2-6:「阻止急襲、から脅威接敵」
村の南端より少し北へと言った、村の一点。そこで、今まさに痛ましい荒事が起こっていた。
「ぐぁっ……!」
多数の帝国兵が集い囲うその真ん中で、一人の中年男性が地面に叩き投げ出される。中年男性からは苦悶の声が上がる。
「父ちゃんっ!」
「ゲインさんっ!いやぁっ!」
そんな中年男性に向けて掛かる、二つの悲鳴にも近い声。見れば、囲う帝国兵に捕まえられる二人の男女の子供の姿があった。
男の子はリザードマン種の帝国兵にその体を摘まみ上げられ、女の子はオーク兵の太い腕に捕まえられている。
中年男性と子供達は、この村の住人だった。
中年男性は己の息子を始め、村の子供達を逃がすべく奔走していたのだが。身を潜め、帝国兵の隙をついての手管もついにその運が尽き。脱出の最中を帝国兵達に見つかり捕まってしまったのだ。
「おらぁッ!来い!」
「小賢しいことしやがって!」
一方で、荒げた声を張り上げて男性や子供達に浴びせる帝国兵達。
帝国兵達にとって、己らを欺き裏をかいて行われていた脱出行為は面白いものでは無く。そして何より、戦利品となる女子供を逃がされたその行為は、許されざるものであった。
「ぐぅっ!」
「ゲインさん!やめてぇ!」
その怒りをぶつけるように、帝国兵は男性を足蹴にして暴行を加える。
それに男性は鈍い悲鳴を漏らし、女の子は叫び上げる。
「クソ、手間を取らせやがって!」
「こいつは、手間賃として楽しませてもらわねぇとなぁ!」
しかし帝国兵達は相手取らず。
そして男の子や女の子を捕まえているオークやリザードマンは、次には下卑た笑みでそんな言葉を発する。
『戦利品』として確保した子供達に、不愉快な手間を取らされた腹癒せとして、その獣欲をぶつける事を思い描いているのだ。
「やめろ!子供達には……ぐぁっ!」
「うるせぇ!」
それに懇願の言葉を上げる男性に、再び加えられる暴力の手。
「オラ!来い!」
「お礼に、たっぷり楽しませてもらうぜぇ」
そしてまた下卑た荒い笑いを上げ。帝国兵達は子供達をその場寄り連れ去ろうとする。
「いや……やめて……いやぁっ!!――」
目の前で繰り広げられる、男性への痛ましい暴力に。そして憎く下卑た者達の手によって、今まさに己達が恐ろしい暴力欲望の渦へと連れ込まれる恐怖に。
女の子は体を捩り、一声の悲痛な叫びを上げた。
――乾いた。しかし甲高い音声が響き伝わったのは、その瞬間であった。
「っ!?――きゃ!」
直後、女の子は何か小さくはない振動をその身体に覚えた。
かと思えば、その次にはドサリと落下する感覚がその体に伝わる。そして見ればその通り、捕まえられていたはずの彼女の身体は、今に在っては地面へと落ちていた。
「ッ!?」
そして次に気付いたのは、その彼女のすぐ側に横たわる大きな図体。それは他ならぬ彼女を捕まえてたオークの帝国兵。
見れば、そのオークは脳天を砕かれ。地面に脳漿とおびただしい量の地を零し流しているではないか。
憎き暴漢といえど、残酷で凄惨なその慣れ果てを前に。女の子は驚き身を竦ませる。
「――!」
しかし直後。彼女は別方、遠く向こうの高所から〝何者か〟がこちらを見降ろしている気配に感づいた。
そして振り向いた彼女の眼は、向こうに聳える村の鐘楼の頂上に。
一瞬だけ――しかし確かに瞬いた、光を見た――
村の一点に存在する、小高い鐘楼。
つい今程よりそこは、観測遊撃隊の観測班が接収して観測地点として利用するに至っていた。
現在その鐘楼上階部の空間に身を置くは、観測班観測要員の村阿と長呉。二名は鐘楼の空間で観測配置に着く姿を見せている。
「――御仏よ。咎を抱えしこの一つの身を、今はただお見守りください」
そしてその横。64式7.62mm狙撃銃を突き出し構えて別途配置するは、選抜射手たる調映だ。
その射撃姿勢で、調映が紡ぎ零すは神仏への祈り願う言葉。
構える狙撃銃の銃口からはうっすらと硝煙が上がり。そして調映のその眼は狙撃スコープを覗いている。
その向こう、地上の一点に映るは。頭部を爆ぜて地面に崩れ沈み、おびただしい血を流す一体のオークの亡骸。そしてそのオークの腕より、たった今解き放たれた一人の少女の座り込んだ姿。
それこそ。今まさに調映が行った狙撃行動による、成果が成された光景だ。
調映は、少女を連れ去ろうとするオークの頭を撃ち抜き、亡き者と果てさせてそれを阻止して見せたのだ。
「――御仏よ、八百万の神々よ。今だけにあっては、非道退散を成すべく行いを見守りください」
調映はその印象の悪い人相に似合わぬ、静かな祈りの言葉を紡ぎながらも。
すぐに照準をそのオークや少女の姿様子から外し移動。続けその照準会に納めたのは、男の子を摘まみ捕まえ、茫然と隙を見せ晒すリザードマン。
――瞬間には、再びの甲高い射撃音が響いた。
そして直後。リザードマンの頭部が落した果実のように爆ぜ、打ち飛ばされるように地面に叩きつけられて沈む。そして男の子が少し荒々しくも、その腕より解き放たれる。
僅かな時間、動きでの正確精密な再照準の後に。調映は続く標的であるリザードマンを、撃ち抜き仕留めて見せたのだ。
「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏――」
祈る言葉を。御仏に委ねる言葉を静かに紡ぎながらも。
しかし調映は戦闘射撃への意識を疎かにする事は無く、さらに続く標的を撃ち抜くべく照準を動かす――
「……は……!?な、なぁ!?」
「あ、頭が爆ぜ……っ!?」
男性や子供達を囲い、嬲り略奪に興じていた帝国兵達は。しかし突然の仲間の凄惨な姿への変貌に、一転して狼狽え混乱の様子を見せる。
「ま、魔法か!?お、落ち着け!居場所を探……――ぎゅェアッ!?」
その中で、隊長格なのであろう一人の屈強な帝国兵が、部下を落ち着かせ命じる声を張り上げかけた。
しかし。それは紡ぎ切られる事無く、直後にえげつないまでの妙な悲鳴に変貌した。
弾き叩かれるように吹っ飛び、地面に叩きつけられる隊長格の男。目を落せば、その頭部上半身は肉がこそげ裂け、目を覆いたくなるまでの惨状に変貌している。
そして。その隊長格の帝国兵を退けて変わる様に、そして状況が飲めずに茫然としている男性や子供達を庇うように。その場に一名分の人影が踏み込み現れる。
M870MCSショットガンを構える、その正体こそ。近接戦闘員の船海その人であった。
「ぇ――ぎェッ!?」
そこから間髪入れずに、残酷なまでのそれは始まった。
舟海はその構えるM870MCSをもって、近場の帝国兵に目に付く端から散弾を浴びせ始めた。
「びぃェッ!?」
「きょッ!?」
射撃、ポンプアクションからの再照準。そして射撃。
華麗なまでの素早い動き。それに合わせた射撃音が、そして散弾を諸に浴びせ叩きつけられた帝国兵達の悲鳴が響き上がる。
さらにそこへ別の発砲音が、射撃行動が加わる。そして直後には遊撃班班長の寺院が、舟海に続いてその場に駆けこんで来た。
「この人たちを避難させるぞッ!」
寺院は低い姿勢を保ちつつ。自身の装備する89式5.56mm小銃で舟海の撃ち零しを仕留めてフォローしながらも、言葉を張り上げる。
そして次には、今しがたリザードマンの腕から放り出された男の子へ近寄り。その体を少し荒々しくも掴み抱き寄せる行動を見せた。
「了」
船海は牽制も兼ねた射撃行動を続けながらも、端的に返す。
その間にも寺院は続けて、驚いている女の子の方も。遠慮している余裕は無いと、ひょいと小脇に抱えて、先んじてその場から引く。
それに続き舟海も牽制射撃を行いながらも後退。
「失礼、我慢して」
その途中で茫然としていた男性、ゲインを。失礼を承知でその服を掴んで引きずり連れて、近場背後の家屋へ逃げ込むべく引いていく。
「!、く、糞……!待ちやがれ……!」
立て続いた突然の急襲事態に狼狽していた帝国兵の一人が、しかしその寺院等の退却行動を見止め気付いて声を荒げ。そしてそれに応じてまだ周囲近場に残っていた帝国兵達が呼応、それを追いかけようと動作を見せる。
「――ぃ゜ぇッ」
しかしそれは、直後に来たそれに。降り注ぎ始めた無数の鉄の暴力により退けられた。
「びぇッ!」
「ギャゥ!」
上がり始めたのは、連続的な破裂音――射撃音。そして一体にばら撒かれ降り注ぐは、鉛玉の無数の雨霰――そう、機関銃掃射だ。
それに浚えられ、帝国兵達がおもしろいまでに次々に弾かれ沈んでいく。
視線を移し見れば、その一帯の少し向こうにはV字の分岐路が存在。その分岐真ん中にある家屋の上階の、開け放たれた窓に。そこから銃身を突き出して唸り機関銃弾を吐き出す、M240B機関銃が在って見えた。
その奥に微かに見えるは、射手たる百甘のシルエット。
彼女は分岐家屋を利用して高所に配置、機関銃を据え。地上で帝国兵達の囲い巻く現場に踏み込んだ寺院と舟海が、村の男性と子供達を回収して退避に移った瞬間。
それを援護し、そして帝国兵達を薙ぎ浚えるべく。掃射を開始して銃弾の雨霰を愛せ始めたのだ。
一帯に散らばって帝国兵達は応戦も叶わず、浚え弾かれて行く。
さらにそこへ地上の側で、V字路より追い付き現れたのは、MINIMI軽機射手の一玉。それに会生と祀とストゥル。
一玉は一帯の一点に滑り込みカバーして軽機を据え構えると。帝国兵達に追い打ちを掛けるかのように、M240Bからのそれに続け加えるように、別角度からの銃撃掃射を開始。
そして会生に祀、ストゥルはそれぞれ散開してカバー配置。さらに男性や子供達を近くの家屋に押し込むように避難させた寺院と舟海も、戻り再展開配置。
各員は、軽機や汎用機関銃の掃射を零れた帝国兵を。それぞれ各個射撃をもって逃さず仕留めて行く。
それをもって。
一撃目の狙撃による介入からものの数分で。一帯を占拠していた帝国兵の一隊は掃討され、動く敵の姿は無くなった。
程なくして軽機と汎用機関銃はそれぞれ掃射を一度止め、一帯には静寂が戻る。
その静寂の戻った一帯に、しかし今先までとは一変して動き無事である帝国兵の姿は一つとして無くなり。鉛玉に貫かれ、亡骸と化して沈黙した帝国兵達の姿が、そこかしこに散らばりあるのみであった。
「――クリア」
「残敵ナシッ」
その様子光景を確認し、寺院を筆頭に各員が、無力化が成された事を知らせる言葉を上げる。
そして寺院や船海、一玉等。地上で応じられる隊員がそこからさらに進み押上げ、一帯に広く展開。
帝国兵に代わって一帯を掌握する様子を見せる。
「クリア、了解」
会生はそれに答えつつ、自身もカバーを解いて少し進み出て。警戒を保ちつつ視線を周辺一帯に走らせ、掌握を行う様子を見せる。
「酷いものだ……」
そこへ背後より、祀が歩み追い付いて来て言葉を零す。
今は戦闘任務中であるためその口調を、努めて厳格なものに保っているが。しかし荒らされ村の一帯に、暴力略奪の現場となったその光景に、その顔は苦く悲しげだ。
少し離れた背後では、ストゥルが自身の投射武器に、杭のような矢を新たに引き直し備えつつも。また険しい、そして嘆く色で周囲を見渡している。
「あぁ」
それに会生は同意しつつも。しかし今は感傷に浸っている時では無いと示すように、端的な一言だけで返す。
「とにかく、今の民間人の人達を確認しなければ……――」
祀自身もそれを受けて意識を取り直し。今しがた避難させた村の男性や子供達の、状態容体をまずは確認しなければと、行動に移ろうとした。
――しかし。
場の向こうより、大きな破壊音が、そして崩壊音が。唐突に響き上がり聞こえたのは、その時であった。
「!?」
「ッ!」
この場、現状でのそういった類の音や現象の発生は。十中八九、襲撃や荒事に関するそれだ。祀に、ストゥルはその表情を一層険しくして目を剥き。音の発生源を辿り見る。
発生源は、家屋の並ぶ一帯の奥側。そこにある一軒の家屋の壁が大きく崩壊し、大穴が空いている。
そして直後、その崩壊部の大穴から、あまりに巨大な存在がその姿を現した。
形は人型、しかし3mは優にある赤黒い肌が目立つ屈強な巨体。
それは、オーガであった。
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