#地獄の口は夏開く。

STORY TELLER 月巳(〜202

#地獄の口は夏開く。

#地獄の口は夏開く。


【storyteller by Tukimi©︎】

20230720

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父が消えた。


荷物を残したままに。

連日電話が鳴り止まない。


母に、父の両親からの電話で息子を返せと大声で泣き叫ぶ祖母の声に謝りながら、私は向こうへ行くように言う母。

言われた通り襖を隔てた部屋まで聞こえる、母のごめんなさいの繰り返しは、取る度始まり、つかれた母が電話の電源を切っていると、うちまで訪ねてきた祖父母が、目の前で母を詰る。


お前のせいで息子が帰ってこない、死んじゃったかもしれない、息子を返せと。

無言の祖父も意見は祖母と同じらしく、祖母が母をぶってぶっている、ハンドバッグを止めない。


痛っと、金具が顔に線を引いたら頭が冷えたのか、手は止まり、二人は帰宅。

あんたまで逃がしゃしないからと言う祖母に。

電話に出ないだけで血を流す母。

二人が帰宅したあたりからまた鳴り出す呼び出し音。

がんと電話器を花瓶で叩いた母は、汗と血とで髪が張り付き、落武者のような顔をして。


怯えた私に顔を笑顔にし直して。

なんか食べる?とちっとも食べたくない顔をしていて、私も食べられる気分じゃないと言った。


何が食べたいより、嵐か地震の過ぎた後みたいな荒れた部屋に。

ただ疲れていた。


母はすぐにでも引っ越したかったらしいが、通帳の残高なしに気づいてパート仕事を決め近所のスーパーと、コンビニ夜勤をし始めた。


相変わらず父の母、祖母からは日に10回は電話がかかる。働く母には時間が合わず出れなくなり、私が出ると途端に猫撫で声で打ちに来ないかと言う彼女に母と暮らしたいと繰り返す。


おもちゃ買うよ、ご飯毎週レストランに連れて行くよと言うのだが、母には怒鳴る人が優しく言っても、ただ怖い、怖いから。

ごめんなさい、ごめんなさいと、母と、いたいと言って切る。



そんなやり取りを繰り返すうちに。朝学校に行く前の家にまたら祖父母が来た。

学校から帰ると母は居らず祖父母が家の前に居て帰ろうと言う。

「あんたの母さんは、昼間いないから子供のあなたが一人だしてゴミ箱みたら、コンビニ弁当のプラスチックばっか、ちゃんとご飯をあなたにしてないようだし、ね。


あなたが一緒だと、そのぶんはたらきにくいだろうから、あなたはうちに住む事になったの、分かった?」


母に、当面の資金として手切れ金を渡して、離婚届を書かせ、私を祖父母に預ける一筆を書かせて。


お別れもない、母も、また私の前から消えた、夏休み前の6月末。

去年、また行こうと言った山登りも、花火大会も、そして。

友達とも、離れた。


声の大きな母と祖母の話は、団地住まいの私の周りの人たちに届いて。

すぐに親から子へ流れた噂が、私を両親から捨てられた子だと避けるべき人間だとのけものにされたから、お別れ会も惜しむ友達だって思っていた子達もなし。


なんの引き止めるものも、なし。

あの日別れだ後居なくなった母も、即日すぐに引越し街から消え。


ただ何も持たずに、新しい学校に転校、と今の学校を退学したのが

夏休み前7月頭だが。

次の学校は、たまたま7月頭から夏休みとの事。


時期が中途半端だから、夏休み明けから入学となり。

しばらく毎日、行き場がなく、私は祖母祖父との夏休み。

外にいけど道や場所わからない、喋り方が違う、早口、友達もいない。



祖父母は、毎週レストランへ連れ、私を自慢していた。孫なのと。

また、新しい生活にボロはいらないと、

あちこち百貨店で服だの、鞄だの、日用品を買いに行くと私を連れてくれる。


新しい学校は、どうやら私立らしく。受けたテストに合格し編入できるとわかるとまた、ケーキで祝うと、初めて会う従兄弟や、叔父たちを呼び、祝い、大人達はお小遣いをくれた。

だが。



祖母に、私立に行ってくれる孫の自慢をし。

彼ら従兄弟たちは何故かわたしを睨む。


そう、彼らは、一つ下げたランクの学校に進学していて、それだけで、祖母に嫌味を言われ、期待はずれだなんと言われていた、事を。


後から。

バケツの水を頭から浴びながら聴いた。


お前のせいでますます、差別されて惨めになったと。



さて。

叔父である、彼らの父も、私の父も出たその学校。どこまで事情を知っているのか、


叔父が、そんな優秀なら、うちで引き取ればよかったかと、冗談を言い、それも従兄弟たちの目を逆立てた。



そのあとだ。

こっそり。

バケツで水をかけられて。

白いTシャツからデニムの短パン、中の下着までぐっしょり濡らされて。


それも、うっかり自分で自分に水を引っかけた話にされ。

夏の悪夢が始まったのは。



夏休みは、従兄弟たちが泊まるらしい家中に安全な居場所はなく。

まさか自分が学校に行くのを待ち望むなんて。




夏休みが来るたび。

母の行方を尋ねて、会いたいのに会えず。

従兄弟たちに悩まされて。


全寮制の中高進学校へ入学。

母とは、まだ会えない、母に断られたって言う祖母に。

怪しみながらも、信じて。


高校後の進学を決めた時。

寮を出て入って聞こえた祖父母、叔父らの話す声。


ナツさんも亡くなってるの言わなきゃならないよ、と。



問えば。

もう葬式すんで墓に入り随分経っていた。

自殺だった、と言う叔父は笑いながら、すんだ事気を落とすなそして、

私達家族がいるから、大丈夫、一人じゃないと。



夏はまた、地獄の口を開ける。

もう、合気道で鍛えた体と腕、そして出会いより、老いている祖父母や叔父のしまりのないたるみ緩んだ体。


そして、同じくらいゆるゆるのダボダボな体をした従兄弟達。


手を出したら勝てる、だけど。

もう、出る家だ。



握りしめて怒りを堪える。



バイト決まったを理由にそうそう、自ら見つけた学生マンション。

大学生活。


に、従兄弟たちが出入りして、ある事ない事を吹き、噂を作る。

まさか、こんなに。



私が嫌いなら、私がいない所に行けばいい。

志望の進学失敗したのは、私のせいではない。



さて。

きりきりと。

神経が張り詰めてキレかかりそうな音がする。


ああ。


今目の前に現れたら?

夏休み、自由な、彼らが現れてくる、

地獄の口がまた、開きかかっている。




-お仕舞い-

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(後書き)

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予定があるから、壊れない倒れない潰れないみたいなことがありますよね。


学校が、家から出られるチャンスとか。

学校に給食があるから、ご飯を食べられるとか。

逆に言えば。


夏休みが、楽しみな人が多い一方。

夏休みこそ、辛い絶望、な人もいるし、過去そうだったって言う、人に言えない秘密で喉を詰まらせ苦しむ人も、いる、と思う。


家庭には他人の人目がないからさ。

閉じられた空間で、助けがなくて、SOSが届かなくて、残念なニュース、とか。


そう。そんな、発想から、

夏が地獄な話を書いたのが今回の話。

日の当たらない側、ありそうな、悲しい側な夏を描いてみました。

安心してください。フィクションです。

だけど、日常一枚隣の壁の人世界が、こうあってしまう可能性はある。


だから、知って、防いで欲しい。

一人でも夏を楽しい季節の記憶でいっぱいにしている人が増えます様に。

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#地獄の口は夏開く。 STORY TELLER 月巳(〜202 @Tsukimi8taiyou

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