宣戦布告は時間の無駄だ
「おかしいですね...」
「ああ、魔物が少なすぎる。戦いが少ないことに越したことはないが、これは異常のレベルだ。」
「そうですね。ここ最近の魔界は、本当に静かです。サルト隊長。これは何かしら異変が起こっていると考えた方がいいと思います。」
「ああ。..、なにか、嫌な予感がするな。それにさっきから、呪いを感じる。」
沈黙。極偽星が陰鬱な雰囲気を垂れ流している。
「胸騒ぎ。胸騒ぎがする。」
「僕もです。なにかが起こる予感がします。この授業、中止にしましょう。」
「ほぼ全生徒がコースにいる。すぐに応援を要請しろ。誘導と防衛、、。戦士が30くらいいれば安心だ。」
「了解。」
そう言って隊員は馬を繰って旋回し、伝心塔に向けて駆けだした。
「インベル...。偉大なるゴウ・リョウよ、わたしたちに御加護を。」
サルトは心の下の信仰に縋った。
「なあ、インベル。サルト隊の様子がおかしくないか?」「わたしも思ってた。騒がしいよね」「そうだな。どこかのグループが苦戦しているのかも。いや、そんな気配はない。なんだ?」
インベルらは巨木の枝の上で小休止を取っていた。
そして、凶兆。
「みんな、すぐに魔界を出よう。」
スイレンは立ち上がって真っ直ぐに南東を見つめていた。
「スイレン! もう苦しくないか?」「そんなことより、見て、悪意が蠢いているの。出ましょう。」「インベル、どうする?」「早く!!」
その鬼気迫るスイレンの声色はパニックを誘発した。
「インベル、どうする?。、インベル!」「リーダー!!」
そんな中でもインベルは落ち着いて思考を巡らせた。スイレンには何が見えている?、あの目線の先にはおそらく魔界樹の大森林。悪意?、瘴気の作用で錯乱している可能性もある。どうする? もう少し情報が欲しい。
「スイレン。その悪意はどのくらいの数で、移動しているか? 移動しているのなら、どの方角に移動している。」
「数は、たくさん、あの大自然がそのまま動いてるみたい、こっちに向かってきてる」
「良し。わかった。近道をしよう、北西に真っ直ぐ突き進む。少し急ぐ。」「うん」「ああ」「わかった」
インベルの冷静な態度にみな平静を取り戻した。
スイレンは先の様子とは裏腹に、瘴気に弱っている様子に戻ったので、再び代わる代わる彼女をおぶって移動することになった。今はインベルの番である。
「君は目がいいんだね。」
「えぇ、わたし、人間じゃないもの」
沈黙。
インベルは何も言えなかった。しかし長い間は空かなかった。
「わたし、自分でもわからないの、自分が何者か。父も母もいない、どこから来たのかもわからない。話によれば、冬至の日に雪に埋もれていたそうよ。」
「雪..?。この辺りは雪なんて降らないはずだけど、」
「降った日があったはずよ。雪なんて滅多に見ないし、対策もしてないから、処理が大変だったって、」
少しのタメ。
「うん..。思い出した。でも..、、」
おかしい、そんなはずはない。辻褄が合わない。そんなおれの困惑する様子をスイレンは楽しんでいるように見えた。
彼女はにやりと笑う。
「そう、わたしが赤子の姿で発見されたのは、3年前の冬至よ」
おれは、その刹那、彼女の存在に釘付けになってしまった。そして同じくして、警戒レベル3の角笛が、茜色に染まりつつある空に響いた。
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