3章 -立志-
教育論を胸に、時には暴力を
「人が人を殺してはいけない。その理由がどんなに正しくても」
スイレンはあの日、そう言った。そしてこうも言った。
「昔は普通だった。人が人を殺すのは」
その時は、メメトを失った悲しさと、疑いと自らの弱さと、あとその他諸々の情動でお腹がいっぱいだったからその言葉を咀嚼して飲み込むことができなかった。でも、明らかにおかしなことを彼女は言った。まるであの時の死者が、人に殺されたかのような物言い。確かにあの日メメトが生きている姿を俺は見た。なにかおかしなことが起きているんだ。
だから俺は今、彼女と頻繁に一緒にいる。彼女の知っていることを俺も知るために。
ニジウラノス暦1414年。インベルは12歳になった。そして、思考力と人を疑うことを身につけた。
インベルのクラスは変わらず、18人。異様の少なさだが、あの日を生き残った18人は着実に戦士としての実力を身につけていって、今では全員が優秀である。下級生や子院の子供たちの憧れの的になるほどに。
そしてあの日から、魔界が活性している。
「なあスイレン、思い出したんだ。俺はあの日の前の日、メメトと喧嘩したんだ。そんでその時、メメトは言ってた。衣を纏って自らの力を過信して死ぬやつが毎年4、5人いる。大人は気を配ってくれるけど、完璧に守れたことはない。」
インベルは魔界樹の巨大な根の上で寝そべっている。大樹の上にいれば、地中から襲われることはない。
「そう、。今度は何が気になってるの」
スイレンはすぐ近くの草むらに潜伏している。
「4、5人てところと、大人が守りきれないってところ。おかしいんだよ、毎回4、5人っていう定数、毎度毎度リンクスの戦士にあるまじき貧弱さ」
辺りには青黒い血痕が散らばっている。
「まあ、おかしいわね。なにか、秘匿があるかもね」
「知らないかい?」
少し遠くから祝福の音がする。
「知らない」
「本当に? ここから1人で帰ることになるよ」
少し遠くから、焔で草木が焼け爛れる音がする。自然に対する謝罪の言葉も聞こえる。魔のものの声と言葉だ。喉から発せられていない、想いがそのまま音になったような、固有の声。
「そのすぐ疑って脅す癖やめて。ほんとうに知らないのよ」
インベルは粘り強くスイレンを見つめる。
スイレンは目を逸らし続け、記憶を辿る。
「んー..。まあただ、メメトくんの死について知ってそうな奴は見当がつくけど」
「だれだ」
上から静かに焔が垂れてきた。インベルはそれを避け、距離をとる。スイレンは目と耳に集中し、数と配置を探る。猩々型、1体のみ。耳が良い、握力が強い、機敏、ほとんど焔しか使わない、先行に来がち、時間差で襲撃される可能性あり。
インベルはまっすぐ木を登って追いかける。しかし追いつけない。一旦猩々の視界から外れる。隠れる。猩々はインベルを探す。スイレンは祝福を放つ。猩々の顔の左半分が消滅する。インベルが飛び出し、バゼラードで脳を叩き切る。ダガーで魔石を砕く。
「ちょうどいい。もうすぐ時間だわ、出ましょう。道を教えて」
「ああ、まずだれかを言うんだ」
「..。」
2人は忍び足でその場を去る。
「ナキくん、コルちゃん、トウゴくん、ジョウィくん」
「4人か、いいね」
インベルは真反対に駆け出す。
「もう!、そっちなのね!」
スイレンはインベルの背中を追う。
「声がでかいぞ」
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