ピーチビンカ
過去と今
【ピーチビンカ】
隣に住む年上の幼なじみに
俺はずっと虜
~晋side~
初めて告白した時、比奈子は笑った。
ランドセルを背負う俺の真剣を冗談に思ったのか、どこか可笑しかったのかはよくわからないけど……爆笑しやがった。
学ランを着るようになって『好きだ』と伝えても、やっぱり比奈子は軽く『お、サンキュー』と笑った。
それもだんだん呆れ顔に変わっていって、ブレザーを着る頃には、めんどくそうに眉を寄せるようになった。
『バカじゃないの?』
それが比奈子のお決まりの文句。
だけど今はそれもまたちょっとずつ変わってきた。
…――
休日はたいてい約束していなくても、部屋へ向かう。
比奈子の部屋をノックもせずに開けた。
「比奈子」
「うぎゃっ!」
いつもながらナイスリアクションに俺は笑った。
驚いたあとの比奈子は決まっていつも怒ってみせる。
「ちょっと!何度言ったらっ――」
「比奈子!」
怒る比奈子に構わず、強く抱きしめた。
あーやばい、心臓がはしゃぐみてぇにドキドキ躍る。
もうニヤけるのが止まらない。
「晋?な、何?何かあった?」
「んー?別に~」
「別にじゃないでしょ!何?」
「なんつーか、」
ギューッと力を込めたのを少し緩めて、比奈子の顔を覗き込んだ。
「好きだなーっと思って」
「なっ!?いきなり何言って……」
比奈子は微かに視線を反らして、頬っぺたが桃色となった。
「バカじゃないの?」
いつもの決まり文句。
でも付き合う前と少し違う。
タスクいわく、
『ヒナ姉はすぐ表情に出るからわかりやすい』
らしいけど、俺はバカだからよくわかんねぇ時が多い。
でも一度気付いてしまえばこっちのもん。
この『バカじゃないの?』は照れ隠しらしい。
最近、気付いた。
嬉しい。
たまらず比奈子にキスをした。
「んっ!?」
ビックリしたらしい比奈子は一瞬アゴを引いたけど、逃がす気なんてサラサラなくて、追いかけて舌を絡めとる。
鼻から声を出して抵抗する比奈子だけど、それが余計にキスしたくなるってのがわかってないんだろうか。
だけど次第に抵抗しなくなった比奈子は俺のキスに応えてくれた。
やばい、可愛い!
高ぶった気持ちになった俺の右手はつい比奈子の胸を撫でた。
「んっ!?ーッッわ。ちょ……ちょっと!」
焦りの声を出した比奈子に俺は構わず進める。
「ちょっと晋」
「ん、何?」
「バカ、ストップ!」
「なんで?」
とりあえず手を止めて、比奈子の顔を見た。
すげ。
耳まで真っ赤だ。
「なんか……最近多すぎない?」
「……え?何が?」
多いって?
……え?
エッチが?
「えぇっ!?」
俺が思わずビックリした声を出すと、比奈子もビックリした顔になった。
「な…何、驚いての?」
「いや、だって全然じゃない?全然してなくない?」
「いやいや、多いって!」
「いやいやいやいや!俺かなりガマンしてるって!100回に1回ぐらいにしか実行してないって多分!!」
「どんだけ!?」
「いや、マジで!だって毎日してなくない?」
「えぇっ!?あんた毎日したいって思ってたの!?」
「思うよ!男の子だし!!毎日比奈子としたいよ!」
「バ…バ……」
「……比奈子?」
「…晋、バカじゃない?」
俺の言葉に比奈子は真っ赤な顔でどんどん下を向いていく。
……しまった。
はっきり欲情しすぎたか?
比奈子は普段、気が強すぎるぐらいなのに実は下ネタとか割りと苦手らしい。
「比奈子?」
「……」
「ヒナ姉ちゃ~ん?」
「毎日は……」
「…ん?」
「……毎日は恥ずかしくて死ぬ…かも」
「……」
「……」
「……」
もう……なんつーか!!
真っ赤な比奈子のその反応だけで俺の頭ん中が爆発寸前だった。
比奈子はわかってんのか知んねぇけど、理性飛んじゃうよ?ホント。
「いや、なんていうか!!今のつまりそのっ!!」
何故かわかんないけど焦って言い訳を始める比奈子。
だけど、俺は別に言い訳を必要なかった。
黙らせるようにまた比奈子をギューッと抱きしめた。
比奈子の嫌がることはしない。
比奈子の嫌がることはしない。
比奈子の嫌がることはしないっ!
頭ん中で暗示を掛けて、スケベ心はムリヤリ理性で抑えつけた。
ひとつだけ溜め息をついた。
「比奈子」
「……」
「ごめん。ガッツキ過ぎないように気を付ける」
多分ね。
「比奈子、今日はどっか買い物行こうか」
「……そうだね」
俺を伺うようにそう返事をする比奈子が可愛くて、赤いほっぺにキスをする。
「比奈子、好きだ」
「……バカ」
可愛い。
◇◇◇◇
あんなに遠くて叶わないと思っていた恋が、今は隣にいる。
それって、ものすごい幸運なんだってわかっているけど…俺って奴はどんどん欲張りを覚える。
照れている『バカ』もムチャクチャ可愛いけど……
「たまには笑ってくれねぇかなー……」
黒板には自習という白い文字がデカデカと書かれている。
大きすぎる俺の一人言に、隣の席のユキちゃんが俺の方をチラッと見た。
ユキちゃんは今日も、うらやましいほどに男前。
「何の話?」
「比奈子の話」
「あぁ…『比奈子』の話ね」
普段俺がよく喋るから、ユキちゃんも慣れた感じで相づちを打つ。
「普段も笑う時あるけどさ!楽しそうにめっちゃ笑ってるけどさ、そうじゃなくて俺の『好き』に嬉しそうに笑って『私も好き』っていうぐらいの勢いで、言ってくれてもいいんじゃねぇかと思うわけだよ!!たまには」
比奈子の笑顔に惚れて、その笑った顔がムチャクチャ好きな俺としては、そんな夢も考えてしまう。
……まぁ、自分で言ってて途中から『あれ?それ、比奈子じゃなくね?』と気付いたけど。
ユキちゃんの前の席にいるカワシロも振り返って俺らの会話に参加してきた。
「ヒナコ?」
「シンの彼女の名前」
ユキちゃんの説明にカワシロも「あぁ!」と納得した。
「確か……上村くんの幼なじみの人だっけ?」
カワシロの彼氏は俺の友達の『ハコ』ってヤツで、そのハコ
から話を聞いているのか、カワシロはそう言った。
ユキちゃんが更に説明する。
「女子大生だよな」
「女子大生!?すごい!!なんかわからないけど彼女が女子大生って、なんかすごい!!上村くん、大人!」
何故か楽しそうにそう言うカワシロ。
「う~ん……つっても、比奈子は一言で年上って感じじゃなくて……もっと楽しい感じの……」
俺もなんか上手く言えないけど。
比奈子のことを考えると、嬉しいような切ないような……心は踊るような、胸が苦しいような……結局、よくわかんねぇ!
「あーっ!!比奈子のこと考えてたら会いたくなってきた!!」
「教室で何いきなり言ってんだ。お前って、本当に自由に本能のまま言ったり動いたりしてる感じだよな」
「ちょっとユキちゃん!それ心外!!」
「あ?」
「俺だって比奈子のこと考えて、動くことぐらいするっつの!!」
ムチャクチャ我慢してるっつの!!
カワシロは俺の苦労もわかるわけもなく、クスクス笑っている。
「いいなー楽しそうで」
カワシロが言ったことに首を傾げた。
「え?カワシロはハコと付き合ってて、つまんないのか?」
「全然つまんなくないよ!!でも何て言うか……」
「何て言うか?」
「私達、もしかしてマンネリなんかも」
「えぇっ!?マンネリ!?」
マンネリ!?
マンネリって響きにポカンとした。
言葉の意味は知ってるけど、実感したことないし。
でもなんだかとっても良くない単語ってのはわかる。
思わずカワシロの気持ちになってオロオロしてしまった。
「マンネリ……マンネリか…。カワシロ、それはハコとちゃんと話してみた方がいいかもしんねぇぞ」
「うーん、喧嘩したわけじゃないから何て言ったらいいのかわからないけど……わかった!思ってることは言ってみる」
「しかしマンネリか…俺もいつか比奈子とブチ当たるんかな?」
ユキちゃんは途中から俺らの会話に興味なさそうにしているけど、ちゃんと聞いてはくれている。
「マンネリになるまで続けばいいな」
ユキちゃんの言葉にブイサインを見せてみる。
「まっ、当分マンネリはまだまだけどな!俺の愛はエンジン全開だから」
「お前がハズイぐらいかなり真っ直ぐなのはわかった。ま、気を抜くなよ?」
「へ?」
「よくわかんねぇけど、女子大生って俺らなんかより出会いも広いんじゃねぇの?そこらへんも気を付けろよ」
「んー、そこらへんは多分大丈夫。比奈子、男友達少ないし、比奈子も気を付けてくれてるらしいし」
男も混じってる遊びとか飲み会とか…男に絡まれそうなことは避けてくれているらしい。
一回、「遊びに行っていいよ」って言ってみたことがあるけど
『晋が嫌がることはしたくないし、一応…彼女だし』
って、ソッポ向きながら言ってくれた。
あの時はかなりテンション上がった。
比奈子を束縛してるみたいだし、比奈子を信用してないと思われたくないから、口では「いいよ」と言いつつ、本当は内心ムチャクチャ嫌だったから。
すっげぇ嬉しかった。
つーか、やっぱりこうやって比奈子のこと考えてると……
「ああああぁーっ!!!!比奈子に会いてぇーっ!!」
ふいに叫び出した俺にカワシロはケラケラ笑い、ユキちゃんは「うるさい」とドコから出てきたのか輪ゴムで俺の脳天を打った。
周りも何故かクスクス笑ってて、廊下からセンコーもやってきて「うるさいっ!」って言われた。
◇◇◇◇
学校が終わったあとはバイト。
バイトが終わって、やっと家。
「ただいま~」
つって、誰もいねぇけどな。
朝に見ることはあっても、夜はありえねぇ。
うちの親はホント、何してんだか。
別に不満はねぇけど。
小せぇ時は姉ちゃん達が面倒見てくれたようなもんだし。
あと、タスクもいたしな。
カバンを部屋に放り投げ、制服からTシャツとジーンズにサッサと着替えた。
誰もいない家に帰って、荷物を置いたらすぐに侑ん家に行く。
中学になってからユキちゃん達と遊ぶことも増えて、寄らない日もたまにあったけど、この習慣は小学生の時から変わらない。
途中からは比奈子目的だったとも言えるけど。
鍵が空いてたら、インターホンも押さずに飯田家に入る。
もはや当たり前。
「おじゃましまーす!!」
あいさつはしとくよ、一応。
そしてそのまま左手すぐにある比奈子の部屋を開けた。
「あ…あれ?」
部屋に電気が付いてなくて、空っぽなのがすぐにわかった。
比奈子、まだ帰ってきてねぇの?
残念な気持ちでそのまま隣のタスクの部屋も開けた。
「……」
「あぁ、晋。おかえり」
ベッドに腰掛けて雑誌を読むタスクが俺にそう言った。
その隣に……
「晋、あれ?今日バイトって言ってなかったっけ?」
いないと思っていた比奈子がいた。
タスクの手元にある雑誌を覗き込んでいたっぽい比奈子はタスクに横にいて……めちゃくちゃ近すぎないか?
「何…してんだ?」
寄り添うように見える二人。
予想外に動揺してる……俺。
「晋聞いて、こないだ私の好きなケーキ屋がこっちに支店出来るって言ってたじゃない?新装オープンで期間限定プリンが出るんだって。これは初日から並んで狙うべきか」
真剣に雑誌を覗き込む比奈子。
タスクも目を細めて雑誌をガン見する。
「でも初日は平日だし……」
「侑、あんたこの日に風邪ひくとかインフルエンザに掛かる予定ない?」
「学校休めと言ってんのか」
甘党姉弟……。
つーか、やっぱり近い!
「比奈子っ!」
俺に名前を呼ばれたから顔を上げた比奈子に手を伸ばした。
ガキっぽいとわかっていたけど、タスクから離したい。
比奈子の両肩を掴んだら、バランス崩して前のめりになった。
「あれ?」
「へ?」
とっさに比奈子を抱き締めて倒れ込んだ俺は、結果……比奈子をベッドで押し倒した形となった。
「ぎゃあっ!!バカっ!!!!何してんの!?」
「誤解!マジ誤解!!勢い余った!!」
「侑がいる目の前で何考えてんのよ!!バカバカ!!」
「マジ違うって!俺はちょっとタスクから離そうと…」
「なぁ、ヒナ姉は大学生なんだから午前だけサボるってこと出来ない?」
タスクは俺ら二人のことはスルーで、マイペースに雑誌を読んでいた。
…――
「もうホント信じらんない!」
俺の部屋で二人になっても、比奈子はまだご立腹だった。
「だから、ホントに誤解だって!さすがの俺もタスクの前では発情しねぇって!!」
「発情て、あんた……」
「だって、なんつーかさ」
「何?」
「比奈子とタスクって……仲良いよな」
「…………へ?」
比奈子は一瞬可愛くキョトンとしたが、すぐにいつもの呆れ顔になった。
「何言ってんの。別に普通じゃん」
普通つっても、その普通が自然で、仲良いのはむしろ当たり前すぎて普通になってる感じが……
自分で言ってて途中からワケわからんくなってきた。
つまり俺、意外なライバルにめちゃくちゃ焦ってる。
「比奈子さんは隠れブラコンだ」
「はあ?さっきから何言ってんの?」
タスクは正直俺より背も高いし頭も良い。
俺よりも比奈子の表情も理解してるっぽいし。
普通に良い奴だし俺もタスクのこと好きだし……勝てる気がしない。
「タスクが弟でマジで良かった」
「何、晋…もしかして」
「ん?」
「侑に嫉妬してんの?」
「……悪いかよ」
俺が口をすぼめてそう言うと、比奈子はクスクスと笑いだした。
「バカ、侑は弟じゃない」
ちぇっ、比奈子はこういう時いつも笑いやがる。
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