第56話

男が離れて行くのを確認すると、聖也も家へ入ろうと振り返る。

すると扉が開かれており中からまりあが心配そうに覗いていた。

大丈夫だと優しく微笑んでやると彼女もホッとしたようでその表情には笑みがこぼれた。




「ただいま」




額にキスを落とし部屋に入ろうと腰に手を回してまりあを促すと、彼女は幸せそうな顔をしている。




「心配してくれたのか?」


『だって何されるかわからないじゃないですか?そう思うと不安で…』


「だから覗いてたのか?やっぱり可愛いなぁ、お前」




顔を赤くし照れるように俯くまりあに、改めてこの娘はいい子だと感じる聖也。

心が綺麗だからこそ人一倍繊細で傷付きやすいのだろう。




「おじさんおかえりっ!早く遊ぼっ!!」


「先に行っててくれ、すぐに行く」


「わかったっ!早くだよっ!!」


「あぁ」




さて…と、改まった様子でまりあを見つめる聖也。

いつになく彼の真剣な表情に、これから何が始まるのだろうと彼女は疑問に思った。

どうかしたのかと携帯に打ち込もうとしたその時、何を思ったのか彼が携帯を取り上げてしまった。

とっさに手を伸ばすもその手を掴まれてしまい…




「シンデレラは知ってるよな?」




突然何の話か訳がわからなかったが、シンデレラは知っているのでとりあえずうんと頷く事に。




「王子様は舞踏会でシンデレラが落としたガラスの靴を頼りにひたすら彼女を探し回った…そしてようやく見つけた。そうだなぁ?」




またも聖也からの質問に対しそうだと頷くまりあ。

携帯がないためどうしたのか聞く事すら出来ない彼女は戸惑う事しか出来ない。




「実は俺も探してるんだ…」




そう言って上着のポケットをゴソゴソとあさり出す聖也。

そして彼が取り出したのは…




「これがぴったり入る女をなぁ」




細かなダイヤがたくさん散りばめられたシンプルだけどどこか上品な…そう、彼が取り出したのは指輪だ。




「中々入る奴がいなくて困ってるんだ。試しにまりあもはめてみてくれ」




見惚れる暇も驚く暇も彼女にはなく、彼は掴んでいるまりあの手をそっと伸ばしゆっくり指輪を近付ける。

そして……




「ぴったりだ」




その指輪は怖いぐらいにぴったりで、まりあの指にはめられたそれは更に輝いて見えた。

まりあ自身もまさか自分にぴったり入るとは思っていなかったためかなり驚いている。




「受け取ってくれるよな?お姫様」




返事はもちろんOKだろ?と言わんばかりに彼女から返事を聞く事なく、彼は翔人の待つ部屋へ向かった。




「おじさん遅いっ!」


「そうか?翔人がせっかちなだけだろ?」




指輪をはめられた手をそっと握りしめ、仲良く遊ぶ2人の後ろ姿を見てまりあは涙を流した。

悲しいからじゃない。

嬉しくて…そして今とても幸せで…




「ママも一緒にDVD見よーっ?」




翔人に声をかけられ彼女は2人の待つ部屋へ向かった。

3人で楽しいねと笑う我が子。

その後ろでこっそり2人が手を繋いでいる事を翔人は知らない…

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