第25話

「ほら"ー、きてー···」



 黒く汚れた手が、私の前に差し出されます。言葉もなんとか日本語だし、私に向ける毛だらけの顔は、よく見れば半年間手入れを怠ったチャウチャウのようにも思えます。そういえば、濡れた犬の臭いもしますし。



 私は未知との遭遇を受け入れる決意を固め、彼の手を取ろうとしました。



 でも、それは1人の男性によってはばかられることに────




「駄目だ。」



 深みのある声を周りに響かせて、私の手首を掴んだのは、頬と白いシャツに血を付けて、グレーの髪をうねらせた背の高い男の人。



 さっき、学校で"藍"と皆さんに呼ばれていた方です。



「あ、···藍、さん?」



 私が彼の顔をじっと見つめると、藍さんはすぐに目を反らしてしまいました。



「あ"ー···」



 謎の生物が謎の言葉を発した瞬間、藍さんは拳を一振りふわりとかざすと、謎の生物がお店の壁に勢いよく打ち付けられました。



「へぶしッ」


「え?そ、そんな、いきなり殴ってしまって、大丈夫なのですか?!」



 私はびっくりして、慌てて謎の生物に近づき、手を差し伸べようとしましたが、



藍さんにその手を取られました。



「ダメ。」


「···あ、あの、」


「···っ」



 手をぎゅっと握られた瞬間、藍さんが自分の口に手を当て顔を思い切り反らしてしまい、私はどうしていいかわからず、立ちすくみます。

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