間違ってマンドラゴラで勇者を撲殺した俺は、人間との和解を諦めて魔界でマンドラゴラ栽培することに決めました。
雪
〈プロローグ〉
勇者が死んでいる。
魔王城の最上階。
見たら目を細めてしまうほどに輝いた黄金の髪、ダイヤモンドのごとく輝く白銀の鎧、左手にはどんな竜でも両断できそうな大剣。
間違いなく勇者だ。その勇者が今、相対する魔王の前で無惨に地に伏していた。完全に絶対に死んでいた。黄金の髪は、その奥の頭部から流れ出た深い赤で染まりかけている。勇者の仲間である大きな魔法帽をかぶった女の子が泣き叫ぶ声が城内に響く。
誰だよこんな可愛い子を泣かせたのは!
魔王か、魔王が勇者をやったのか!だとしたら人間側は相当やばい状況なんじゃないだろうか、いやそんなことは今はどうでも良い。あんなに可愛い子が泣いているんだ。絶対に許さない!
今この空間には魔王とその側近が2人、体の半分が縦にちぎれている奴を含めれば3人だ。対して勇者側は5人。服装から見るに魔法使い、僧侶、タンク、剣士、アーチャーだ。数では勇者側が勝っているものの、彼ら彼女らの戦意は勇者の命と共に失われているようだった。
では俺は誰でどの立場なのか、まあそれは今は良い。とにかく今は勇者パーティーが脱出する方法を考えないと。
違和感が身体をよぎる。視線が俺に集中している気がするのだ。確かに今俺はこの場に於いてイレギュラーだけど、なぜ勇者側が俺に怒り狂った闘牛のような視線を向けてくるんだ。
「早く脱出してください!絶対にまたチャンスはある!勇者の死を無駄にしないで!」
俺はとにかく脱出するように叫んだ。自分で思っている以上に大きな声が出た。
「お前に言われなくても分かってるよ!」
「この卑怯者!」
「いつか必ず殺す!」
ん、
「このクズ野郎!」
「グレブ溶岩洞でドロドロに焼かれてぐちゃぐちゃになってこの世に一片の欠片も残さず地獄に落ちろ!」
最後、具体的なやつ出さないでね?
想像しちゃうから。
勇者たちは俺に暴言を吐き捨てると、俺のすぐ横で死に続けている勇者の遺体を魔法で引き寄せてタンクが抱え込んで撤退して行った。
待て。なんで俺の足元に勇者が横たわってるんだ?なんで俺はこんなに血だらけなんだ?
状況が把握出来ずオドオドしていると、これまたすぐ横にいた魔王が俺に話しかけた。
「まあ、なんだ。闇討ちのようなことは私もあまり好かないが、あの勇者には我々も手を焼いていた。だから感謝するよ、どこからこの魔王城の最上階に侵入したのか分からないが、勇者を『撲殺』してくれてありがとう」
撲殺、、、俺が?
「俺?」
声に出してみた。
「君だ」
俺か。
2本の立派な角と禍々しいオーラを纏わせた、まだ若さが垣間見える魔王が肩を竦めながらそう言った。
勇者達との戦闘でズタズタになった魔王城の最上階ではその後しばらく誰も口を開かず、勇者の攻撃で吹き抜けになった壁からは静かな夜の風が音もなく流れ込んでいた。その風で俺の周り散らばった土が微かに舞う。
ん、
なんで俺の周りにはこんなに土が散乱してるんだ?なんで変な植物、マンドラゴラ?が勇者の血溜まりの中に落ちてるんだ?
ああそうだ、思い出した。
俺はこの世界のこの場所に転生して、魔王の玉座の横にあった植木鉢で、『間違って』勇者を撲殺したのだ。
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