郵便物

第1話

カタカタカタ…



シンとした部屋から聞こえてくるパソコンのキーボードの音。

ティーカップのカタンッという音や、アロマや何かしらのいい香りのするような女らしい部屋じゃない。

ここは白やグレーに囲まれた必要最低限何もないつまらない部屋だ。



「ふぅ…」



仕事がひと段落し、一人暮らしの私には大きすぎるであろうベッドにダイブ。

私はフリーランスでファッションデザイナーの仕事をしている。

自分で言うのもなんだがそこそこ人気のあるデザイナーだ。

だから今は私にとって大事な時期…どんな依頼にも完璧に応えて信頼を得る。

まっ、当たり前のことなんだけどね。

大変なのは信頼を得ること…私は顔出しをしていないので相手とはいつもメールでやり取りしている。

そのせいで胡散臭いだの信用出来ないだの…ほんと何度言われたことか。

たった今も依頼主とのやり取りが終わったところ。



「もうこんな時間か」



時計の針は0時を回ったところ。

ふと携帯に目をやるも誰からの連絡もなし。

…これじゃあ付き合ってるのかどうかもわからない。

べつにいいけどね。

それより晩ご飯買いに行かなきゃ。



「寒っ」



12月の深夜はかなり冷えこむ。

幸いコンビニがすぐ側にあって助かったのだがもう少し厚着をしてくるべきだった。



「いらっしゃいませー」



暖房の効いた店内…買い物が終わったらここを出ていかないといけないという虚しさ。

それぐらいコンビニは暖かかった。



「ありがとうございましたー」



私は適当にお弁当と紅茶、それとデザートを買って足速に店を出た。

もう少し長居しようとも思ったがあいにく客は私1人。

気まずくてとてもそんなことできなかった。

来る時は気にしていなかったけど帰り道は静かでとても不気味だった。

薄暗い街灯に静かな街…車も通らなければ人も通らない。

住民が私1人を取り残して消えてしまったような…何とも言えない不思議な感覚だった。

途中、誰かにつけられてないかと後ろを振り向いたりもした。

…怖いなら夜に出歩かなければいいと思うかもしれない。ほんとにそう。

けどそうはいかない時だってある。

あの時もそうだった……なんであの日だったんだろう?なんで明日にしなかったんだろう?何度もそう思った。

けどもう遅い。

過去は変えられない。

私はソレを一生ひきずって生きていかなければならない。

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