第36話

「なぁまりあ」




長い沈黙を破り開かれた聖也の口…まりあも自然と隣にいる彼のほうに視線を向けた。




「お前が好きだ」




まりあの思考は完全に停止した。

聖也が自分の事を好き?今確かにそう言ったのだが彼女の頭では処理しきれていない。




「俺じゃ駄目か?」




突然の告白に彼女はやはり戸惑いを隠せなかった。

聖也の事は嫌いではない。

それどころか好意を抱いていてくれた事はすごく嬉しい。

まりあも彼に惹かれているのは間違いないし、彼女自身もその気持ちには気付きつつある。

しかし彼女は…




『そう思ってもらえるのは嬉しいです。でも私はこんな状態で子供もいますから…聖也さんもきっとすぐに嫌になってしまいますよ?』




彼女は自分の気持ちにブレーキをかけてしまった。




「声なんて出なくてもいい。それに子供がいたっていいんだ…俺はそんなまりあを好きになった」




聖也は聖也ですごく真剣だった。

どうしてこのタイミングで言おうと思ったのかわからない。

本当は彼なりにプランも考えていた…けれど今言わなきゃ駄目だととっさにそう思ったのだ。




「まりあの事も、もちろん翔人だって幸せにする。ずっとお前の側にいたいんだ」




プロポーズじみた告白に聖也も自分で何を言っているのかわからなかった。

けれどそれが彼の本音なのだろう。

いつかまりあと結婚して翔人の父親になりたい…彼は本気でそう思っていた。




『やっぱり私なんかじゃ駄目ですよ』


「まりあ…」


『聖也さんには私なんかよりもっと良い人がいるはずです』


「俺にはまりあしかいない。お前だって俺の事好きだろ?」




必死に隠していたつもりの想いも彼には全てお見通しだった。




「なのになぜだ?」




本当は私も好きだと伝えたい…けれどそれが出来なかった。

彼女は意を決してある事を聖也に打ち明ける事に…




『私が妊娠したのは高校2年生の時です。その時20才の年上の方とお付き合いしていました。こんな私でも好きになってくれる人がいたんだって…すごく嬉しかったです。でも私が妊娠したとわかった途端彼に捨てられました。ただでさえ声の出ない私といるのも大変なのに子供なんて冗談じゃない。生むんだったら勝手に生んで1人で育ててくれ…そう言われてしまいました。だから怖いんです、私。もうあんな思いはしたくないんです』




初めて聞かされた当時の男の存在…想像もつかないくらいまりあは辛い思いをしてきたのだろう。

その表情は今にも泣きそうだった。

そんな彼女を聖也は抱きしめずにはいられなかった。

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