アンノウンズ〜特命異能銃事件簿〜

好塚 つぞ

第1話 ミステイク

 「近く、菅原 望来(すがわら みく)の身柄を預かる。無事に返して欲しければ、身代金の用意をしておけ。」このような脅迫文が警察に届いた。




 「ねぇ未希、一緒に帰ろ?」「うん、別に良いけど。」


 部活終わりに2人の女子高生が話していた。「今日は使用人さんの迎えないんだ。珍しい。」「うん!今日は未希と一緒に居たくて〜。」

 

午後6時、2人は「天望(あまのぞみ)高等学校」のテニスコートから出て更衣室で着替え、6時10分に校内から出た。「平 未希」と「菅原 望来(みく)」、共に高校2年生である。


2人はソフトテニス部のペアであり、未希が後衛、望来が前衛である。今は7月中旬、3年生がそろそろ引退するため、それに合わせて最近ペアを組み始めた。


 「ねぇ?少し寄らない?」20分ほど歩いた後、大きな駅の近くで望来がバーガーショップを指差して話しかけた。

 

2人は注文を済ませた。望来が先に注文したが、大食いの望来の割にバーガーを注文せず、量も少なかったため、こっそり望来の分も含めて、バーガーを2つ頼んだ。


 2人は1階のカウンター席に隣り合わせで座った。望来は誰かに連絡しようと携帯を操作していた。


未希は取りに行く際にコーヒーのみを頼むスーツ姿の男がこちらに目線を合わせた事に気づいた。「大食いだと思われたかな....」と少しだけ恥じらったが受け取って望来の隣の席に戻った。


 席に着き食べ始めるタイミングで未希が自分のトレイに乗っている2つのバーガーの包の内一つを望来の前に置いた。「コーヒーとデザートしか頼んでなかったから。私の奢りだけど、余計なお世話だった?」


どこか不安そうな顔をしていた望来はそれを聞いて、「あぁ〜ありがとう!ちょっとうっかりしてて。」と笑顔が戻り、貰ったハンバーガーを頬張った。「ん〜〜〜〜ジューシ〜〜!」と幸せそうな顔をしている。未希はそれを見てほっと肩を撫で下ろした。


 その後、未希もバーガーを食べ始め、未希が完食、望来が半分ほど食べたタイミングで未希は歩いている間ずっと疑問に思っていた事を質問した。


 「今日の目的ってただ一緒に夕飯食べることじゃないでしょ。なんか隠してる?」「んっ、えほっ、なんで...?」不意の一言に驚いた望来はむせながらも返答した。


 「だって、なんか元気ないし、食べるペースも昼飯のときからなんか遅かったじゃん。隠してたみたいだけど。」


 「え〜〜〜〜〜。」間を持たせるために長い相槌を打つ。そしてある事を思いついた望来は「少し待ってね...!」と言い、


 右腕で目の周りを隠し、外している様子を周りに見られないよう左手でコンタクトレンズを両目から外して、カバンの中のケースから丸眼鏡を取り出してかけた。

 

「実は本日はコンタクトレンズの調子が悪くて目が痛かったの〜!!」と声を張りながら涙ぐんだ目で未希に伝えた。

 

「そ、そうなの?な、ならいいんだけど...。」コンタクト使っているならこれくらいの事でも悩むのかな。と視力が良い未希は詳しくなかったのもあり妙に納得してしまった。その後望来が食べる速度を上げたことでこれ以上は言い出せなかった。


 午後6時50分、バーガーショップを出た彼女達、使用人の迎えがあるからという事で、望来は待ち合わせ場所に行くため未希と別れる事にした。「今日はありがとね!また明日学校で!じゃあ、、、サヨナラ。」「うん、またね。」


 手を振って2人はそこで別れ、望来は駅に行くために反対方向に歩き始めた。若干、最後の望来のセリフには、本当に最後かのような錯覚をした。


 しかし、やはり気が気でなく、しばらく立ち止まって考え、「やっぱり話を聞こう。」と考えバッと後ろを振り返ると、そのまま走り出したが、直後に男性とぶつかってしまう。

 

尻餅を着いた未希、(うそ、全然気配なかったのに...とにかく謝らないと.....)そう思いながら立ちあがろうとする。すると、相手の男性がこちらに手を伸ばしてきた。

 

「大丈夫?」「あ、ありがとうございます...。」立ち上がった未希が彼の顔を覗くと、先ほどコーヒーのみを注文した男性であった。

 

「あ!さっきの...!ありがとうございます!」「どういたしまして、では、用事があるので失礼します。」とその男性はそそくさとその場を離れた。


 「コーヒーだけでずっと店内に居たのかな...」と一瞬だけ考えるも「あ、望来探さないと...!」と思い出して、未希は急いで望来を探し始めた。

 

男がその後右手首付けていた腕時計を見ると、[カースウェーブ 微量に検知]と画面に表示されており、それに気づいた男も去っていった未希を追跡し始めた.....。「ご友人が犯人の協力者か....信じたくはないな。」と自身の願望を呟いた。


 暫くして、未希は少し離れた所の路上駐車してあるシルバーの車にガラの悪い男に強く手を引かれて連れていかれる望来を目撃した!


 ピンクのモヒカンであり、腕にはタトゥーがびっしり入っていた。絶対に、素人目に見ても明らかにカタギではない。


 「ウソ...!望来....!」その直後、その光景を未希より3mほど後ろで見ていた男はすぐさま懐から、中型の銃を取り出し、周囲に見えないようにシルバーの車に何かを発射した。

 

その後すぐ走り出し、耳に付けていたイヤホンに「本部、犯人の追跡を頼む。」と言い、3分後、駅の駐車場に止めてあったバイクに乗り発進した!


 男が付けたヘルメットの画面には先ほど発信機を取り付けたシルバーの車の居場所が浮かび上がっている。

 

「こんな街中での撃ち合いは本来双方避けたい所だからな、アイツが余程の馬鹿じゃなくて良かった。」などとイヤホンで会話しながらバイクを走らせる。

 

一方、望来を乗せたシルバーの車は街の中心街から離れたところにある、大通りから少し入った場所にある廃ビルに停まっていた。


 犯人が廃ビルに着いてから5分後、男も廃ビルの近くにまで到着した。

「正面に止めたら犯人に気付かれるな....。」そう言って彼はバイクをビルからは見えない離れた場所に止めた。


 「大人しくしてろ!!!」ビルの最上階では男が望来を重いドラム缶に縄で縛りつけていた。「ん〜〜!」口にガムテープを貼られて話せなくなった望来。


 犯人は奢ったような態度で、「これで金は全部俺のモンだぁ!!あのムカつくテラーの野郎がよぉ!!」と近くに転がっていた机を八つ当たりで蹴飛ばした。


タクシーを捕まえて、先ほどの車を何とか追跡し、潜伏した付近までやってきた未希はビルの下に丁度到着してから一応警察に通報した。その時既にバイクの男はビルに入った後出会った。


 「そういや、これ使わなかったなぁー。」と犯人はアタッシュケースからバイクに乗った男が使った物に近い中型の銃のような武器を取り出した。


 名前や取り扱い説明書にさっと目を通して、「Explode(爆発)かー!まさにイケてる俺にピッタリの能力だなぁ!!!」と言った。


 これこそ、≪カース≫とも呼ばれる異能力を使用できる銃である。「カースウェーブ」と呼ばれる有害物質を直接、殺傷能力の高い弾として発射出来る。


 ここからが異能銃たる所以である。


 カースウェーブは銃に内臓されている変換装置で炎、氷など、別の物質に変換する事も可能であり、モードを変換すれば銃口から炎や氷も発射出来るが、変換できる物質の系統は一つに限られる。


 更に銃を手に持っているだけで、血液中に微量のカースウェーブが侵入し、少し身体能力が向上する他、手に触れる事でも相手を発火、もしくは氷結が可能。


 等々。現実にはありえないような文章が説明書には記載されていた。


廃ビルの窓から道路を挟んで反対側、2時の方向にある飲食店に照準を合わせ、「爆発の能力なんだ、ガス爆発と大差ないだろ!」と言い、トリガーを引こうとすると...!


 入り口のドアが勢い良く「ガチャッ!」と開いた!「誰だぁ!」と咄嗟に異能銃をドアに向けて構える犯人。

 

「警察だ、お前を逮捕する。」

決まり文句を言いながら部屋にバイクの男が入ってきた。「警察だとぉ!?」焦った犯人はそのまま異能銃のトリガーを引いた!赤いマグマの様な弾丸が男に向けて勢いよく飛ぶ!


 「Strength(ストレングス) オン。」その瞬間男の髪と目が薄く青味がかった!そして男はそのまま跳躍し、弾丸を避けて犯人の近くに着地した。飛んだ距離は実に6〜7mにも渡る!


 「来、来るなぁ!!」「ビシィッ!!!」男は素早く犯人の手の甲をはたき銃を床に落とした。

「クソオオオォォォォ!!!!!痛てぇぇぇぇぇぇえ!!!!」逆上した犯人が床に落ちた銃に急いで手を伸ばした瞬間、男は自らの銃を相手に向けて、青い光線を発射した!!!


 その光線を食らった犯人は「ぐがッ」と言葉にならない声を上げ、気絶した。男は縛られた望来に近づき、口を塞いでいたガムテープを剥がした後、拘束を解き始めた。


 「ふぅ...ありがとう、真(しん)。特命の警察って本当に強いのね。」「いえいえ。恐らくこれから先の方が大変です。指示役のリーダーが居るはずですから。」お互いに落ち着いた様子で会話をしていた。


 話しながら解いて居るうちにある事に気が付いた。ドラム缶の蓋が開いているのだ。慎重に真が中を覗くと...中には大量の爆薬が入っていた!!

 

周囲を確認すると、先ほど男が弾丸を発射した地点からドアまで真っ直ぐに赤いマグマの様な液体が残ったままだった!しかも少しずつ膨張していっている!「これはまさか時限式の攻撃か....?」


 急いで望来の拘束を解いた真は犯人と犯人が所持していた銃を背中に担ぎ、望来をお姫様抱っこした。「ちょっと...。」初めてで困惑する望来。


 そして再度部屋を見ると液体は更に真っ赤になり今にも破れそうに膨らんでいった!「やはり爆発するか!」


 「ギリッ」犯人の銃のダイヤルをスペルモードからショットモードに切り替えた男は少し下の方から斜めに、空に向かうようにして窓ガラスに向けて射撃した。


 窓ガラスは着弾した箇所から弾けるように砕けた。男が犯人と望来を抱えた状態で勢い良くジャンプした直後、ビルの屋内で大爆発が起こった!


 「ドゴオオオオオォォォォォォォン!!!!!!」「くっ....」


 爆風の勢いと合わさり、大通りを渡った先の、向かいのビルの屋上に華麗に着地した真達、一方廃ビルの下で警察と通話をしていた未希はあまりの爆音で耳を塞いだ、しかしその頭上に瓦礫が降る!


 真は着地し直ぐに自身が犯人との戦いで用いていた銃を取り出し、ショックモードからブレイクモードにダイヤルを切り替え、出力を調整して先ほどの廃ビルに向かって放った!

 

 「ギュウウウウウン!!」青い球体が着弾した後、瓦礫や粉塵、炎ごと、廃ビルは大部分がブラックホールに吸い込まれたかの様に、破壊され消滅し、球体状に抉れた。


 未希の頭上で瓦礫も消滅し、事なきをえた。再び髪と目を青く変化させた真は自身の鼓膜は触れずに、気を失った望来の鼓膜を、肩に乗せていたため上半身が爆破に巻き込まれ負傷した犯人には頭を触る事でほとんど全回復させた。


 イヤホンを通じて会話している間に目を覚ました望来に対して、「そろそろ私の仲間達が事後処理にきます。それまで人に目撃されない様ここに居てください。私は付近の目撃者の記憶を消去します。」と言い、


 そして彼は銃をブレイクモードからデリートモードに変え、しゃがんで今いるビルの屋上の地面に銃口を突きつけ、チャージを開始した。


 銃をそのままビルの上に置き、再度負傷者の確認のため廃ビル近くに戻った真、そこで耳を抑えた未希を発見した。


 一方下の歩道では「何今の爆音!?」「廃ビルが破壊されてるぞ!」「何か人が飛んで行かなかった?」「動画撮ろ〜」と人が集まって騒いでいた。


 未希の目の前に再度着地した真、お互いに顔を見て先ほどぶつかった人物であることを思い出したが、スッと耳に触れて鼓膜を治して真はまた望来のいるビルに飛び立っていった。


 「待って.....!」未希が手を伸ばした時、銃から半径1kmほどの範囲に渡り、青く色が薄い電波が発射された!


 その電波の範囲内では、爆発した時間以降に撮られたビデオ、写真は消滅し、野次馬達の直近の記憶も消された。


 特異課から支給されたバッジを付けている真と望来はそれを避ける事が出来たが、この記憶消去は異能銃を身に付けている者には通用しない。



「未希.....どうしてここに?」と別のビルの屋上である人影が呟いた。

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