公園

黒川衛次

公園

よく冷えたミネラルウォーターのペットボトルと、対称的に程よく温まった缶コーヒーをレジカウンターに置き、唐揚げのパックを一つ頼んだ。味は気分によって変えるが、今日は塩レモン味にすることにした。

会計を終えコンビニを出ると、少し肌寒く感じた。缶コーヒーをレジ袋から取り出し、両手で包んでから首元に当てる。十一月の上旬なので流石に雪は降ってないが、アスファルトの窪みの水溜まりが凍っていて、夜の街灯の光を反射している。そろそろ本格的に寒くなってきそうだ。缶コーヒーだけでは喉が渇くと思い、いつもは念の為、水も買うことにしているのだが今日は要らなそうだ。


ワイヤレスイヤホンで米津玄師の曲を聴きながら波山公園へと向かう。この都会とも田舎とも言えない町の景観を通り過ぎながら聴く米津の曲は、何だかとても合っている気がした。他にも好きなアーティストはいるのだが、波山公園へと向かう時は米津の曲をかける事にしている。

「LOSER」と「春雷」を流しながら、閑静な住宅街を横切っていく。今は10時なので、ほとんど人とすれ違わない。その為、つい曲に合わせて踊り出したくなるが、誰かに見られる可能性も捨てきれず、ただ口ずさむだけに済ませた。何だか自分がこの世界の主人公になった気がした。


そんな高揚感に身を包まれながら歩いていると、気がついたら公園に到着していた。

波山公園は中央に池があり、芝生も丁寧に整えられているので、気晴らしに出かけるには丁度いい場所だ。

午前に行って池を眺めるのも良いが、どちらかと言うと今の暗さに溶け込んだ池を眺める方が好きだ。月明かりを水面が反射して、幻想的までとはいかなくとも、心を和ませてくれる程には綺麗に思える。


いつもの通りにベンチに腰掛け、唐揚げとコーヒーを嗜みながら自然を感じようとした。だが先客がいた。照明に上から照らされた姿を見るに若い女の人らしい。本当は一人で楽しみたかったが、仕方ないので隣の方のベンチに座ることにした。

しかしベンチに近づくにつれて、女の人が泣いていることが分かった。顔に手を当てることなく、ただ池を眺めながら泣いているようだ。

どうしようか、今日は家に帰ろうか、泣いている人の隣にいるのは気まずいしな。と思ったが、自分でも何を考えたか、僕は女の人の隣に座っていた。女の人は、こちらを見て少々困惑した表情を浮かべた。


「あの、急に話しかけてすみません。どうされました?」

「…いや、別になんでもないです」

女の人の顔を少し覗き込むと、涙で目元が腫れていることに気づいた。ただ、腫れていてもかなり目が大きい。美人という印象が強かった。


「寒くないですか?これ良かったら飲みます?」僕は首元に当てた事を内緒にして、まだ開けてない缶コーヒーを差し出した。自分でも、大分図々しい事をしているという自覚はある。

「いや、結構です」

「そうですよね、なんかすみません。ここには僕結構来るんですけど、泣いてる人に会うのは初めてで。たまに来られてるんですか?」

「ここの公園に来るのは初めてです。池が綺麗だなと思って、それを見ながら泣いて感傷に浸ってるんです」

「良い所見つけましたね。僕も感傷に浸りたい時はよくこの公園来てますよ。この辺りだったらここが一番のおすすめスポットだと思います」

「そうですか。私、最近ここに引っ越してきたので、それで不安な事も多くなって泣いてしまうんです。人間関係上手く行くのかなとか、ちゃんと生きていけるのかなとか」

「それで泣いてたんですね。まあそりゃ皆んな不安になりますよね、特に新しい環境だと。僕はどうこう助言できる立場じゃないんですけど、ここ来たら少しでも楽になると思いますよ。僕も良ければ話聞けますし」

「すいません、ありがとうございます。確かに気持ちが楽になりますねここに来ると。誰かに話を聞いてもらいたかったので、外に出て正解でした」

「それは良かったです。大体夜頃ここにいるんで、気が向けば話しましょう」


思ったより会話がスムーズに続いたので安心感を覚えた。ただ、女性と長く会話を続けるのは苦手なので、この辺りで切り上げることにした。

「では」と言い、ベンチから立ち上がった。女の人はまだ座っていた。しばらくは池を眺めるつもりなのだろう。


結局、何がしたかったのだろう。せっかく話しかけたなら、もっと長く会話するべきだったのでは。そんな後悔が脳内に沈殿した。

切り替えるように、手をつけていない唐揚げを口に咥えると、とっくに冷えていた。次はいつ公園に行こうか。

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公園 黒川衛次 @kuroro087

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