親は子に多くの願いを込める、そういうものだ

ロクトは言う。「今ならわかる。世界から悪をなくそうなんて無理だ、理不尽には怒るのが人間だ。おれも悪意に呑まれかけた。だからおれが新しく作る世界では、人が自分の心を守れるようにする。力だ。魔法のような、平等な力が必要だ。そして人の悪意を、心に溜め込まないように、自然界に循環されるようにする。その悪意は新しい生命を誕生させ、それはきっと人の敵となるだろうけれど、その存在のおかげで人はきっと手を取り合える。」


「あなたらしいわね」


花の発光がさらに増し始めた。周りがどんどん光につつまれていく。この光が世界をゼロに戻し、そしてまた1から構築するのだろう。この白く煌めく温かな光が。


「ロクト、今日本当は、伝えたいことがあったのよ。サプライズの準備もした。スイと一緒に」


「なんだい」


「わたし、男の子を身篭っていたの」


フウカは、新しい生命を宿していたのか。ロクトの涙はとっくに枯れていて、もう流れ出なかった。しかし、優しい微笑みを顔に浮かべていた。


「そうか、男の子か。元気に生きている姿を見たかったなあ」


空も地面も、何もかも光の中に消えて、世界の輪郭がなくなっていく。


「これから、どうしようか、おれたち」


「あなたには、生きて欲しい」


この光によって、世界と共に失われる。それでいいんだ。


「いや、いいんだよ。それはおれの役目じゃない」


「わたしはあなたに新しい世界でも生きて欲しいの」


「おれの役目は終わったんだ。それに、この世界には家族がいる」


フウカは意志の強いロクトに、少し寂しさを感じた。同時に彼のらしさも感じた。

「そう、それは残念ね、あなたが生きていることがわたしの願いだった」


「君の願いか..。その願い、おれたちの息子に託すことはできないかな。おれはいけないけど、おれの子が生きる姿を、君と一緒に見る。スイレンとも。それでいいだろう? フウカ。」


「...そうね」

フウカの声色は深く低い。


「きみは光だ。きみと話せた。それだけでいいんだ。それにその力は、おれときみを引き合わせて、おれたちの子に、命を繋いでくれる。」

ロクトは星を見上げた。無数の、キラメキ。

「もう、きみとは話せないと思っていた..。」


そしてロクトは、溢れる想いを、言葉にしてフウカに伝えた。


「あいしてる。 あいしてるんだよ。 きみを」


ロクトはもう一度愛を伝えられた事実に安心し、フウカはその愛を離さないように心に染み込ませた。


「ロクト、ごめんなさい。わたし死んでしまったのよ。あなたの愛を、スイレンを守れなかった。」


おれたちはいつの間にか、2人で並んで、新しく1から構築されていく世界を一緒に見ていた。左肩に、フウカの温もりを感じる。


「いいんだ、今こうして、語り合えている。今は未来しか見えていない。」


ロクトはスイレンが近くにいないかと、ふいに辺りに目をやった。声が聞こえた気がした。しかしその白く暖かい空間には自分とフウカ以外見当たらなかった。


「きっとスイの想いも..」ロクトは小さく呟く。


「名前、どうしましょうね。それにこの世界、未確定な部分が多いわ」


「2人で考えよう、名前はたしか、男の子ならフウトじゃなかったっけ、これはおれの案」ロクトは笑った。


「フウト。風のように強く生き、周りの目を気にせず突き抜けていけ。だったかしら」フウカは笑った。


2人は想いや考えを共有できる喜びを感じながら、構築される世界を眺めていた。











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