魔族の奴隷だった俺が転生したのは魔法が存在する世界だった

teikao

第1話 魔族の奴隷だった俺が転生したのは魔法が存在する世界だった

魔王国

1000年前に人類は魔族に敗れ、それ以降奴隷として生かされてきた。労働力として《飼育》されている人類は一切の贅沢は許されず、一日中働かされていた。楽しみといえば労働後に与えられる最低限の食事と睡眠だけだった。


「起きろ!人間共!労働の時間だ!!」

朝の6時。とは言え朝日など無い。常に赤黒い雲が世界を覆っており、天気など存在しない。人類は皆、魔物達に起こされる。

人類はランダムに2人づつ牢屋に入れられており、自分の親も、自分の子もわからない。産まれた瞬間から《人類飼育場》というところに運ばれて、そこに割り当てられている飼育係の人間が育てる。

そこで育った子供は、魔族は人類より偉いということや人類は魔族の奴隷であるという教育を徹底されており、やがて10歳を迎え労働者になってもこの生活が当たり前だと思ってしまう。


「今日もはじまるのか…」

そう呟き、牢屋から出て労働に向かう少年がいた。彼の名前はクロス、14歳だ。


「おにーちゃん、いっしょにがんばろ!」

一緒に労働に向かうのは同じ牢屋の少女、ポコ。オレンジ色の髪を持つ元気いっぱいの女の子だ。まだ11歳の彼女はもちろん本当の兄妹かなどわからない。そもそも兄弟がいるのかもわからない。ただ、同じ牢屋で歳も近いからかクロスを兄として慕っていた。

2人に割り当てられている労働は、山を削り土砂を運ぶ仕事であった。スコップを手に山を掘り続け、バケツに一杯になった土砂を運ぶ。

なんでも今掘っているところは魔族の温泉施設を開発中らしい。

まだ子供である彼らには大変な重労働だ。


「あーあ、魔法が使えたらなぁ」

「魔法ってどんな道具だ?」

「ちがうよおにーちゃん、魔法はね、ちちんぷいぷい〜でなんでもできるの!」


2人はこんな話をしながら作業を行う。

ポコの明るさがクロスの支えになっていた。

クロスは自分が弱音を吐くわけにはいかないと心に決めて働いた。

労働時間が終わり、フラフラになって牢屋へと帰る。そして今日の食事が配られた。


「おぉ、ポコ!今日は当たりだな!」

「ホントだ、コオロギだ!魔族様、ありがとうございます♪」


2人はコオロギにかぶりついた。コオロギにはタンパク質や必須アミノ酸をはじめ豊富な栄養素がある。魔族からしたら、簡単に飼育できる虫で労働力のエサを確保できるため効率的だった。中にはアレルギーで亡くなる者も居たが、魔族にとっては人類のかわりなどいくらでもいるためどうでもよかった。

ちなみにコオロギではない日はよくわからない真っ赤な野草や、よくわからないイモムシやバッタなどだった。クロス達にとってはバッタも当たりらしい。


ある日のこと

いつも通り山を掘っているとポコが何かをみつけた。


「おにーちゃん、なんかみつけたんだけど、これ何かな?」

「ん、なんだろ…」


持ち上げて見るとネックレスのようだ。

上位の魔族が似たようなものをつけているのを見たことがあり、首にかけるものだと知っていた。


「なんか剣の模様だ!かっこいい!」

嬉しそうなクロスをみてポコは言う。


「えへへ、おにーちゃんにあげるね、それ」

「え、ポコが見つけたのに…いいのか!?」

ポコは頷くと、次見つけたらわたしのねと言った。このままつけていると魔族に取られるかもと思った2人はネックレスを隠した。

今日も労働を終えて2人は牢屋に戻る。

「今日の飯は草かよ…」

食事を終えて眠りについた。


………


「……ぇるか?」


「え?」


「聞こえるか?」


「え、誰?」


「全てを変えたければ首飾りをして…」


………

「起きろ!人間共!労働の時間だ!!」

「は!!?」

朝の6時。労働の始まりだ。


クロスとポコはいつも通り山に向かった。

クロスは山につくとネックレスをつける。

「へへ、なんだか力が湧いてくる気がするぜ」

「似合ってるよ…おにーちゃん…」

ポコの顔色はよく無かった。


「ポコ、大丈夫か?調子わるいのか?」

「えへへ…大丈夫…がんばれる…」

明らかに調子が悪そうだ。


「バケツが一杯になるまでそこで休んでろ、ポコ」

「ありがとうおにーちゃ……」

そう言ってポコが倒れた。

「お、おい!ポコ!ポコ!!」

「なんだなんだ、騒がしいぞ人間!」


そこに一匹の魔族が来た。


「こ、この子が倒れて、どうしましょう…」

「あ?働けないなら処分だろ、お前はいいから働け」

「そ、そんな!」


クロスにとってもポコは妹のような存在であった。とても見捨てることなどできない。


「あー?お前逆らうのか?じゃあお前も死ぬか」

クロスは魔族の持つ槍で心臓を貫かれた。


痛い痛い苦しい…

痛い…死ぬ…

ポコ……


………


「全てを変えたければ首飾りをして…」


「?またこの声…」


「死ね」


………

「え!?」

クロスが目を覚ますと真っ青が一面に広がっている、それと同時に

「眩しい!!なんだ!?」

クロスにとって初めての陽光が目に入った。

クロスは飛び起きる、すると見たことのない景色が広がっていた。

どこまでも青く、広大な空。

清らかな風が吹く、緑一面の草原。

そして…見慣れない色鮮やかな建物が遠くに見える。

クロスはいままで自分が暮らしていた牢屋と、巨大な魔王の城や、魔族の娯楽施設しか見たことがなかった。


「……は!ポコ!?ポコー!!あ、あの魔族は?どこいったんだ!?」


叫んでも見渡してもポコの姿も魔族の姿もなかった。

クロスは全く理解が追いつかない。

しばらく呆気に取られて立ち尽くしていると一台の馬車が通る。中の男が話しかけてきた。

「どうした?君、もしかして迷子か?」

「はっ、あ、あの、ここはどこですか!?」

「どこもなにも、ここはユグフォルティス王国の街道だろ…君はどこから来たんだ?」

「ゆ…ゆぐふぉる?あ、僕は魔王国から来ました、ここには魔族はいないんですか?」

その質問に対して男は笑いながら言う。

「はっはっは!魔王国なんて初めて聞いたぞ、漫画の読みすぎだ!」

すると中から女性の声が聞こえる。

「ちょっと、魔王国なんて、その子魔族なんじゃないの?」

「いや、それはない。彼の首飾りを見てごらん」


女性は顔を出し、クロスをみる。


「まぁ、それは勇者の首飾り…!確かに魔族じゃないわね」

「だろ?おい君、街まで乗せて行こうか?」


聞けばこの首飾りは魔族は触れると体が焼けるらしい。上位魔族には通用しないらしいが、クロスはどう見ても上位魔族ではないから大丈夫だと2人は判断したのだ。

クロスは近くの街まで乗せていってもらった。

ただ、長い奴隷生活でクロスは体が臭うため荷台に乗せられた。

荷台から見える景色はずっと綺麗で優しかった。ポコは大丈夫なのだろうか…クロスはそれだけが気がかりだった。


【ユグフォルティス王国・ヴァルキャシティ】


街に着いたクロスは驚いた。

人類が笑顔に満ちていたからだ。

そして皆それぞれ、色々な服を着ている。

馬車の男性はクロスの様子をみて、何かしら事情があるんだろうなと思い、問いかける。

「なぁ、君。もし行くとこがないなら、ウチ泊まるか?」

「ま!あなた勝手に〜」

男性は女性に耳打ちする。

「この子、もしかしたら物心着く前から魔族に捕まってたんじゃないか?色々知らなすぎるしよ…なんだかほっとけないんだ」

「わかったわよ、好きにしな」


そしてクロスの方を向いて話す。


「申し遅れたな、俺はガイツ、こいつは俺の家内のレイアだ。君は?」

「俺はクロスです」

「そうか、クロス。ウチに来いよ、飯食わせてやるぞ!」


クロスは知らないことばかりで不安だったが、飯という言葉を聞いて行くことにした。

ガイツ達の家に着くと、まずは体を洗うように言われる。

クロスは人生初のシャワーを浴びた。

浴室を出るとガイツが俺のだからでかいがといって服をくれた。クロスはボロ布以外の服を初めて身につける。

どこからかいい匂いがしてきた。服を着てから向かった部屋には見たことのない料理が並んでいた。


「さぁ、召し上がれ」

クロスは料理を食べて涙を流した。

ガイツが心配して声をかける。

「お、おい!どうしたんだ!?」

「いぇ、こんなに美味しいもの…初めて食べました…」

「やだねぇ、ただのシチューじゃないか」

レイアは嬉しそうに笑った。

そのとき、1人の少女が入ってくる。


「ただいま、お客さん?」

「おぅ、迷子を拾った」

「ふぅん」

少女は鞄を置くとそのまま浴室へと向かった。

「あれは俺の娘のアシュリだ。クロスは幾つなんだ?」

「14です、10月で15になります」

「あら、じゃアシュリとは同い年ね」


談笑しているとアシュリが戻ってきた。

アシュリもクロスに興味があり色々話を聞く。


「あんた学校は?」

「学校?なんだそれ?」

「うわ知らないんだ。あんたホントに魔族に捕まってたんだね…言葉は?どこで覚えたの??」

「10歳までは飼育係の人に勉強を教えてもらうんだ…」


レイアが話を遮る。


「はいはいお話終わり!片付かないじゃないか!」

「あ、俺やります!」

クロスは少しでも役に立ちたくて精一杯頑張った。奴隷生活が功を成したのか、片付け作業は上手くできた。

「あんたやるねぇ、ありがとよ」

クロスは初めて褒められた。それはとても嬉しくて恥ずかしかった。

余っている部屋を貸してもらった。騎士の格好をしてガイツ達家族と写る男の子の写真が飾ってある。クロスはベットにはいる。初めての布団は気持ちよく、クロスはすぐに眠りに落ちた。


………


「きたか、少年」


「あ、声の…」


「おぬしはあのとき魔族に殺された」


「やっぱり、じゃあここは天国なの?」


「違う違う、わしがお前を別の世界へと転生させたのじゃ」


「別の世界?転生?それは何…」


………


クロスは目が覚めた。

「おはようさん。あんた、アシュリと学校行ってみな!連絡しといたから!」

「え!?あ、はい!」

朝食を頂いてからアシュリと共に学校に向かう。


「おはようアシュリ!」

「アシュリ、誰それ?」


教室に入るとアシュリが連れてきたクロスにみな注目する。


「昨日お父さんが拾ってきた迷子、なんか魔族に捕まってたんだって」

「え!マジ?」

「君、ヤバいね!」


やがて教師の女性が教室に入り、朝礼がはじまる。


「クロスくん、前に来てちょうだい」

クロスが教壇のところに立つと教師はクロスを紹介した。

「今日からこのクラスのお友達になったクロスくんよ。みんな仲良くしてあげてね!」

「く、クロスです、よろしく」

「こちらこそよろしくー」

「よろ〜」


クラスの皆んなは暖かく迎えてくれた。

そして一限目は外だと言われ、クラスメイトに習ってクロスも外に出る。


「では、一限目の実践魔法の授業をはじめます」


教師がそう言う、クロスは魔法と聞いてポコが言っていたことを思い出す。


「あ、アシュリ、魔法ってホントにあったのか!?」

「ふーん、魔法見たことないんだ。先生!クロスに見せてあげてもいいですか!?」

「えぇ、アシュリさんの魔法はいいお手本になるわ、是非見せてあげてください」


アシュリは手のひらに力を溜めて解き放った。

「ファイア!!」

その掛け声とともにアシュリの手のひらから50㎝ほど前方に炎が吹き出す。

「どう?これが魔法よ!」

「す…す…すっげーー!!」


【魔族の奴隷だった俺が転生したのは魔法が存在する世界だった】

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