第4章:「終局への序曲」

4-1:「戦端、開く」

 ――翌日。場所、場面は《ひのもと》へ戻る。


「――もぬけの殻、か。皇帝はどこへ行った」


 正午が近づいた今も、大地を走り続ける《ひのもと》の指揮車両内。

 指揮所卓の前で、少しの険しさを見せる顔で零したのは芭文だ。


 昨晩の戦闘からの、ガリバンデュル帝国帝都グテュソリュービ陥落の報。そしてしかし、帝都には第二皇女を残し皇帝と皇族はおらず確保に至らなかった旨は、《ひのもと》にも届いていた。


「いずれかの帝国軍戦線に赴いている可能性が高いと見られています、しかしそうとしても目的他は不明瞭な点が多々」


 それに立ち会っている祀が、上層部より寄越された動向の予測を伝え。


「各方面、各隊には要警戒の指示が。合わせて我が編成には、先行調査を中止。ミュロンクフォングへの進入は一旦待ち、後続の第7方面隊主力と合流するよう指示が来ています」


そして合わせての指示事項を伝える。


「……ミューヘルマ殿下は?」


 そこで芭文は、ミューヘルマについてを考えに浮かべ。彼女の様子を尋ねる言葉を祀に向ける。


「色々、考え込まれているようです」


 祀はそれに解答を返し、そして列車編成の後部方向に促す視線を向けた。




「――……」


 一両のB寝台車のデッキ空間。その乗降扉の窓より、佇み流れる景色を眺めるミューヘルマの姿があった。


「――浮かない様子だな」

「ふぁ!?」


 そんな所へ唐突に背後より声が掛かり、ミューヘルマは小さく飛び上がる。


「驚いてくれるな」


 振り向けばそこには、他ならぬ会生の堂々立ち構える姿があった。


「アイセイ様……すみません……」


 正体が会生だと気づき、ミューヘルマは少し気恥しそうにしつつ謝罪する。


「酷く悩んで、いや心を痛めている様子見える。何を悩む?」


 その件はそこまでにして、会生は本題を改めてミューヘルマにぶつける。


「……」

「憎むべき仇敵の本拠地は陥落し潰れた。一つ報いが成され、憂いは一つが去った。しかし今の君は、抱えるものが増えたまでの様相だ」


 すぐには答えを返せない様子のミューヘルマに、会生は続け言葉をぶつける。


「……分からないのです」


 それにミューヘルは言葉を探しつつ口を開く。


「私が望み、取り戻したいのは国の平和。確かに帝国に対する憎しみが無いといえば嘘になります……しかし。帝国の人々の多くの命を奪うことまでは望むものでは無かった……」


 そう、自身の心情を自身でも分析しながらという様子で、ミューヘルマは話す。


「……王族たるものが、何を甘い事をと笑われるでしょう……」


 次にミューヘルマは、自虐的な様子でそんな言葉を零す。


「いや」


 しかし会生はそれを否定する言葉をまず返し。


「憎しみは人を飲み、暴力に容易く向けるものだ。しかし君は、祖国を取り戻すための戦う覚悟を携えながらも、同時に暴力に飲まれず人を想う事ができている」


 そういった言葉を向け。


「容易くできるものではない。戦う覚悟と人への優しさを合わせ持った、一つの確かな「強さ」だ――少なくとも俺はそう思う」


 そう、ミューヘルマの心情を解き言葉にし、そして評する言葉を向けた。


「――今の君の心情の、重しを解くには程遠いか」

「……いえ、ありがとうございます」


 少しの沈黙の後。会生は今の自分の言葉を、自身で嘲るようにそんな言葉を向けるが。

 しかしミューヘルマは小さな笑みを見せて礼の言葉を返す。


「休んでおけ、大きな戦いが近い。それも、今度は君の祖国を取り戻す戦いだ」

「……はい」


 最後にそう忠告し。ミューヘルマの静かな返事を聞くと。

 会生はデッキより先んじて戻って行った――




 さらに翌日。

 帝国帝都陥落から二日目の午前中。


 場所は、ミューヘルマの祖国たるミュロンクフォング王国の領地内。


 そのミュロンクフォングの地の上空大空を――複数の、異様な姿の飛行隊が。信じられぬ速度で、轟音を響かせて飛び抜け駆けていた。


 その正体は、計八機。二機種の〝戦闘機〟。

 日本国航空自衛隊の保有運用する、F-2戦闘機が六機。同じくのF-3戦闘機が二機からなる戦闘飛行隊、戦爆連合であった。


「――間もなくだ。ブラックメサ リーダーより各機、報告せよ」


 内の、F-2Aの四機で楔隊形を成し先行する編隊の、先頭の一機。この戦爆連合の指揮官機のコックピット内で、機を操るパイロットの三等空佐が通信に声を上げる。


《ブラックメサ2-2、スタンバイ》

《ブラックメサ2-3、スタンバイッ》

《ブラックメサ2-4》


 それに、同じ隊形を組む他三機のF-2Aから。


《ブラックメサ3-1、スタンバイ》

《ブラックメサ3-2》


 続け、後ろ側方で二機編隊を組む。火器管制・電子戦仕様のF-2BEの二機から。


《アパチャー・S 7-1、スタンバァイ》

《アパチャー・S 7-2、スタンバイ》


 最後に後続上方で援護を担う、F-3Aの二機から。

それをもって全ての機から、異常・支障無しを伝える通信が返り来る。


「オールスタンバイ、チェック――エリア視認、作戦行動を開始するッ」


 各機よりの報告を受け取った指揮官の三等空佐は、その確認を言葉にし。そして次には作戦開始の旨を発し上げた。


 戦爆連合の飛行進路の先の眼下。

 その地上には、豊かに栄えた土地、都市。ミュロンクフォングの王都が――しかし、戦いの火を上げる光景が見えた――




 ミュロンクフォング王国のその王都、エーティルフィ。

 城塞都市であるエーティルフィの、その外部近郊。


 そこに、結集し苛烈な戦闘の姿を見せるは――陸上自衛隊 第7方面隊の主力部隊だ。



 主力は、本来は日本の九州の地を護る西部方面隊 第8師団より。はるばるここまでやって来た、第12普通科連隊を基幹とする第12戦闘団。

 薩摩の地の〝ぼっけもん〟等。


 それに、西部方面戦車隊から抽出した戦車隊を基幹に編成された、西部戦車戦闘群。


 さらに第12旅団、第13普通科連隊から抽出した隊を基幹に編成される、空中機動戦闘群に。

 水陸機動団から抽出派遣された、第1水陸機動連隊を基幹とする連隊戦闘団も参加。

 他、付随部隊も展開配置して密な支援を提供。


 間もなく、第22即応機動連隊も合流予定。


 第7方面隊を形成する、日本の各地から集った部隊が。激しい戦闘の様子を見せていた。



 現在、各隊が展開配置するは。王都エーティルフィを遠巻きに囲い、一種の大外堀の役割を成している大河河川の向こう外側沿岸。

 相手取る敵は、対岸内側に配置布陣する。今現在はエーティルフィを占拠している帝国軍部隊だ。


 大挙して並び、重圧な陣形を組み見せていた帝国軍部隊だが――今やその雄々しいまでの姿は、見る影も無かった。


 対岸に、第12戦闘団の重迫撃砲中隊の、各中隊の迫撃砲班の各砲撃が絶え間なく叩き込まれ。爆炎をそれでカーテンを作る勢いで上げ。

 西部戦車戦闘群所属の10式戦車の射撃が、また大河を飛び越えて向こうで炸裂。

 同じく、配置し据えられた重機関銃から中機関銃に、各員の固有火器までもが。執拗に河川の向こうへ火線を注ぎ叩き込む。



 ほとんど一方的な攻撃投射に。

 帝国軍側の軒並み隊列は崩れ、巻き上げられ。何体も居た巨獣騎兵は沈み。投擲兵器も破壊され沈黙。

 まさに阿鼻叫喚の様相。

 向こう側の戦列隊形は崩壊状態と言っても良かった――




 その苛烈で大規模な戦闘の最中。

 自衛隊側の各部隊が正面展開しているその背後。


 大河の流れ通る方向に合流するように伸びて、そして複数線に分岐している線路軌道上に。

 今にあっては連結の何か所かを解いて、急く様子で編成を入れ替えている《ひのもと》とその編成隊の姿光景があった。


 一度その《ひのもと》から視線を外し、軌道の辿って進み伸びる先を見る。



 そこに、流れる大河の一点に見えたのは、橋――なんと、鉄橋だ。

 線路軌道が設備された、鉄の端。この異世界の、向こう優美な城都を見る光景にはあまりに似つかわしくない代物。


 明かせば、この異世界の地を上る鉄道軌道と同じく。異世界と日本の接続の〝元凶〟となった白衣と作業服の人物が用意したもの。


 それが大河に堂々たる様相で掛かっていた。


 今は流石に帝国軍の部隊が先んじて占拠して居座っていたが。しかしそれが自衛隊の攻撃によって排除されるのも時間の問題であった。



 《ひのもと》はこれより、編成を組み替えてあの鉄橋を渡り。

  エーティルフィの内部へと乗り込もうとしていた。


 間接火力車や指揮車などの後方に配置しておくべき車輛や、寝台車などの非戦闘用車両は置いていき。

 機動車たるDD14に直接火力車と警戒車、いくつかの貨車のみを連結し直し。編成を変えた上で乗りこむ算段。

 今はそのために、またこれを活用しろといわんばかりに用意されていたポイント、引き込み線を利用して。車輛を入れ替え、編成組み換えを急いでいる真っ最中であった。



「――」


 その様子の一角、軌道の傍で。会生や観測遊撃隊の面々が展開配置して、編成組み換え中の警戒に着く姿がある。

 その途中にも。引き込み線に単車で引き込まれ置かれた71式間接火力車が、その備える105mm砲を唸らせて対岸に砲撃を叩き込む。


「――ヨォ、上からおでましだッ」


 その直後、選抜射手の調映が上空を示しつつ声を上げる。


 空を見上げ見えたのは、上空の高い高度より降下してくる二つの影――機影。

 それは1機のF-2Aと、1機のF-3A。今先程に上空に到着したばかりの、航空自衛隊の戦爆連合の機体だ。


 緩降下体勢に入るF-2A。

 背後上空に援護位置につくべく離れて行くF-3Aの姿を見せながら。F-2Aは轟音を届かせ寄越しなつつ、みるみる高度を下げて来る。

 その主翼に、腹に抱き見せるは無数のMk.82航空爆弾。

 緩降下爆撃を仕掛ける腹積もりだ。


 そして直後に、F-2Aはその抱く航空爆弾の複数発を切り離し投下。

 それは宙空でばらけ。対岸の帝国軍陣地隊形の各所に、死の雨となって降り注ぎ、叩き込まれ。

 ――爆発炸裂。


 帝国兵達のその人種種族の区別差別無く。上がったいくつもの巨大な爆炎で包んで焼き、巻き上げ四散させた。


「ッぅ……!」

「ヒュゥ」


 爆発の衝撃に音はこちら側まで届き。

 百甘が少し身を竦ませ声を漏らし、舟海が囃し立てるように口を鳴らす。


「――再編成完了ォーッ!」


 爆音が収まりを見せ始めた刹那。背後より編成隊の隊員からの張り上げ伝える声が届く。

 《ひのもと》がその再編成を完了した知らせだ。


「進行再開するッ、各隊移動準備ィッ!」

「編成隊が移動するぞーッ!」


 さらに《ひのもと》の近くで、芭文が指示命令の声を張り上げ。

 近くに警戒しつつ身を置く祭りが、連ね張り上げ知らせる姿を見せている。


「移動だ、踏み込むぞッ」


 それを受け取り。会生もまた自身の指揮下の観測遊撃隊各員に指示。


「了ッ」

「了解……っ!」

「やれやれだな」


 それに、舟海が端的に。

 百甘は少し緊張した様子で。

 調映は皮肉気な零しで返し。


 観測遊撃隊は再編成、隊形体勢を整理し直し。

 線路軌道上を、発動の唸りを上げ。金属音を鳴らして進み始めた《ひのもと》に続き、動き始めた。

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