黄昏の悪魔おじさん。

羊谷れいじ

第1話 パパさんは悪魔さん?

 山下航平はサラリーマン。毎日、地味な事務仕事をこなして、定時にはまっすぐ家に帰ってくる。趣味といえばパソコンでネットのバーチャルワールドで遊ぶこと。若い頃は多少のやんちゃもしたし、多少の素行不良もあった。

 しかし今の彼は、はたから見れば品行方正で、真面目を絵に描いたようなルックス。四十代後半の彼には十五才も年下の美人の妻と七歳の可愛い娘がいた。

 仕事から帰った航平は、いつものように妻と娘の顔を見ると、部屋着に着替えてテレビの前に座ってニュースを見る。妻の優香は晩御飯の支度をしながら航平に今日あった娘の美希との一日を話す。そして航平はこう思う。

「平和な家庭が一番幸せだな」


 美希は今日の学校での話を楽しそうにする。

「パパ、あのね今日はモモちゃんと縄跳びしたんだよ」「今日は給食全部食べたよ」

学校で楽しく過ごしている娘に、微笑みながら頭をなでる航平。

 不意に美希が航平の胸元を見つめる。

「ねえパパ?」

「ん?どうした美希ちゃん」

「ねえ、どうしてパパの体には黒いお絵かきがあるの?」

「あ・・・。」航平は一瞬言葉に詰まる。


 優香がみそ汁の味見をしながら「パパはね、悪い魔女にまじないをかけられて体にお絵かきされちゃったの」と微笑んだ。

「え?そんなの本当のことじゃないよね?パパ」美希は航平の顔を覗き込む。

くすっと優香は笑う。「航平さん、可愛い娘がそういってるわよ」

「美希ちゃん、実はねこの話は少しだけ長いんだけど、パパは実はね遠い遠い昔にまじないをかけられてね・・・」

 それは今から三十年以上前の高校生の頃の話だ。僕はあの時のことを今でも時々はっきりと思い出すことがある。何故ならあの時、僕は悪魔になったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る