2-5:「村への進入、偵察戦闘開始」

 木立を北上して抜けた先に、ルオンという名称で呼ばれる村はあった。

 規模は村としては大分大きく、その栄え方は近隣周辺の主だった街町にも引けを取らぬ、豊かで賑わいに溢れる村。


 ――しかし今現在に在っては、そのルオンの村は混乱と惨劇の渦中に陥っていた。

 村のそこかしこから火の手が上がり、刃が交わる戦いの音が響き、そして数えきれない程の絶叫悲鳴が木霊している。


 ルオンの村は、ガリバンデュル帝国軍による襲撃を受けていた。

 村を襲ったのは帝国軍の内の一軍団。現在のこの地方地域の侵略行動を担っていたその一軍団は、軍団への補給と兵の休息のために――それを補うための略奪を目的として、村を襲ったのだ。


 その一軍団は当初こそは豊かなルオンの村を、なるべく傷物にせずの占拠支配下に置くことを目論んだが。村が難色抵抗の姿勢を見せた事から、軍団はその態度に怒りを覚え、早々に手段を襲撃略奪に切り替えた。

 この辛抱に欠ける手の早さの裏には。

 ガリバンデュル大帝国の侵略行為が、唐突かつ急速にそれも大規模に始められ。準備期間の無さ等が影響して、各地の軍団や部隊に十分な補給が届いておらず、帝国軍の多くの軍団部隊が飢え不満をためているといった理由があったのだが。

 ともかく村をその魔の手が襲い、今の村は奪え殺せの惨劇悲劇の舞台と化していた。




 そのルオンの町の南側端。そこで隣接している木立の中より、観測遊撃隊の各員が散開隊形で次々と駆け出て来た。


「――付近にナシッ!」

「そのまま進入するッ」


 先行警戒を務める舟海が付近に敵の存在は居ない事を発し伝え。それを受け、会生は指示の言葉を上げる。

 村の外周は高くはない柵で隔てられるのみだ。

 観測遊撃班の各員はそれを飛び越え、あるいは扉を蹴り抉じ開けて抜け、村の敷地内へと進入を果たす。


「交差路だ、一度展開しろ」


 進入した地点から少し向こうに、開けた十時交差路があった。会生はそこへの展開配置を指示。

 各員はそれに呼応。

 先陣を務めた数名は十字路の手前で一旦停止カバーして、その先周囲を伺った後に。安全を確認すると十字路へと踏み出て各所へ散らばる。

 それに続き後続の各員も十字路上に散開展開。

 それぞれは家屋の影や適当な遮蔽物にカバーし。軽機や汎用機関銃は要所にドカリと荒々しく位置取る。


「何か見えるか」


 会生は周辺を見渡せる指揮に都合の良い場所にカバーしていた。そこから各員に向けて報告を要請する声を上げる。


「まだ何も――いや、訂正ッ。東方に出現、接敵ッ!」

 

 それに最初答え、そしてすぐにその言葉を訂正して張り上げたのは。十字路東方に配置していたMINIMI射手の一玉。

 その示された方向を見れば。十字路より東に延びる道の向こうより、数騎――5騎程の陸竜竜騎兵が出現、向かって来る様子が見えた。

 絶賛略奪の真っただ中だったのであろう、その速度は軽いもので、動きは周囲を物色しながらのそれであったが。直後には帝国竜騎兵達はこちらに気付き、そして戸惑いの色を見せたのも少し。

 次にはその色を明確な害意のそれに変え、そしてこちらへ突撃を仕掛けんとする動きを見せた。

 だが。

 その帝国竜騎兵達の突撃行動を認める前に、それに向いていた一玉の操るMINIMI軽機が唸り声を上げた。

 

「――ぴゃっ!」


 飛び込んだ火線は先頭で先陣を切ろうとしていた竜騎兵を、もんどり打ち弾いて落させ。そして続く銃火の雨で、竜騎兵の一隊を正面から叩き殴るように舐め出した。


「ぎゃッ」

「ゲェッ!」


 ばら撒かれる機銃掃射が、さらにそこへ続け加え、MINIMI軽機に合わせて配置カバーしていた隊員数名の各個射撃が。竜騎兵達を狼狽の間すら与えずに撃ち抜き弾き倒す。

 そしてものの数秒後には、現れた竜騎兵の一隊は残らず地面に沈み、東方の道に動くもの無くなった。


「北方に確認ッ!」


 しかし間髪入れずに、それに入れ替わる様に。別の隊員から報告の声が上がる。

 示された方角、十字路より北方に伸びる道の向こうを見れば。

 おそらくまた略奪行為を行っている最中に、騒ぎを聞きつけたのだろう。各家々から帝国兵が次々に飛び出て来る姿が見えた。今度は人間に留まらず、オークやコボルドなどの兵も見える。


「ッ――」


 しかし、そんな区分はどうでも良いとでも言うように。

 今度は配置し据え構えていた、百甘の担当するM240Bが。その重々しい唸り声と共に、銃火を吐き出して飛び出てきた帝国兵達へと牙を剥いた。


「ギャッ」

「ギェェッ!?」


 百甘の薙ぎ撃つ動きで、一発一発が重々しい暴力を成す7.62mm弾が、しかし雨霰の如く道の上にばら撒かれ。安易に体を晒した帝国兵達を、その種族で差別する事無く、無差別に貫き穴を開けて弾き屠っていく。

 さらに今先と同様に、配置する各位隊員の各個射撃も開始され。M240Bが撃ち零した敵を狙い屠る。


「西方ッ」


 そんな最中へ、さらに隊員の知らせの声が張り上げられる。

 交差路も西方からも、同じく騒ぎを聞きつけたのだろう。数名の帝国兵が現れ接近して来る姿が見えた。

 しかし大事は無かった。

 それに向けてはカバー配置を取り直した一玉のMINIMI軽機が対応。唸りを再び上げて銃火掃射を浴びせ始める。

 さらにこれにあっては、丁度適切な位置にカバーしていた会生や祀も呼応。それぞれの装備火器である9mm機関けん銃をもって各個射撃を実施、MINIMIの撃ち零しをフォロー。

 交差路複数方向からの接敵襲撃は、しかし観測遊撃隊の火力により一方的なそれで退けられ。もののわずかな時間で、帝国兵達は軒並み地面へと沈んだ。


「ナ……う、うワぁ!――ゴョッ!?」


 その果てに、北方の道の上に最期に一体残った帝国兵のオークの姿が在った。

 そのオークは狼狽え臆した様子を見せ、次には背を向けて逃走を図ろうとする姿を見せたが――そのオークの後頭部に、何か太い杭のような物が打ち付けられるよう突き刺さったのは直後であった。

 一目見ただけで致命傷と分かるそれであり、オークはそのまま膝を折って力なく地面に崩れ沈む。


「――恨むなら己の行いを恨め、同胞」


 視線を辿り見れば、交差路の一点にはカバー姿勢を取りながらも何かの武器を構え。そしてそんな一言を静かに零すオークのストゥルの姿が在った。

 その彼の腕に構えられるは。何かクロスボウとスリングショットの機構の合いの子のような構造の、そして平均的なそれよりも一回り以上も大きい投射武器。

 それはストゥルの愛用する投射武器であり、それより放たれた杭の如き太さと長さの〝矢〟が。彼と同種であるも敵対する、帝国兵オークを仕留め沈めたのであった。


「――クリアーッ」

「敵影ナシッ」


 最後の敵が沈み周囲に動くものが無くなり、交差路に配置した各員から報告の声が上がる。


「了解、そのまま警戒を保て」


 それを了解し、そして続けての警戒維持の指示を返す会生。


「わぉ、すげぇな兄ちゃん。そんなデカブツでよく狙える」


 その側。寺院がストゥルにそんな声を飛ばしている。それは規格外の投射武器をしかし容易に用いて、精度の高い射撃を行って見せたストゥルの腕を評するもの。


「これくらいなら。エルフ族などには引けを取るさ」


 それにストゥルは誇り自慢するでもなく、自嘲気味にそんな言葉を返す。


「しかし……酷い。ルオンの村は、穏やかさと栄え賑わっていた、平和な村だったのに……」


 しかし次にストゥルは視線を一流しして周囲の光景を見て、そして嘆く様子の険しい色をその厳つい顔に作る。


「……よく来たのか?」

「あぁ、ギルドの依頼の最中などで、よく休息に立ち寄り世話になったものだ……ッ……」


 寺院の掛けた尋ねる言葉に、ストゥルはそう答え。そしてまた険しい顔色で悲し気な言葉を零した。


「――周辺はクリアです。ですが、この気配だとキリが無いかとッ」


 その一方。交差路の向こうからは警戒に着く舟海より、会生の元へ報告と進言の言葉が飛んで来ている。

 それは交差路周囲こそ一度クリアになったが、敵との接触は以降もまだまだ多数予想される事を知らせるもの。


「ッ……我々だけではできる事は限られますッ。戦闘群の到着合流を待つべきではッ?」


 続けては百甘が、汎用機関銃を据えて付きつつ、少し落ち着かない様子でそんな進言の言葉を寄こして来る。それは現在向かっている第32戦闘群との合流を待つ事を進言するもの。


「戦闘群との合流が必須なのは確かだ。だがその戦闘群と、編制本隊のためにも状況を少しでも掌握する必要がある」


 それにしかし会生は同意しつつも、その上での自分等の取るべき行動を説明して返す。


「広範囲を観測できる高所を抑え、町の主要箇所を掌握する。祀、いいな?」


 続け会生は大まかなプランを各員に告げ。それから隣に居た祀、この場の幹部隊員でありこの場の監督者である彼女に、一応の確認を取る。


「問題ない、それでかかれ」


 それに祀は了承の言葉を返した。今は戦闘中であるため、その口調は毅然としたものだ。


「村阿、長呉、観測班はあの鐘楼に上がれ。周辺を観測掌握し、火力投射に備えろ」


 承諾を受け会生は、間髪入れずに各員への詳細な指示を始めた。

 まずはすでに目を付けていた、軒並みの向こうに存在する小高い村の鐘楼を指し示し。観測班の内の二名にそこに上がり配置するよう命ずる。


「一玉は地上のほうに借りるぞ」

「了解」


 続け、観測班に付随するMINIMI射手の一玉にあっては、地上に同行させる旨を伝える。それ等の指示を了承する返事が、観測班班長たる村阿から寄こされる。


「代わりに――調映ッ」


 さらに続け、会生は隊員の内から一名を呼び指名する。それは人相印象の良くない選抜射手の調映だ。

 調映は戦闘状況の中であるにも関わらず、今もチューインガムを噛む動きを口に見せており。その姿で視線だけを寄こす。


「観測班と一緒に上に上がれ、射撃支援に当たるんだ」


 そんな調映の姿様子を咎めるでもなく、会生はただ端的に必要な指示を告げる。


「了」


 その指示に、調映はまた色の異なる端的な様子で。一言了解の旨を寄こした。


「他は地上から偵察掌握を続ける。何か質問は?」

「ナシ」

「オーライです」


 指示説明を終え、会生は最後に各員に尋ねる。それに各員から返るは、特に問題支障がない事を返す言葉。


「なら再開する、行くぞ」


 それを受け、会生は端的にしかし張り上げるそれで行動再開を指示。

 観測遊撃隊各員はカバーを解いて再編成。二手に分かれて偵察行動を再開。村の最中の進行を再び始めた。

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