ヤクザの娘

第1話

深夜0時。

お世辞にもあまり綺麗とは言えない少し古びた小さなアパートに、制服を着た1人の少女が帰って来た。

彼女の名は丸山まるやま 幸来さら

ワンルームの狭い部屋に母親と2人で貧しい生活をしており、彼女も家計を助けるためにほぼ毎日学校終わりに、居酒屋でアルバイトをしている。

少しでも家の食費を浮かせようと、夕飯はまかないで済ませたりもしているのだ。




「ただいま」




けれど家の中は外と同様暗闇に包まれている。

電気を付ければカーテンは開けっ放しで朝のまんま。




「お母さん今日もパートなんだ…」




カーテンを閉めながらふとそんな独り言を呟く…

幸来の母親は昼間は会社勤めをし、夕方からは最近始めたというコンビニのアルバイトをしているのだ。




「こんなお母さん…お父さんもビックリしちゃうよね?」




まだ3才だった幸来を抱っこする父親と、その隣で楽しそうに笑っている母親が映った大切な家族写真に語りかけると、彼氏に帰宅したとLINEを入れ、自分はさっさとお風呂に入りそのまま眠ってしまった。



幸来の父親は元ヤクザで、丁度この写真を撮ったすぐ後に亡くなっている。

それも母親の誕生日に…

彼女と幸来が好きだったイチゴのショートケーキを買って帰るからと家を出て行った彼、丸山まるやま 完二かんじは、確かにその日約束通りケーキを持って帰宅した。

けれど彼は血塗れでケーキもぐちゃぐちゃ…

病院に搬送されるも、そのまま息を引き取って亡くなってしまった。

毎日のように完二の写真を見つめては涙を流している母親の姿を、幸来は今でも鮮明に覚えている。

そしてその日からイチゴのショートケーキが食べられなくなってしまったのも、幸来は知っている…



翌朝幸来が目を覚ますと、おはようといつの間にか帰宅していた母親が、朝食とお弁当の準備をしていた。




「おはよう。お母さんいつ帰ってたの?」


「2時ぐらいかな?お店も暇だったし、店長さんが早く上がってもいいよって。内緒でジュースももらっちゃった。冷蔵庫にあるから幸来も飲んでね?」


「ありがとう、今日学校に持って行くよ……あのさぁお母さん」


「なぁに?」


「…あんまり無理しないほうがいいんじゃない?ほらっ、お父さんだって心配してるかもしれないし…」


「大丈夫。まだ40過ぎたばっかりなんだから。幸来のほうこそ無理しちゃダメよ?あなたの頑張りすぎるところ、完二さんにそっくりなんだから」


「ちゃんと覚えとく」




朝食を食べてお弁当を受け取ると、幸来は行ってきますと一足先に家を出た。

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