4-3:「暴虐と絶望に、ぶっ込む〝穿抜〟」

 王都の内を通る街路が集まり交差する、また一つの交差路。

 そこにはまた王都を占拠する帝国軍部隊が布陣している。

 その交差路を中心とする一帯は、帝国軍軍団の前線指揮所として使用されており。突貫造りのバリケードなどが構築されて、その内や周りで帝国兵達が蠢いていた。


「――グソォ、どうなってるンだァ!?」


 その中で、重々しい声色でイラついた言葉が上がっていた。


 発生源は、指揮所陣地内の真ん中に鎮座する、帝国軍の扱うマンモスに似た騎獣。

 その個体は通常のマンモス型騎獣より倍近く巨体であり。騎獣用の鎧も凝った装飾が成されており、その事から指揮官・司令クラスの座上騎であることが容易に判別できる。

 そのマンモス騎獣の背に設けられるまた造りの良い座席に、今のイラついた声の主があった。


 オーク、オーガ系の亜人種のような屈強な巨体に、しかし毒々しくも思える紫色の肌。そして悍ましい顔立ち。

 この世界ではオークやオーガよりもさらに上位に位置する、上級亜人種。そして王都を占拠する軍団の軍団長たる将軍であった。


「どうしてこんなありえネぇ早さで押されてやがる!?状況はどうなってんだァ!?」


 そんな上級亜人の将軍は、将軍専用の騎獣上で荒げ喚いていた。

 理由は言うまでもない、自衛隊の存在とその攻撃だ。


 帝国軍側の偵察が、この占拠している王国王都に自衛隊の接近を確認したのが数時間前。かと思えば、自衛隊各部隊は各方より堰を切ったように続々出現。そして信じがたい速さで王都へと辿り着き包囲。

 防御にあたっていた帝国軍部隊を容易いまでに破り、現在は王都内をその手の収めつつある。


 帝国軍側からすれば、まさに引っ繰り返されるまでの状況戦況の変化に。情報は遅れに遅れ、指揮系統は大混乱。統率も最早碌に取れていなかった。


「……ぅぅ」

「ぁぁ……」

「お救いをぉ……」


 そんな亜人将軍がイラ立ち荒げる座上騎獣だが。

 その騎獣の図体には、ある驚愕のそして痛ましい光景があった。


 騎獣の胴体周りに『ぶら下がって』いたのは、十数名程のダークエルフだ。

 ダークエルフと特有の良い容姿の、子供ほどから若い年齢までの男女。それが誰もが一様に衣服の全てを剥かれ、一糸纏わぬ裸体。

 そしてその人達はそれぞれの腕を、枷をはめられ鎖で繋がれ。まるで人間で作ったネックレスかのように、騎獣の胴体に吊るされて飾る様に晒されていたのだ。


 その人達はこのミュロンクフォング王国の民にして、王都の住民。

 そして今は帝国軍に囚われた立場であり、帝国軍の『戦利品』であった。


 この王都を占拠支配した帝国軍にとって、この国の民の財産は、そして民そのものが。己達の収穫品であり、戦利品であるのが認識が当たり前であった。


 今に騎獣に飾られ吊るされる若い男女に子供達も、むろんその一端。

 その、痛ましく希望を打ち砕く姿。

 それまでは目的を帝国の勝利支配の証しとして、嗤いものにすべく晒されていたその人達だが。今に在ってはその役目を、進入して来た敵を牽制するための人間の、肉の盾とされて利用されていたのだ。

 そしてそういった痛ましい光景は、マンモス騎獣の胴に吊るされた人達だけでは無く。この陣地の正面や各所に設けられたバリケードに、何人もの民の人々が磔にされた姿など。周囲のあらゆる場所で同様に見られた。


「ふざけやがってェ……オイ!一番隊と二番隊、出るぞォ!苛立たしいヤツ等に、ビビらせて分からせてやらァ!」


 そんな痛ましい王国の民の、上がる嘆きに呻きをしかし微塵も気にせずに。亜人将軍はまた喚き上げる。

 それは自らが配下部隊を率い、戦いの正面に打って出る事を。合わせて、足元の吊るされる民などを肉の盾として活用、それを敵に見せつけての脅し牽制する腹積もりを示すもの。


 民を、罪なき人たちを肉の盾とする戦法は。半端に軟弱な理想を掲げる相手に対して、絶大な効果が期待できる。

 帝国軍は今までその手で、小国から冒険者などに至るまで、敵対した相手をことごとく挫いてきた。

 実際、この王都エーティルフィを護っていたミュロンクフォング王国の近衛騎士団は。これを目の前に晒されて動きを封じられ、逆らう事を諦めて軍門に下った。

 その近衛騎士団の団員騎士であったダークエルフ達も、容姿の良い女から男までもが。今は民と同様に、肉の盾として晒される痛ましい姿となっている。


「オラァ!モタモタすんなぁ!ふざけたヤツ等を震えあがらせるぞォ!!――」


 そして今回もその効果をほぼ確信しつつ、亜人将軍は騎獣で声を荒げ。得物である巨大な斧を振り上げて、配下部隊に行動開始を命じようとした。



 ――異質な。空気を乱すまでの連続的な何かの音声が。

 唐突に飛び込み届いたのは直後。



 それがこの場の帝国兵達の意識を奪ったのは一瞬。

 次には交差路、帝国軍指揮所陣地の低空真上に。正体不明の飛行体が、グァ――と軽快ながらもダイナミックに。滑り込むように飛び込んで来た。


 帝国軍の飛竜類とはまるで違うそれ。それこそ――自衛隊のOH-6であった。



「……ぅぁ!?グソっ、こいつはァ……!?」


 ここまでも遠くの空に幾度となく見え、その存在の観測はしており。そしてこの場の帝国軍側に少なからずの動揺を与えていたヘリコプターの存在。

 しかしそれが唐突に己達の真上近くに飛来した事に。亜人将軍は驚きと忌々しく思う声を上げ、配下の部隊にも混乱が走る。


「――ァっ?」


 しかし、直後。

 真上に現れたその異質な飛行体、OH-6を見上げ見ていた亜人将軍は。宙空に何か別の存在、動きを見た。


 それはOH-6より飛び降り飛び出した、〝一人分のシルエット〟。

 それは、宙空より真っ直ぐに降下してくるように見える。その降下軌道の先は、亜人将軍――



「――――ち え ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ――――」



 〝それ〟の降下の姿。

 合わせて木霊し、聞こえ届くは何かの音――否。


 〝鬨〟。



「――す と ぉ ぉ ぉ ぉ お ッ ッ ッ ! ! !」



 シルエット――〝陸上自衛官〟のものであるそれが。降下軌道描き、引力に引かれる勢いの乗って。

 奇声の域である鬨を伴い、急襲した――

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