不細工

黒川衛次

不細工

私は、私という存在がこの学校に巣食う化け物に思えてならない。でなければ、同級生の女子から悪口を言われたり、班決めをする時に一人だけ省かれることも無いだろう。

線のように細く、つり上がった目。押しつぶされた鼻。虫に刺されて腫れ上がったような唇。これらのパーツが乗っかって出来上がっているのが私の顔だ。


きっと昔の人間が私を見たら、余りの醜悪さに私を「妖怪だ」などとからかうだろう。もしかすると、石を投げられるかもしれない。うにょうにょと動いているウジ虫のようになるまで散々痛めつけられてしまうのかもしれない。


幸い、誰かに殴られたりした事は無いが、いっそ殴り殺してくれた方が楽なほど散々な扱いを受けてきた。十数人の同級生に囲まれて一人ずつ私の顔の感想を言われた時は、その内容もさることながら、改めて自分が極めて不細工であることを痛感させられ、涙で顔が歪んだ。また、

「こいつ鼻水垂らしながら泣いてんのキモすぎでしょ!普段より何倍もキモい!」と言われ、私の僅かながらの自尊心は儚くも壊された。


家の中に虫が出れば、普通の人は気持ち悪いという感情を抱くはずだ。誰も必死に生きている虫に同情を寄せるはずがない。人にとって虫は虫に過ぎない。それと同じで、私という人間大の虫も必死に生きているが、学校の人からすればただの邪魔者である。そのため、害虫駆除という大義を掲げ、教室に毎日顔を覗かす大きな虫を追い出そうとしている。


今は休憩時間中で、次の授業の準備をする人、トイレに行っている人、友達と話している人などがいるが、誰も私に近づこうとはしない。たまに近づいてくる場合は大抵、私を貶めようとしてだ。そしてとにかく空気が重く感じる。もの凄くゆっくりと上から圧迫してくる。空気ですら私の味方をしない。この教室には敵しかいない。いつもありとあらゆる物が私の心を削いでくる。


古典の授業が始まり、教科書を開く。内容はあらかた理解できるが、さっきから天井の蛍光灯の周りをぶんぶんと飛ぶトンボがうるさくて集中できない。教室に虫取り網のようなものは置いてないので、開いた窓から出ていってもらうしかない。トンボは相変わらず光に向かって体当たりしている、そしてその度にコツコツと音が鳴る。


そんなことをトンボが繰り返していると、痺れを切らしたかのように先生が、

「さっきからあの虫うるさいな。藤原。ちょっと机に立って捕まえれるか?」

と、私に頼んだ。名前を呼ばれたので一瞬どきりとしてしまい、きょどった。

「あ、分かりました」

なんとか返事をした途端、クラス中から爆笑が起こった。

「虫人間が虫捕まえるとか同族で争ってんじゃん!」

と、クラスの二軍の男が声を張った。また大きな笑いが起こった。


しばらくの間、収まりそうにない笑いが教室中を包んだ。私は虫が特段嫌いではないが、今、天井辺りで飛んでいるトンボを激しく恨んだ。



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不細工 黒川衛次 @kuroro087

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