第5話 ひと時の楽しみ(前編)
七の一件が終わった後、僕たちは学園生活を送っていた。
学園生活といっても、授業を受けることはせず、生徒会室で仲間と一緒に遊んだり、学食を食べたりしていた。
「特にすることがないって、こんなにも暇なことなのね…」
凛が暇そうにしていた。
本来ならミッションを受けて過ごしていたが、雫の方針で一旦、中止となった。
それもあって、することが特になかった。
「あの…唐突だけど、みんなでバーベキューをしませんか?」
みんな椅子に座りこんで暇そうにしているところに、はるはバーベキューを提案した。
「そろそろ、暑くなってくる時期なので、屋上でバーベキューをしたいと思ったのですが…」
雫はその案に即答で答えた。
「はる!いいわね!それ!そうと決まれば、各自の役割を言うわ」
「まず、男子四人組はバーベキューの設営をしてもらうわ。テントを用意して、屋根をつけなさい。日焼けするのは嫌だからね」
力仕事は男子にお任せって感じか。
たまにはいいところを見せるとしますか。
「女子組は食料の調達をするわ。楽しみに待ってなさいよね!」
すごく張り切っている様子だ。
久しぶりに大きなイベントするのは球技大会以来でワクワクしてくる。
海はめんどくさそうな様子で、陣と吉久はやる気満々の様子だ。
僕はというと、何も思わない。
ただ、美味しいものが食べれると思うとやる気は出てくる。
男子と女子に分かれて作業が始まった。
「まずは役割分担でも決めないか?」
僕は海、陣、久吉に提案をした。
「俺は何でもいいよ。どうせ、やらなきゃならないことだから」
「役割分担したほうが効率は良さそうだし、僕は良いよ」
陣はそう言った。
同じように吉久も賛成した。
「陣と久吉はバーベキューの準備をお願いしてもいいかな?僕と海でテントを建てるよ」
僕が役割分担を決めた後、久吉と陣は「任せて!」といった素振りをした。
海は特に何も思ってない様子だった。
「それでは、女子が帰ってくるまでに素早く終わらせよう!」
僕が言った後、各自作業に取り組んだ。
僕と海でテントを建てていった。
建てている中で僕は海に七の件を話した。
「海は今回、七が記憶を取り戻し、メッセージでは衝撃な内容だったけど、海は自分の過去や、この世界について知りたいと思う?」
沈黙のまま作業を続けていたため、何か話題を出さないと思って、今回のことを話題にしてしまったが、さすがにまずかったかな…
海は意外にも自分の意見を話した。
「七があのような状態になったのは意外だった。俺から見た七はいつも冷静でいたからな。そんな中、あのようなメッセージが送られてきたら、いくら七でもあのような状態になってもおかしくはなかったからな」
僕はこの世界に来て、まだ一週間にも過ぎない。
僕が来るまでは、僕以外の仲間たちは長い間一緒にいたのだから、ある程度は知っているはずだ。
海がいうのだから、今回の件は異例の出来事なんだろう。
「俺はこの世界については、正直どうでもいいんだよ。知りたくないと言えば嘘になる。だけど、みんなのように知りたいと強くおもわない。仲間が知りたいというなら、俺は反対をすることはしないからな」
海はこの世界には無頓着なんだ…
なんか意外な言葉が帰ってきてびっくりした。
最初の方は、海も驚いていたから気にすると思っていたけど、そうでもなかったんだ…
「なんか海は意外だね。海からそんな言葉が返ってくるとは思わなかったよ。なんというか、もっと反対しそうなイメージだったから」
「利木にはそう見えるんだな。自分で言うのもおかしな話だけど、これでも結構仲間思いで自主性を大事にしているんだがな」
海と一対一で話すのは初めてだ。
しかも、ここまでしっかり話してくれるんだから。
「僕はこの世界と過去を知りたい。残酷な世界だったとしても、受け入れて知りたいんだ。僕がこの世界を来たことによって、この世界が変わろうとしている。原因は僕にあると思うんだ」
そうさ。
僕が原因で仲間を辛い思いをさせてしまった。
七のように。
七だけじゃない、七以外の人にも。
「まあ、そこまで深刻にならなくていいんだよ、利木。お前が来たからといって、誰も責めてはいないよ。いずれ、その時が来る。それが、今だったって話」
「海って結構、強いんだね。なんていうか、心構えっていうかさ」
「強がってはいないとだけ、言っておくよ。誤解を招きたくないからな。そんなことよりも、早く終わらせてしまおうぜ。久吉たちが何をするかわからないからな」
海と話してみたら知らないことがたくさん聞けた。
ちょっと怖い存在だったけど今回話してみて、僕が今まで思っていた海の印象が変わった。
海と話をしながらテントの設営を進めていった。
協力しながらなんとかテントの方は終わった。
「よし!テントの設営はこれで大丈夫だな。後は久吉たちだけど、手伝いに行くか」
テントの設営が終わった後、海は背伸びをして体をほぐした。
その後、僕と海は久吉たちのもとへ向かった。
陣はバーベキュー台を黙々と組み立てていた。
組み立て終わったテーブルがあり、久吉は椅子に座って意気消沈のようだ。
「陣、久吉はなんで燃え尽きた様子をしているんだ?」
「僕はテーブルを組み立てていたのだけど『バーベキュー台を組み立ててくれるかな?』て言ったのだけど、僕が組み立てが終わって様子を見に行くと、まだ完成してなくて代わりに僕が組み立てをしているところなんだよ。その後、テーブルに向かっていった後、ずっとあの様子なんだ」
久吉の代わりに陣がバーベキュー台を組み立てていた。
久吉を見た海は、
「久吉…お前、本当に不器用だな。いつも思うけど。あの時の球技大会の吉久はどこに行ったんだ…」
久吉の様子を見た海は呆れていた。
そんな久吉の様子をみた海は、久吉に提案をした。
「バカでもできる作業を与えてあげるか…久吉!お前は今から薪を割ってくれ。火をつけるのに必要なんだ。それくらいはできるだろ?」
そう言った後、久吉は一気にやる気が出たようだ。
「それなら僕にもできるよ。任してよ!」
その後、久吉は学校にある薪置き場に薪を取りにいた。
簡単な作業ならできるみたいで、簡単な作業なら出来ないようだ。
「久吉ってバカだからか、複雑な作業は向いてないんだな」
「バカってよりも、もともと複雑なことには向いてないんだよね。それをみんなが知ってから、久吉には簡単なことしか頼んでないんだ」
バカ関係なく元から不器用なんだな。吉久は。
これから、なにか頼むときは簡単なことを頼むしかないか。
「よし!これでバーベキュー台も無事完成と」
流石陣だ。手際よく組み立てを終わらせた。
作業を終えた頃に、大量の薪をもって久吉が帰ってきた。
「お前…そんな量をもって何に使うつもりなんだ?キャンプファイヤーでもする気かよ!」
両手に薪を抱え、背中にも薪が大量にあった。
久吉には加減というものがわからないのか?
物凄い量を持ってきてるし、やっぱりバカだ…
「僕は薪を割るから、みんなは座っていてよ。後は僕がするから。こういうのは得意なんだ」
自信ありげに薪割の準備を始めた。
「あ…斧忘れたから、ちょっと取ってくるよ」
薪にしか頭になかったようで、肝心の斧を忘れたようだ。
「ドジというか、天然というか、バカというか、久吉はどんな奴なんだ?」
みんなテーブルの椅子に座って、僕は陣と海に聞いてみた。
「あいつはバカだ。だけど、悪い奴ではない」
海はそういった。
「海の言った通り。吉久は良い人だよ。子供っぽいところがあるけど、それでも仲間のことを思ってくれる」
陣も吉久はバカだと思っているようだ。
口には出さないけど、遠回しに言っている。
久吉は確かにバカだ。だけど、今までの行動すべて、気にかけてくれた。
よく、優奈に怒られるを見かけるけど…
「久吉のおかげで、この世界に来て僕は楽しい思いをいっぱいしているからね」
陣は「楽しい」て言葉が口癖のように言っている。
それくらい、陣にとっては楽しいことがよほど嬉しいことなんだろうな。
それは、知らない過去の記憶が影響しているんだろうか。
「久吉が帰ってきたよ」
よく見ると追加で薪を持ってきていた。
お前ってやつは…
もう必要ないのになんで薪をまた持ってくるんだ!
「バカだな、あいつ…」
海がボソッと言った。
戻ってきた久吉は、ポケットからみんなの分の飲み物を買ってきたようで、それを僕たちに配った。
「いつも迷惑かけてしまっているから、僕からのお礼の気持ちを込めてゆっくり休んで。僕は薪を割るからゆっくりしてて」
迷惑というより、なんといえば良いのかわからないけど。
でも、久吉の中では少しそういう気持ちがあるんだろうとわかった。
「久吉、ジュースありがとう」
僕は久吉に感謝した。
「かまわないよ」と仕草で伝えた。
僕は飲み物を開けて、陣に七の件を聞いた。
「海にも聞いたのだけど、陣は七の件についてどう思う?」
陣は少し考えているようだ。
考え終えると陣は話した。
「そうだね…今回は少し驚いたよ。僕たちは死んでいたことにね。過去の記憶がどうだったのか、知るには少し怖いけど、この世界のことについては興味あるかな」
みんなそうだよな。
過去の記憶を知ることが怖いのは誰でも同じだ。
なぜなら、死んでこの世界に来ているのだから。
そんな記憶を一気に取り戻した時、パニックになるのも仕方ないこと。
「誰でも過去の記憶を知るのは怖いか…そうだよな。死んだ自分を知るなんて、怖いのも仕方ないよな」
この世界の秘密…僕の過去の記憶…
そして、この世界と僕の関係性…
考えれば考えるほど、わからなくなってくる。
「利木くんはどう思っているの?今回のことで」
「僕は…この世界と過去を知りたいと思っている。知ったところで何ってなると思うけど。知らないことよりも、知っていた方がね」
「記憶が戻ったとき、僕も七さんのようになるかもね」
「それは誰でも同じようになると思うよ、きっと。それを覚悟しておかないとな」
誰が記憶を取り戻すかわからない。だから、受け入れる覚悟が出来たとき、ミッションに挑むだろう。
そんな話をしながら、久吉を見ると大量の薪が割られていた。
こんなにも必要なのか?と思うようなくらい。
キャンプファイヤーでもするのか?
黙々としていたから、本人もどのくらい切っていたのかわかっていない様子だ。
「久吉、もう薪を割らなくてもいいよ。さすがに切りすぎだ…」
僕は久吉に「これ以上必要ない」といった。
その後「こっちに来て一緒に女子たちを待っていよう」と声をかけ、僕たちは同じテーブルに座って雫たちの帰りを待った。
一方、女子組はというと食堂で食材調達、食器や包丁などを取りに調理室へ二組に分かれた。
食材調達組は、雫と七が担当になった。
「またこの二人になりましたね。球技大会の前日の夜以来ですね」
七が最初に話を切り出した。
「雫にはいつも迷惑かけてばかりで申し訳ないのと、お世話になってばかりの両方しかありません」
食堂に向かいながら廊下を歩き、二人は会話を交わした。
「私は当たり前のことをしているだけよ、七。それに七も当たり前のことをいつもしているじゃない。どっちもどっちよ」
雫にとっては、それが当たり前の行動だ。
性格もあると思うけど、この世界、最初に来たのは雫だ。
一人でいた経験も生きているに違いない。
記憶を取り戻した七だが、優等生でいなければなかった過去。
ポジティブに考えれば、それが生きている。
それは球技大会で発揮され証明された。
「記憶を取り戻した私は過去に囚われず、今を生きていくことにした。まともな暮らしや楽しい学校生活をしたことがないから」
「これからは、私たちと一緒に楽しめばいいわ。七は過去と向き合って自分の生き方を見つけたのだから。私がこれから、七を楽しめれられるようにしていくわ」
雫は七に約束をした。
七は雫の後ろをついていこうと思った。
きっと楽しいことがいっぱいあると思いながら過ごしていこうと思っている。
「私は雫についていく。雫が困ったとき、私が雫を助ける」
「ありがとう、七。その時は、七に助けてもらおうかしら」
「喜んで」
二人は他愛もない会話を交わした。
話をしながら食堂に着いた二人。
バーベキューをするために、肉や野菜を食堂に着いた。
「おばちゃん、バーベキューに使う食材をください」
食堂のおばちゃんは、裏に行って冷蔵庫から食材を取り出した。
「はいよ、新鮮な食材だよ。楽しんできな」
食堂のおばちゃんは、雫たちにバーベキューの食材を渡した。
食材を見てみるよと、取れたての食材がズラリと並んでいた。
「美味しそうな食材ですね。ありがとうございます」
七はおばちゃんにお礼を言った。
食材をもって雫たちは屋上へ向かった。
はると凛、優奈は食器と調理器具を取りに向かった。
「あの後、七の様子はどうなの?」
凛は七のその後を気にしていたようで、優奈に聞いた。
「最初はいつ目覚めるかわからなったわ。気を失った時は、いつもより気をつけて看病をしていたわ。目を覚ました時は、現実を受け入れられるような状態じゃなかったわ。みんなもあの姿をみればわかったと思うわ」
初めての出来事だけに優奈さえ、どうしていいのかわからなかった。
目を覚ましてくれるのを待つしかなかった。
そう願っていた。
「そんな凛も、倒れたわよね。それこそ、大丈夫なの?あれ以降、体調は?生徒会メンバーの中では一番心配しているのよ。凛はメンタル面が弱いの知っているわ」
この世界が変わろうとした時、凛は倒れこんだ。
今までもな何度か弱い面をみせていた。だから一番気にしなければいけないのは、凛だと優奈は思っている。
「そうだよ、凛はショックを受けやすいの知っているから。いつも、隣にいて知っているんだから。無理はしてほしくないな」
はるも凛を気遣っているようで、隣にいるからこそ、些細なことも感じ取ることが出来る。
「現状、これ以上は何か変わってほしいとは思わない。けど、いつか向き合わなければいけない時が来ると感じる。実際に、変わろうとこの世界は動いていることは事実だから。強くならないとね」
「だけど無理は禁物だからね」
優奈は凛に注意をした。
「わかっているわ」というそぶりを見せた。
現実をいつか受け止めなければいけないと、凛は思っているみたい。
今の凛では、まだ耐えれるような状態ではないと、はるも優奈も思っている。
優奈は使えそうな調理器具を探し、凛とはるは食器を取りに探した。
調味料系も優奈が調達した。
「ねえ、凛。この食器可愛いと思うのだけどどう?」
可愛い食器をはるが見つけたようで、はるは目が輝いていた。
凛は駆けつけると、うれしそうに食器をみていた。
「はるは、可愛いものには目がないね。確かにその食器可愛いわね。さすがはる!」
二人は一緒に食器を眺めながら、必要なものを集めた。
優奈も集め終わったようで、二人のもとに戻ると凛とはるは子供のようにはしゃいでいた。
「楽しそうでいいわね。二人とも、そろそろ戻るよ」
そう言った優奈は、二人を連れてバーベキュー会場へ戻った。
それぞれが帰っている途中、偶然にも鉢合わせた。
「雫ちゃんたちは今帰り?」
優奈は雫に言った。
優奈は雫たちが持っている食材をみて、
「美味しそうな食材がいっぱいあるわね。作りごたえがありそうだわ」
優奈は作る前からやる気満々に満ちていた。
はると凛も、雫たちが持ってる食材を覗き込んでいた。
それをみた凛は、お腹がすいているのか、お腹が鳴った。
「凛、いま…」
はるが言いかけたとき、
「うるさい!私は何も知らない!」
と言いながら顔を赤くした。
優奈は気を使ってなのか売店に行く提案をし、売店へ寄り道した。
売店に着くと、凛は真っ先に自分のものを買い、みんなが買い終わるのを待ちながら買ったものを食べていた。
他のメンバーは飲み物やお菓子を買い済ませて、みんなと一緒に屋上へ戻った。
屋上に戻った女子組に男子たちは
「お!帰ってきた!おかえり!」
と言った。
珍しく久吉が女子たちが持っている荷物をもって、机の上へと運んだ。
「久吉て、たまには優しいところあるんだな」
僕はボソッと口に出したみたいで
「普段、何をするかわからない人だけど、たまには気が利くんだよ。根が優しい反面、ちょっと予想不可能な行動をすることもあるけどね」
と、陣は久吉について話した。
「ごめん。悪気で言ったわけじゃないんだ」
僕は口を滑らせてしまった。
悪気に言ってしまったようになったみたいで、僕は陣に謝った。
「わかってるよ。悪気じゃないってくらい。意外な場面に驚いただけでしょ」
陣は笑顔に返した。
「さて、すべてそろったことだし、『名もない生徒会』でバーベキューをするわよ!」
意外と雫は楽しみにしていたようだ。
言った言葉に気持ちが込められていた。
凛は何かに気づいたようで
「久吉のバカ!こんな量の薪を割って何に使うんだよ!バカ!」
凛は大量の薪に気づいたようだ。
凛と久吉の、いつもの光景が始まった。
「あの二人、仲良しと言っていいのかわからないな」
「気にするな。いつもの光景だからこそ、幸せで居られてる証拠だからな」
「海の割には、珍しく良いこと言うね」
「うるさい」
こんな日常が続けばいいけど、いつかは終わりも来るのかな。
今を楽しもう。
僕は食器を並べることにした。
その隣には雫がいた。雫も食器を並べていた。
「あれ、雫は料理とかはしないの?」
「私は料理とか複雑なことは苦手なの。リーダーシップはあると思うのだけど、料理は難しいから優奈に任せてるの。こっちの世界では」
何でも出来そうなイメージだったけど、雫にも苦手なものってあるんだな。
僕はどうなんだろう…
まだ、自分は何が出来て、何が出来ないのかわからないからな…
知る機会あればいいな。
「雫にも不得意得意てあったんだな。僕は何ができるのかまだわからない。まだ、この世界に来て少ないからな」
「やってみて、何ができるかわかる時が来るよ。球技大会みたいにね」
球技大会やテストもある程度できていたみたいだしな。
地道に探すか。
そんなこんなで、雫と一緒に食器を並び終えた。
陣は優奈と一緒に料理を手伝っている。
陣と優奈のコンビは安心できるな。
流石に料理のハズレはないし一安心だ。
海は、火起こしをしている。
力仕事は海の役割で分担作業出来ている。
はるは、まだ凛と久吉の絡みが続いているようで、手が付けられないようで見てて大変だなと見てて思う。
「雫、僕たち暇だから具材を串に指すことしないか?それなら、雫も出来るでしょ」
「まあ、それくらいなら出来るしいいわよ」
僕と雫は具材を串に刺す手伝いをした。
陣と優奈が切った食材を僕たちは串に刺して並べていった。
黙々と出来上がった串が並べられ、陣と優奈が料理に取り掛かった。
陣が串を焼いていて、優奈はカレーを作っている。
カレーのスパイスの匂いが漂ってきた。
陣の串も焼けて香りがよく、美味しい匂いが屋上に充満している。
なんだかんだ、各所で何かしら行われているが、無事に料理が完成したよ
テーブルには七がみんなのドリンクを用意していた。
料理は冷めないように、弱火のところに置かれている。
雫が中心に立ちみんなに挨拶をした。
メンバーのみんなはドリンクを片手に雫を待っていた。
「みんな、ご苦労様。なんとか無事に料理もドリンクも揃い、みんなのおかげで開始できるわ。それじゃあ行くわよ。乾杯!」
『乾杯!』
雫の合図の後にみんな一斉に、ドリンクを掲げて『名もない生徒会』のバーベキューが開催された。
「久吉、肉だけ食べちゃだめだからね!」
「久吉くん、わかってるわね?」
凛と優奈の圧が吉久にかかって
「はい…」
素直な返事になった。
凛といつも騒いでるイメージあるけど、優奈も久吉に厳しいからな。
隣では雫がいて美味しそうに食べてる。
「みんなと一緒にするってたのしいね、利木くん」
陣も楽しそうにしていた。
楽しいことは陣にとって特別なんだろうな。
海は黙々と食べているようで、各自楽しんでいる様子が見れた。
「こんな幸せはいつか唐突に終わりがくるんだろうな…」
また口に出てしまった。
今日は特に多い。
ずっと続いてほしい気持ちしかない。
「いつか終わりは必ず来るものだわ。どんな終わり方をするかは知らないけど」
雫は食べながら僕が言ったことを聞いていたみたい。
「それはそうだけど…でも、なんか真実を知りたいと思っても、やっぱり心のどこかでは知りたくない自分がいる気がする」
「利木くんは特に、この世界において特別な存在なのかもしれないね」
やっぱりそうなのか…
僕の存在がノイズになってるのか?
まあ、今の方針は一旦ストップの状態だし、いつかわかる時がくるかもだし。
みんな賑やかなバーベキューを楽しんでいた。
ある程度食べ終わったところに、締めのカレーライスが出てきた。
「優奈特性カレーライスよ。召し上がれ」
外で食べるカレーは特別感があるな。
不思議だよな…
食べる環境によって味が変わるのって。
おいしい…
野外と言えばカレーライスだよな。
「優奈カレー旨いね!」
久吉がすごい勢いでカレーライスが無くなっていく。
それを見た優奈は嬉しそうだった。
食べ終わった凛はテントで仮眠をした。
「凛、食べてすぐ横になると、胃もたれするよ」
「いいの。私は大丈夫だから!」
その自信はどこから来るのだ、一体。
凛とはるはいつも一緒だから多分大丈夫なんだろう。
食べ終わった仲間たちは、各自バーベキューの余韻に浸っていた。
幸せな時間は過ぎていき、バーベキューの片づけをすることになった。
夜は昼に建てたテントで寝泊まりすることになった。
だから、テント以外を片づけることに。
明日の朝、優奈は朝食を作るため、一部は残した。
テントで寝ていた凛をはるは起こしに行って、凛も片づけに参加することにした。
私と雫、七は洗い物を担当した。
洗い物をもって洗い場へ向かった。
僕は洗剤で洗い、洗ったものを雫は水で流し、流し終わったものを七がタオルで水気を拭き取った。
協力しながら汚れたものを洗い続けた。
「なんでもそうだけど、楽しいことをした後って、祭りの後みたいでなんだか寂しいな…」
手を動かしながら僕は言った。
「私たちと一緒にいる限り楽しいことは続くわ。この世界が許してくれる限りね。でも、それがいつでも続くかは誰もわからない。まあ、利木くんの言ってることもわからなくはないかな」
雫も寂しいんだ…
楽しい後は当然といえば当然のことか。
「七はどうなの?こういう行事て、やっぱり寂しいと思う?」
「私だけ記憶を取り戻した今だから言えることだけど、こういう行事ってまともに参加したの初めて。いつも、母に縛られる人生だったから」
「ごめん…なんか僕、嫌なことを思い出させてしまったみたい」
「謝る必要なんてないですよ。私は今を楽しむって決めて楽しんでます。記憶を取り戻す前の球技大会も心のどこかで『楽しい』と思っていました。記憶を取り戻した今は、記憶を取り戻す前より楽しいと思ってます。利木くんが言ったように楽しい時間が過ぎた今、寂しいと感じてます」
七は記憶を取り戻す前より、明るい感じになっている。
過去と向き合ったからこそ、強くなったんだと僕は感じた。
「僕の洗い物は終わったけど、そっちの方はどう?」
「私と凛も終わったわ。後は必要なものだけを残して、調理室へ持って行くだけよ」
「ひとまず、みんなのところに戻るか」
そう言った僕は雫と凛と一緒にみんなのところに戻った。
戻って周りを見ると片づけは終わったようだ。
「洗い物終わったよ。陣たちはどう?」
「僕たちも終わったばかりだよ。片づけを終わった凛はまたテントに向かって入っていったよ。その後をついていくように、はるもテントに入っていったよ。海は学校のシャワーを借りれるように、職員室に行って許可を取りに行っているところ。優奈はホットミルクココアを作っているよ。ほら」
隣を見てみると、みんなの分のホットココアを作っている。
夜は少し冷え込むから温かい飲み物は助かるな。
「海は一人、どこかに行ったよ。いつものことのように」
海は誰かと一緒にいるというより、一人でいることが多い。
性格的にも一人でいることが好きなんだろうな。
「陣、洗い終わったものを調理室へ戻しに行くのだけど、一人だと多すぎるから来て手伝ってくれないかな?」
「うん、いいよ。僕でよければ手伝うよ」
陣は僕と調理室へ行く前に優奈に、
「優奈、利木くんと洗い終わったものを戻しに調理室へ行ってくるよ」
優奈に行くことを伝えて、僕と陣は洗い終わったものを調理室へ戻しに行くことにした。
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