忘れてやらない
『ちょっと馬鹿!! 前! 前!!』
「え、うわ!?」
一瞬の煌めきに、目が眩み、開いた先には突っ込んでくるダンプカー。反射的に手にしていたハンドルを切って神がかり的な回避をしたところで自分が、バイクに乗っていた事を理解する。
『あんのねえ?アンタがバイクで送ってくれるって言うから、二人乗りしたんでしょうが! 学生最後の大会前に私を殺す気か!!』
「せ、セイ? お前、人体腐敗化症候に………」
『何よ、幽霊でも見たような声して。お生憎。パルクールで世界チャンプになるまでは死ぬ気なんてないからね!』
腹に回された腕が暖かい。生きている、彼女が生きて話している。なのにさっきまでとは違って、自分が過去を追体験している。
「あ、ああ………なんつーか、悪い夢?を見てな。お前がその………パルクールで事故を起こして」
『はあ? あっきれた。私がそんなミスするわけないでしょうが。よっぽど浮かれてない限りね。しっかし、縁起悪い夢を見たわね、アンタも。未来が怖くなってきたじゃない』
「セイ………お前さ、俺たちと連むのもうやめとけ」
後ろを振り返れば澄ました顔の彼女がいて。荷台に腰掛けて腕を腹辺りに回す彼女の存在に気づけばそんな言葉を漏らしていて。
「お前は世界に羽ばたける未来の卵だ。俺たちの星なんだ。お前に教えてもらったパルクールのおかげで俺たちも不良やめるしな。タカがチーム設立に動いてくれてるし、ここらで縁を切った方がいい」
『隼に何か言われた? この間、集会に金属バットで殴り込みに来たらしいわね。幼馴染みとして心配だわ、その無駄な行動力』
「………まあ、な。セイはさ、隼と付き合うつもりはないのか? ほら、一途だし、医者志望だろ? 俺たちと連んでお前の未来を縛りたくないんだ」
『………ふーん? らしくないわね。普段、あんだけ気を遣わないアンタがそんな事言うなんて。でもお断り。私、隼と趣味が合わないし。パルクールに一切興味ないし、応援来ないしね』
「いやいや、俺たちより真面目に生きてるだけ偉いって。明日には死んでるかもしれないし、ダメになってるかもしれない俺たちよりは断然………」
『──アンタさ、私になんて言って欲しいわけ?』
まるで見抜かれていたような物言いに、俺はただ黙ってバイクの速度を落とした。自分の声があまりに小さくて、風やバイク音に遮られ、彼女に届かないだろうから。
「俺はお前に幸せになって欲しかった。誰より自由でいてほしかった。俺たちみたいなぬるま湯に浸かるんじゃなくて、皆に夢を与える星みたいに」
『───で?』
「俺はお前に、決別されたかった。お前はいるだけで世界の邪魔になる。死んだ方が世の為だと突き放して欲しかった。お前の優しさに甘えた結果………未来を奪った」
セイは俺たち屑からでも魅力的な人物だった。
真面目腐ったアスリートかと思えば、俺たちすら呆れ返る度胸と奇行で気づけば仲間として認められていた。八咫烏も彼女に感化されるように、喧嘩に煙草も辞めて、パルクールを始めたり、足を洗った者もいた。
「我ながら我儘だよな。こっちから巻き込んでおいて、勝手に突き放して欲しいだなんて。でもお前が植物状態になって、人体腐敗症候になって、俺たちは後悔した」
面会謝絶は当然な上、セイの事故は俺が鷲宮に命令した事になっていたから警察による尋問。鷲宮が麻薬でやらかさなければ、冤罪だったなんて誰も知る由はなかったろう。
「ルリはお前の夢を継いだ。タカはお前の夢を繋ぎ止める場所を作った。俺は自分を責めて──全てから逃げた」
俺の仲間は遥かに俺よりまともだった。セイがいつ目を覚ましてもいいように、帰って来れる場所を作ってた。なのに、俺はどうして何もしなかった?
「俺の上ではルリやタカがずっと輝いていた。彼奴らだけじゃない。パルクールチーム三羽烏で働いてる仲間達もだ。俺だけがそいつらをただ見上げていただけ」
そして一人、また一人と側からは友人が消えていき、気付けば星空の下に取り残されているのは俺だけで。星の光も見失って、周りにいた友人も失って、ただ一人でぽつんと夜の闇に取り残されてしまったとき、ようやく気付いた。
「俺はお前から、夢から逃げたんだ。また挑戦することすらやめて腐っていた。自分ばかり責めて、お前と話した約束や夢も捨てた俺を許してほしくなかった」
『私が許すはずがないって思わなかったの?』
「都合の良い話だけど、お前が俺を恨むとは思わなかったよ。お前はいい奴だからな。だから甘えてしまって、今がある」
『呆れた………アンタは私に夢を見過ぎよ。だって私、今のアンタは許さないもの』
「だよな。分かってる。だから殺してくれて構わ──」
『私との約束から逃げた臆病者だもんね。だから、私は今のアンタは大嫌いよ』
ふと、バイクが軽くなる。後ろを向けば、セイは黒髪を靡かせてバイクから降りていて。俺もバイクを降りようとすれば、何故かエンジン音がかかって嫌な予感がした。
「セイ………待て、何処に?」
『だけど殺す前に、目を覚ましなさい。タカとルリがアンタより先に死ぬわよ。私の大事な友達、アンタが守ってよ』
「待て、行くな………セイ! 戻れ! まだお前に俺は何も………!!」
『臆病者のアンタの言葉は聞きたくない。だから、証明してよ。アンタがもう逃げない事、夢を追いかけることを』
「セイ、俺はお前を──」
『私は挑戦し続けるアンタが好き。届かない星を掴もうとする太陽みたいなアンタが好き。だから、いつか必ず──』
バイクの速度が上がる。伸ばした掌から彼女の姿が遠ざかる。ちりんちりんと、鈴が鳴り、バイクは音の鳴る方へ進んでいき、世界に光が散った。
目が焼き付くような星の煌めきに消えるように、セイの唇が僅かに動いて、
『私に──目覚めのキスをして』
11
「おっは~ボス、起きた~?」
「ルリ……!! どうしたその傷は!!」
「名誉の負傷……ごめん、痛くて泣きそうなんだ」
意識が急速に回復した世界が出迎えたのはむせかえるほどの甘い香り、床はシフォン生地をチョコレートコーティング、壁は白塗りのクリームとビスケット生地に紅い苺の切り身が飾られた、まるでケーキの中身に入り込んだ大広間、野球ドームはある広さの中心には自分たちがいて。周りをジンジャーブレッド人形がポップコーン片手に俺達を観戦していた。
その中心で俺を守る背中があった。黒く、炭のように焼けただれた肌を抑えるようにして鮮血のドレスを纏っていたのはルリで、思わず声を荒げた瞬間、彼女の膝から力が抜けて崩れるのを受け止める。
「やあ、大将! いい夢は見れたかな?」
「最悪の気分だ。最悪の目覚ましだ……八つ当たりがしてえ気分だよ!!」
「そう怒らないでよ。こっちだって意外だと思ってるんだ。まさか、大将があの悪夢に打ち勝てるなんて……ちょっとイラっとしたのはこっちだよ」
同時に奥の階段から一人の声に振り向けば、苦い思い出である男がそこには立っていた。噛みつく俺に鷲宮は少し疑いの目を向けるが、すぐに感極まった声を上げて。
「ゲームをしようか。大将! 勝利条件は互いの殺害。勝者が独り占めだ。もちろん、決定権は君たちにはないけどね」
「要するに喧嘩で勝ったほうが総取りという名の公開処刑か
?」
「そうだよ!! ちなみに選手交代しないなら、姉御から殺すけど」
「なるほど、状況は把握した。代われ、ルリ。奴は俺がご所望だ」
「でもっ!! うぐっ!!」
「お前にやれないことは誰かがやる。お前にしかできないことをやり通せ。八咫烏時代からの言葉を忘れるな。あいつの相手は俺が引き継ぐ。お前はタカを探してこい」
全身見る限り、火傷がひどい。加えて、心臓を抑えての荒い呼吸。すでに彼女の体は限界に近いことがわかる。俺が目覚めるまで、一歩も譲らなかった片翼に安心するように笑いかけて。
「それとも俺はお前が思うほどに情けない男か?」
「っ!! それはずるいって。うちは何の心配もしてないからさ………好きなだけぶつけてきなよ」
ルリはそのまままっすぐに逃げ出した。鷲宮は追わない。奴の目に映るのはきっと俺だけだからだ。
「じゃあ、早速始めよう──大将の翼は俺だけでいい」
挑発的な物言いに空気が緊張感をもって高まっていく。それを楽しむように鷲宮は口角を上げた。
宣戦と共に目の前に現れた小さな黒い玉。それを感じた瞬間、濃密すぎるが故の殺意に彼らは逃走を優先し、飛び退いた。顔を覆い、衝撃に呑まれながら彼らは後ろへ吹き飛ばされる。突如、目の前の地面が爆ぜたのだ。衝撃は高熱を伴い、黒い炎が大地を燃やし、溶かしていく。
「容赦なさすぎか? 屑は燃やすごみ扱いか? セイを眠り姫にした特大の屑野郎がよ!!」
鷲宮はウルフカットの頭を掻きながら、顎先を親指と人差し指で、挟んで、何かを思い返そうとして
「泥棒猫が俺から大将を奪ったのが悪いよ、あの………あ?名前忘れたけど!」
「殺す」
諦めたように、鼻で笑った。俺にとって戦う理由はそれで充分だった。人は誰しもが踏んでほしくない地雷を持つ。そんな俺………いや、八咫烏共通の地雷が『セイ』と呼ばれた少女だった。
つまり、簡単な話だが──
「地獄を見せてやる」
──鷲宮は八咫烏の頭をこれ以上なく、激怒させた。
鼓膜がそれを聞いた瞬間に、鷲宮は反射的にこちらに向けて黒い炎を叩き込んでいたが、そんな見え見えの固定砲台。欠伸が出るくらいに簡単だ。
「覚えているか? お前に言ったこと」
黒い煙を切り裂いて、輝く太陽のような金髪が奴の目に映る。鷲宮が追加で差し出した右手を真上に跳ね上げて、爆炎が天井を破壊する。
「『次、その汚ねえ面を見せたら蹴り潰してコロッケにしてやる』」
落ちてくる瓦礫に、その姿が消えた。影に隠れて、瓦礫を蹴っての高速移動。鷲宮の脳裏に過ぎるあの日の悪夢が、
「約束だ。ルリの分と一緒に存分に食わせてやるよ」
実体を持って、脳天に突き刺さる。そのまま後ろ回し蹴りで鷲宮を吹き飛ばして後ろを見れば、とっくにルリの姿は見えない。これで被害なんて気にせずに心置きなく戦える。
「もういいかな、大将」
「ああ。お前に聞きたいことがある。セイの事だ。分かるだろうな?」
戦う覚悟はあるか、と彼は聞く。その目に決して曲がらない決意を宿しながら。
「彼女の事は残念だったと言うしかない。俺は頼まれただけだ。彼女の両親から、彼女を殺して欲しいってね。臓器移植用だっけ? よく分からないけど」
「知ってるよ。だがお前が何もしなければ、セイはもっと自由に生きられた筈だ!!」
黒い炎、恐らくは鷲宮の夢双。だが当たらなければ意味を為さない。そもそも鷲宮の喧嘩の腕はルリより下だ。両手からしか撃てないならその腕を逸せば当たる事すらない
逸らした腕を引っ張って膝を砕いて、胸ぐらを掴んで鳩尾に膝を叩き込む。呻きながら向けてきた右手から炎の兆候、肘を捻り、鷲宮に向けて炸裂させる。
「がっ………!」
「丈夫、だな。鍛えたか? 刑務所で」
「慣れたらホテルのようで悪くはないよ。それに男色も結構あるから、退屈はしなかったね。あ、でも、俺は大将一筋だよ! 嘘じゃない!」
「麻薬売買は嘘じゃねえだろうが。冤罪かけた癖に麻薬で捕まってちゃ、世話ねえな」
「やっぱり、三流だと足がつくよね。その点、アンタの両翼は優秀だった」
「雑談してる暇があるのか?」
「あるとも。そろそろ効いた頃だよね?」
何を、と言って視界がブレる。二重にも三重にも姿が重なって見える。目を擦っても消えないし、やけに心臓の鼓動が馬鹿デカく聞こえる。
「覚醒剤か?」
「姉御は立つくらいしかできなかったのに、流石は大将か。お菓子に仕込んでいたけど、量が少なかったかな。せっかくキメセク出来ると思ってたのに」
「船長の言う通り、迂闊に食わなきゃ良かったな………」
後悔してももう遅い、迫る黒い炎が幾重にも重なってしまう。本物だと思って避けたそれが偽物で本物の爆炎が叩き込まれて、髪の毛が焦げて焼き芋のような匂いがする。
「仕方ない、手足を?いでだるまにしようか。でも最大火力で日焼け程度、自殺しても死ねない鋼鉄の肉体なら直接叩き込むしかない。痛いのは最初だけだから我慢してね!」
鷲宮の右腕が、黒い炎に覆われる。
右腕を起点に音を立てて顕現。当然、その腕の先端にはキツく握られた黒炎の拳があり、本能が脳内に警鐘を鳴らすより早く腕を十字に後ろに飛んだ。
「黒鴉王の右腕」
何が起きたか分からない。
ただ、自分が崩れた天井を赤いグラス越しで見ている事、全身を貫いた内部に響く音が、奴が腕を振り抜いた事実を意味していた。
「黒鴉王の左腕」
何とか動かした左腕が黒い炎に縛られる。右の視界が悪い。赤と黒のコントラストが邪魔で、目の前の男がどんな表情かさえわからない。
かろうじて見える左の視界に映るのは、黒い炎の鴉が左腕に牙を剥いている姿。野犬程度では貫けない筈の肉体が熱を持って焼き貫こうとしている。
炎であるが故に腕を振ったが消えはしない。夢の世界だ。下手したら消えない炎だと思った方がいいか。熱くはあるが、耐えられない程ではない。
「つくづく………何なん、だろうな、俺の体は………」
「意識があるとは、随分と頑丈だよね、大将って」
「頑丈………な、だけが………とり、えだからな」
「そいつは助かる。達磨までしなくて良さそうだ!」
切れかけの蛍光灯みたいに、光が点滅している。これはアレだ、タカにいい拳を顎に食らった時の感覚。途切れかけの意識を意地と痛みで何とか繋ぐ。
「お前の体は、炎にも強いが熱の方が有効性が高そうだな。サウナは好きだったりする? 大将?」
「趣味………だよ。自分の、体を苦しめるのが好きなんだ」
「そっか。じゃあ、今度は裸の付き合いをしようね」
黒い炎が形を成す。お菓子に飛び火して、全てを煤塵と返さんと城を黒炎に包み込み、地獄を作り出し、中心には巨大な鴉が大口を開けていた。俺が堕ちる先、死んだ先で待つ存在の牙が、目の前に迫って、望んだ状況に胸中に浮かんだのは、
「──まだ死ねない」
今までの自分と矛盾した感情だった。
何の為に生きるのか。生まれを望まれた人間は永遠にそんな事を気にしない。
生まれを拒まれた人間は永遠にそれを気にし続ける。何かを消費し、過ちを犯し、誰かを傷つける。
そんな吐瀉物と同じ価値の存在でも、誰かの為に生きようとした。誰かと共にありたかった。
『全てお前の責任だ! お前がいたから! お前がこの世に生まれてきたから! 全ての悲劇はお前から始まったんだ!』
その通りだ。隼君。君が正しい、俺は間違っている。
だから償いにならないかもしれないけど、部品として自分の人生を使い切ろうとした。
『ピンチになったら、アンタの夢を思い出しなさい』
夢………何だっけな。俺の家で桃鉄耐久してた日だった気がする。セイがパルクール世界チャンプで、ルリが周りを見返したいで、タカが俺の夢を助けたいって言って………
『なんだよ、それ………お前の夢はねえのか?』
『強いて言えば、皆の居場所を作りたいですね。皆で同じ夢を見れる居場所を』
『じゃあ、次はボス。ボスの夢は何?』
『俺? 俺はな………お前たちかな?』
『え、臭すぎません? いよいよ可愛い頭が腐った?』
『例えだわ!! お前たちが俺みたいな望まれない奴には勿体ないくらいの奴らだからな。タカの夢、それを叶える為にも功績がないとな』
『功績って? 何よ、ボス』
『日本の頂点だ。俺は望まれなかった子供だが、こんな奴でも日本の頂点に立てたなら………俺は自分を漸く認められる気がするんだ』
『私、はみ出し者じゃないんで遠慮するわ』
『ボスのいい話なんだから、そこは頷いて!』
くだらない事で笑ってた、あの日を忘れた事はなかったはずだ。ただ、蓋をしていただけ。思い出したくないから、思い出しても何も出来ないから、諦めただけなのだ。
日本の頂点、辿り着いた俺に待ってたのは自分の存在が恩人に牙を向いた事実だった。
何かを守りたかったはずが、何一つ俺は守れなかったのだ。そんな人間は生まれて良かったはずがない。でも、こんな俺を
『今のアンタは翼を失った烏だ!』
『いつか必ず、迎えに行くから』
あいつらはずっと待っていてくれたんだ。こんな存在意義すらない俺を。
お前は、何の為に今まで生きてきた? 誰かに認めてもらいたかったからだろうが。
諦めずに足掻き続けろ、挑戦を繰り返せ。何も成せないのは当然だと思え、だけど、それでも自分が生まれた事で何かを残せたなら──
「──俺は生きていていいと、思えそうだ」
黒い炎が俺の体を襲うあまり………溢れ出す熱が集まるのに、相手は気付いていない。歪な空間の揺らぎが、あるはずのない世界の罅が生じていることに、彼は気付いていない。
そこに生まれる──圧倒的な力に気付いていない。
何となく、この意識の覚醒は今、自分のために訪れていると理解した。自らの最大の武器、両足に意識を集中する。行動に起こす前に、納得ができた。理解した。
狙いを定め、それを顕現させる。それだけで、現状の何かが変わると、だから俺は、その通りにした。
「アヅッ!?」
解き放たれる力が快哉を叫び、黒い炎が本来の炎の色へ、そこから更に真紅に染まり、力の奔流は俺の脚を炎に、障害を砕く爪に変わる。
「ハァ…ハァ…なんだ、それは!」
「八咫烏の爪」
まったく予想だにしない一撃にあわてたのは一瞬。すぐさま、こちらへ黒炎を飛ばすより早く紅蓮の蹴撃が鷲宮の顔面を砕き抜く。
「お前が黒炎を扱える理由は知らねえけどさ、悪夢を見せるのがお前の夢双ならその力は象徴から引き出してるとしか思えねえ。お前の麻薬組織"三頭犬"地獄の門番だ」
「つまり、お前は太陽の化身、八咫烏だからと? 捨てた地位を無様にも取りに行くんだね。諦めの悪さは嫌いじゃないし、むしろ好き!」
「俺を待ってる奴らがいる。俺に帰って欲しいと願う奴らがな。それに応えなきゃ、カッコ悪いだろうが」
焼け落ちたマントが、想像力によって回帰する。ただ以前と違うのは肩にかけられたマントに刻まれた『総長』の文字。
「俺はもう逃げねえ。みっともなく足掻き続けて、無様に挑戦を繰り返して………セイの代わりに夢を叶える。これはその証。鴉間真、この度八咫烏の総長に返り咲かせてもらう!」
垂れた血を拭う。痛みはあまり感じない。夢の世界だからか意識があればなんとでもなるようだ。
この力が有ればまだ戦える………夢を追いかけられる!
「礼を言う、鷲宮。初めてお前に感謝した」
「非礼を詫びます、鴉間。貴方は俺が思うより、弱くはなかった」
首の骨を鳴らし、前傾姿勢で敵を待つ。相手は指を鳴らして、開いて、軽く握ってその腕に力を込めて──名乗りを挙げた。
「三頭犬総帥 鷲宮誠」
「八咫烏総長 鴉間真」
決着が迫る。結果が迫る。自分が選んだ、その選択の。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます