河童とショート・ケーキ

球根

第1話

恋愛の始まり方と終わり方なんて忘れてしまった。


 マイプロフィール。

 結婚して3年目に娘誕生。

 結婚して5年目に夫死亡。

 今日は結婚して10年目の記念日。


 ざっと言うとこんな感じ。

 夫の死亡は、事故だった。

 私は娘のことは愛している。

 ずっと子育てしてました。

 追記するとこんな感じ。


 今日、私は合コンに行っていた。

 何億年ぶりの合コン?


 頭にサラダの葉っぱを乗せてる男がいた。

 何故か私はその男と手を繋いでいた。


 今こんな状況。

 死んだ夫、今の私をどう思いますか?と問おうかと思ったけどやめておく。

 アンタも不倫してたんだよ。

 私は、別に頭に葉っぱを乗せてる男と手を繋いでるだけ。それだけ。


 テーブルの下で、手を繋いでいた。

 周りの人にはバレないように。


「ところで、なんで頭に葉っぱ乗せてんの?」なんて野暮なことも聞かない。

 だって私も男もいい感じに酔っ払っていた。


 セックスの予感は……どうだろう。

 あり、かな。


 この男のことを密かに私は、「河童」と呼ぶことにした。


「ねぇ、2人で二次会しようよ」河童が言った。

 ほら出た。


「いいよ」


 きっと河童は、私をどっかホテルに連れ込んで行くのだろう。


「スイーツ食べよう」


ーーはい?


 若干ムラムラしていた身体と気持ちを抑えて手を繋いで、我々はカフェに行くのだった。


 スイーツには詳しくない。

 イカの塩辛の方が好きだ。カニ味噌も好きだ。私は酒飲みなのだ。


 河童はイチゴのショートケーキを選んだ。

 私もよくわからないので、イチゴのショートケーキを選んだ。


 河童は、ケーキが運ばれてくるなり、

 私の頭にイチゴを乗せた。


「あー美味しそう」

 河童は言った。


「ぶっ」

 吹き出した私を見て、河童はニコニコしながら、言った。

 ショートケーキ化しました、私。

 見てますか?死んだ夫。

 これで完成みたいです。

 河童とショートケーキ。


 私は、河童の頭にある葉っぱをとって食べた。

 ベビーリーフのそれは、ほろ苦く、

 ケーキには合わない。


 私も河童じゃなくなった彼の頭にイチゴを乗せてやった。

 彼は嬉しそうに、さらにニコニコした。

「やったあ」と言った。


「ショートケーキになれたぁ!」


 おめでとう。

 ショートケーキ化した私たちは甘い甘い生クリームとスポンジに身を委ね、手を繋いで帰った。ちゃんちゃん。

 

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河童とショート・ケーキ 球根 @kyukondesu

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