バンパイアの誘惑

 私はバンパイア。吸血鬼だ。毎夜、空を舞って吸血相手を探している。相手に相応しい男は、ズバリ! 匂いだ。抱きしめて良い匂いのする男はだいたい美味しい。


 ふと、良い香りが漂ってきた。これは、強力な魔法使いの香り。どんな男だろ? 私はその元へ飛んで行った。


 朝。マンションの一室から出てきた男がそうね。これから仕事かな? 帰ってきたタイミングを狙って、アクションよ!




 夜。マンションの玄関の上にぶら下がって、コオモリの姿で男の到着を待っていた。男が帰ってきた。扉を開けた瞬間、隙間から部屋に飛び込んだ。

 わざとらしく部屋中、飛び回って、目を引く。

「コオモリが入ったか」

 男は窓を開けて、追い払おうとした。


「コオモリじゃないよ」


 ポン! っと。バンパイアは人の姿になって、彼の前に舞い降りた。

 大きな胸。黒く長い髪。透ける様な白い肌。ちょっときつめな目元は、吸血鬼というべき鋭い目をしていて、二本の牙が口元から見えている。


「はじめまして。私はバンパイア。あなた、かなり強い魔法使いね。その血。吸わせて欲しい」


 男は彼女を無視し、夕食に買って来た弁当をレンジに入れた。服を着替えて、風呂を沸かす。レンジで温まった弁当を食べながら、動画を見る。


「あの、私のこと見えてます?」


「もしもーし」


 男は彼女の存在を無視している。


「ちょっと! 無視しないでよ!」

「さっきから幻覚が見えるな。無視しよう」

「幻覚じゃないよ」

 バンパイアは、男の体に抱きついた。

「良い匂い」

 バンパイアは、男の肩に歯をたてようとする。たてようとした。しかし、たてられなかった。なんで? 今までそんなことなかった。

 改めて男の顔を見た。かっこいい。今まで出会ったどんな男より、かっこいい。好き。


 男は彼女から離れる。

「とうとう、幻覚が見えるようになったか」

 男はバンパイをひたすら無視しして、風呂に入り、夕食を食べて、動画を見て、寝る。ベッドにバンパイが忍び込む。


「あー! もう! いい加減にしてくれ!」

「私のこと知って。幻覚でも精神疾患でもないよ」

「じゃ、コオモリになって」


 ポンッと、サキュバスはコオモリになって、部屋中を飛び回った。フラフラと待って、男の手にぶら下がった


「本物だ」


 ポンと、コオモリはサキュバスの姿になった。


「さっそく、お願いがあるんだけど、私を抱いて」

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