。

『教える気分になったら連絡して。深夜でもいつでもいいよ。』

なんて返していいかわからず、とりあえずゲームをやって忘れようと思った。


「だめだぁ。今さっきのこと考えすぎてビクロイ取れない…。そろそろ連絡返すか…?でもなんて言えばいいかわかんないし!だってあれって…嫉妬じゃん…。」

かれこれりんの連絡から2時間ほど経っている。

落ち着いて考えると自分の行動がただの独占欲から来ていて嫉妬していただけだと気づいた。

「こんな独占欲他の人には今までなかったのに…なんで、りんにだけ?」

確かにりんといて気が楽だし、楽しかったりする。

まぁうざいところもあるけどそんなん誰にだってある。


わたしは…りんに何を思っているんだ?

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