落ちこぼれ迷宮のイクナ:廃れたダンジョンから最強ヘ! 復活物語

Riel

プロローグ パート1

赤い閃光が、廃墟と化したダンジョンの暗い通路を照らした。


激しい音を立てて床が裂け、大量の瓦礫が下の階へと崩れ落ちた。

狭い通路にこだました衝撃が大地を揺るがし、立ち上がる粉塵の柱が空気を重く染める。

小柄で素早い影が、砂ぼこりの中に素早く姿を消し、まるで影のように動いていた。


足音はほとんど聞こえぬが、それとは対照的に、その影の呼吸は明らかに疲労を示しており、徐々にその足取りを鈍らせていた。


その影は一人の若い女性だった。


見た目は二十歳前後、だがその小柄な体型には不釣り合いなほど成熟した雰囲気を纏っていた。

彼女は、繊細な巫女のような美しい装束をまとっていた。だが、その服はところどころが破れ、埃にまみれていたにも関わらず、どこか洗練された生活を送っていたことが感じ取れた。


対照的に、彼女の肩にかけられていた革製の袋は少し擦り切れており、彼女の小さな体に比べると大きく見えた。

黒く長い髪が風に揺れ、その髪の端には二本の血のように赤い小さな角が飾られていた。


彼女の顔立ちは小さく繊細で、鋭い決意に満ちた瞳が光っていた。


「……くそっ……!」


少女がつぶやいた。


暗闇の中で、彼女は胸にしっかりと抱えた小さな赤い球を強く握りしめていた。それは片手にすっぽり収まるほどの大きさで、かすかに赤い光を放っていた。その光を頼りに、彼女は崩れた廊下を素早く駆け抜けていた。


入り組んだ壁を見事にすり抜けながら、彼女は何度も背後を振り返り、不安げに状況を確認していた。


「もう追ってこない……?」


だが、奇妙なことに、追跡者の重い足音はいつの間にか消えていた。しかし、その静寂は安心をもたらすどころか、逆に不安を増幅させた。彼女の持つ赤い光以外には、どこにも光が見当たらない。


「……見失ったのか?」


少女はスピードを落とし、側のひび割れた壁に手をついて一息ついた。


数回深呼吸し、胸に手を当てながら長い息を吐き出した。


冷たいダンジョンの空気が肺に流れ込み、彼女は少しずつ息を整えていった。


背を壁に預け、彼女はそのまま座り込んだ。

足が痛んでいた。


白い服は汚れ、血と汗が混じり合い、頬の切り傷から落ちる雫は土と埃に混ざって消えていった。

彼女は額に垂れた髪を払い、ふと力が抜けたように頭を右手に預けた。左手には、先ほどの赤い球を握っていた。

その球を見つめるたびに、彼女の胸を罪悪感と後悔が刺し貫く。すべては、自分の怠慢のせいで失われたのだとしか思えなかった。


「……なんでこんな目に遭わねばならぬのじゃ……すべて人間どものせいじゃ!」


少女は苛立ちを込めて罵った。


その時、彼女が肩にかけていた袋の中から、唯一の仲間が頭を出した。


「姫様……」


話しかけたのは、まるで白い小さな狐のような姿をした生き物だった。その声は、どこか知恵と温かさを感じさせた。


「……キロコ……」


少女は袋から出てきた仲間を見上げた。キロコは空中に浮かび、彼女の頭上を漂っていた。


「姫様、お立ちくだされ。このままでは、いずれ敵に見つかってしまいますぞ。」


「わらわもそれはわかっておる……だが、いかんせん足が動かぬのじゃ。」


少女は答えた。


「それに……さっきから何も聞こえぬ……」


そう思うと、静寂が一層不気味に感じられた。

確かに、あまりにも静かじゃった。

だが、キロコはそれを無視するように話を続けた。


「それも姫様ご自身の責任でございます。わしが以前、長時間戦うための体力づくりを勧めたのに、聞き入れられなかったのじゃ。」


狐の叱責に、少女は話に戻された。


「うるさいのじゃ!あの時は、そんな訓練など不要と判断したのじゃ!」


「その“不要”と判断した結果が、この無様な状態でございますぞ。」


「……むぐっ……」


反論できず、彼女はため息混じりに言った。


「今さら悔やんでも仕方がない。今はここから生き延びることが肝要じゃ。キロコ、何か良い策はあるか?」


キロコは振り返り、そっと空気の流れを感じた方向を見た。


「おそらく、緊急脱出用のルートが近くにございます。このまま進めば、メインのトンネルにたどり着き、上に向かって脱出できるやもしれませぬ。」


「それはよいが……本当にうまくいくのか?出た途端に待ち伏せされておるかもしれぬではないか。」


キロコは彼女の言葉に一理あると思いながらも、首を横に振った。


「リスクは承知しております。しかし、今は進むしか道はございませぬ。ダンジョンの機能がすべて無効化されている今、脱出ルートは一つ。それは上に向かう道でございます。」


「うむ……」


少女は理解した。確かにここに留まるのは、"あれ"に見つかるだけの時間稼ぎにすぎなかった。ならば、進みながら新たな策を考えるのが賢明だった。


「わかったぞ、キロコ……そなたの言う通りにいたそう。」


少女は足を伸ばし、立ち上がった。軽く服についた埃を払い、革袋を肩にかけ直した。


軽やかな動きで踵を返し、彼女は風の通りを感じる方向へと歩き出した。キロコは彼女の傍らを浮かびながら、共に進んだ。


「ん?……」


少女は革袋に二度軽く手を叩いた。


「そういえば、さっきの混乱の中で確認できなかったが……酒はちゃんと持ってきたかの?」


少女は、無邪気な目で問いかけた。


狐はその無邪気さとは対照的な、少し小悪魔的な笑みを浮かべながら答えた。


「そのようなもの、必要ありませんでしたぞ……」


「なんと!?今、一杯あればどれほど助かることか……!」


「くだらぬことをおっしゃらないでください!」


「仕方なかろう……わらわはこういう性分なのじゃ。酒がなければ、わらわは動けぬのじゃ!」


少女は誇らしげに言い放ったが、その態度にはどこか不適切な自信が漂っていた。


「姫様、そのような戯言を申している場合ではございませぬ!」


キロコ はため息をつきながら、さらに鋭い口調で注意を続けた。


二人の軽口が交わされる中、緊張感が張り詰めたダンジョンの空気が一瞬だけ和らいだかのようだった。

しかし、その短い平穏はすぐに打ち砕かれた。


二人が進んだ先の分かれ道に差し掛かった時、突然、壁が爆音とともに粉々に砕け散った。


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