第44話:精密機械人形

 現実世界、広瀬家の庭園。

 東家の椅子に、高校生くらいの女の子が目を閉じて座っている。

 サラサラストレートの髪は自然な栗色、色白の肌もキメ細かくて綺麗。

 睫毛が長く、ハーフっぽい顔立ちも美しく整っている。


「よしいいぞ沙希、目を開けてみな」


 その向かいに膝をついて屈んでいるのは、女の子の兄・コージさん。

 この日、人格コピーAIの沙希は、精密機械人形ナノパペットの身体を手に入れた。


「わ、凄い! 元の私の身体とそっくり!」


 目を開けた沙希は、自分の手足を見回したり、置かれた姿見に映る自分を眺めたりして驚いている。



 電脳犯罪の中でも、他人の身体の自由を奪う行為は殺人と同等に罪が重い。

 複数の人間の意識を電脳世界に封じて昏睡状態に陥らせた九条は、無期懲役を言い渡された。

 彼は資産家であったため、被害者または遺族には九条の資産から慰謝料が支払われている。


 沙希に対する犯行も九条は白状しており、神崎家に多額の慰謝料が支払われた。

 その慰謝料で作られたのが生前の沙希そっくりの精密機械人形ナノパペット

 そこへ神崎家のパソコンに保存されている人格コピーAIをインストールして、沙希の復元が完成した。



「おめでとう! これからはコージさんと一緒にここへ遊びに来れるね」

「うん! 翔太さんのお料理を食べるのが楽しみ!」


 精密機械人形は人間と同じように食事ができて、それを活動エネルギーとして使える。

 沙希はコージさんから聞いた翔太さんの料理に期待を膨らませていた。


「そうかそうか、それは光栄だ。お祝いに作ったケーキ食うか?」

「食べる! 美味しそう!」


 ニコニコしながら言う翔太さん。

 沙希は即答で、東屋のテーブルに置かれたデコレーションケーキに目を輝かせる。


 今日のホームパーティの主役は沙希。

 沙希復活祝いと称して集まったのは、いつものメンバー。

 見た目は女子高生の沙希は飲酒できないので、僕と同じウーロン茶で乾杯だ。


「どうだ? 美味いか?」

「美味しい! 翔太さん最高! 愛してる!」

「なんなら嫁に来てもいいぞ?」

「それは保護者の許可を得てからだな」


 翔太さんと沙希とコージさんのそんなやりとりが、これからの定番になりそう。


 沙希の人格コピーはジュネスに入る前の状態で、彼女は九条の家に通った記憶を持ってはいない。

 九条はレビヤタがサキにしたこととほぼ同じ行為を沙希にしたけれど、性行為の様子を録画したり本人に見せたりしないだけまだマシかもしれない。

 沙希はなにも知らない。

 家族も沙希がショックを受けないように、ジュネスや九条に関することは話していない。


 今の沙希はアイドルに憧れる普通の女の子。

 精密機械人形もアイドルになれる時代だから、そのうちどこかのプロダクションに入るかもしれないね。

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