悲劇の物語を希望に変える――前世で絶望した少年の贖罪

コウノトリ

プロローグ シリアスがダメな人は飛ばしてOK

第1話 最期の贖罪

 僕と彼女は新しい旅路に出る。

 誰もいない山の崖の上。大自然が目の前に広がり、静かに僕たちを迎え入れている。


 こんな澄んだ空気の中で終えられるなら、それも悪くないだろう――いや、これ以上の幸せな終わりはないのかもしれない。


 手に持つ彼女を高く掲げ、僕は彼女に最後の言葉を送る。


「儚く、優しい君を傷つけた僕は、本当に許されない。それでも最後に伝えたい。幸せな未来を描けなくて、ごめんね。」


 彼女の目を見つめる。その瞳は空虚で、どこか神秘的な輝きを放っている。透き通った肌は触れるのもためらうほど美しい。

 彼女は僕が絶望の中で作り出した存在だった。彼女の存在が僕の心の支えだった。


 他の子たちはみんな、希望に満ちた未来へと旅立った。でも、彼女だけは違った。

 彼女は僕自身の絶望を映し出した存在だった。


「僕は世界で一番サクラのことを愛してるよ。これからもずっと。」


 初めて彼女の名前を口にした。どこか畏れ多くて、今まで名前を呼ぶことすらできなかった。でも、これが最後だと思うと不思議と口にできた。


「ああ、最後だって言ったのに、嘘ついちゃったな。」

 嘘つきをつくのは嫌いだったはずなのに、僕は笑っていた。


 震えていた足は止まっていた。勇気を振り絞る必要なんてなかった。


「さあ、行こうか。新しい旅へ。」


 軽く岩を蹴って、僕たちは崖から飛び立つ。


 落ちていく中で、これまでの記憶が頭を駆け巡る。走馬灯というやつだろうか。


 初めて学校という社会に触れたときのこと。あの頃の僕には、すべてが輝いて見えた。希望、喜び、未来――そのすべてが手の届く場所にあるように思えた。


 けれど、それは川に映った月のように手に入れることはできなかった。

 友情や絆といった目に見えないものは、僕にとっては幻だったと気づいた。


 笑顔で僕を叩いた幼なじみ。

 「君なら任せられる」と言いながら、いつの間にか背を向けた友人たち。

 信じたいものしか見ない大人たち。


 それでも僕は笑っていた。笑顔でいれば、みんなも笑顔になれると思っていた。

 結果、みんなはになった。僕を除いて。


 その癖がいまだに抜けないのか、困ったときほど僕は笑ってしまう。どんな顔をすればいいのか、わからないまま。


 それでも僕は負けたくなかった。だから自分よりも儚い存在を作った。彼女たちの物語は、僕自身の傷を埋めるために生まれた。


 悲劇を描くことは簡単だった。けれど、その先に続く幸せを描くには、僕自身が幸せを知らなさすぎた。

 幸せを知るためにバイトもしたし、色んな場所にも行った。でも、それでもまだ足りなかった。


 それでも、描き続けるしかない。未来に希望を託すために。彼女たちのために。


「ごめんね、サクラ。」

 今も僕と共に落ちている彼女。

 どうしても君の不幸を塗り替えるハッピーエンドを見つけることができなかった。


 彼女を一人にはできなかった。そして、彼女の絶望から僕自身も目を背けることができなかった。


 彼女を愛しているから、一人にはしない。


 炎が彼女を包み、視界がぼやけていく。


 それが僕の最後の記憶。

 これが僕の最後の贖罪――神様がいるなら、どうか彼女に幸せな来世を

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