第6話 全裸とA級②
影に引込まれた二人は、何が何だかわからないまま影の中から別の場所に吐き出された。
「おっとっと、あぶねえ」
「痛あ!」
フルカは危なげなく着地したが、ルリは尻餅をついてしまった。
影潜りの魔族はというと、影に潜ったままで、二人の周りをぐるぐると回った。
「ヘハハハハハ!どーだどーだこの俺の魂技、『シャドウスイミング』は!影の中でお前らに干渉することはできないが、その代わりお前らはこの影の中に入ることは出来ない!つまりは俺が一方的に、しかも不意打ちでお前らに攻撃出来るってことだ!これに恐れをなしたら─────」
と、魔族の言葉が最後まで終わらないうちに。
「えい☆」
「はっ?」
フルカはもう影の中に手を突っ込んでいた。
「えっちょ・・・・・・何やってんすか。・・・・・・いやほんとに何やってんすか!?どうやってんですかそれ!」
「どうやってるって何が?」
影を掻き回し、手探りしながらそう問い返すフルカ。
「いやだって、魔族が『影の中に手を入れることはできない』って言ってたばかりじゃないですか。何で入れられてんですか」
ルリがそう言うと、
「それはもう、私が全裸だからに決まってんじゃん」
フルカはこともなげにこう答えた。
「また全裸ですか・・・・・・」
「おっ、いたいた」
フルカがざばあっと影から手を出すと、魔族がフルカに足首を掴まれて逆さ吊りになっていた。
「くそっ、何なんだお前は!離せ!はーなーせー!」
「こんな川魚獲るみたいに魔族捕まえる人初めて見ましたよ」
本当に魚みたいにビチビチはねる魔族をしばらくじっと見つめてからフルカはこんなことを言い出した。
「よし、全裸にするか」
「「は?」」
魔族とルリがハモった。
「いや何でだよ!何で全裸にするんだよ!」
「そうだぞやめろ全裸は!やめろ!やめてくれ!今穿いてるパンツだっせえヤツだから!お母さんが買ってきたヤツだから!」
「いや気にするとこそこか!?」
二人の方はどうやら大丈夫そうである。
◇
ユウキは鬼の面を被る魔族を何度も何度も剣で斬りつける。
何度も何度も斬りつけるが、しかし、魔族にはダメージ一つ入らない。攻撃は確かに当たってるはずなのに、彼女には全くダメージが入らないのだ。
(やはりあの鬼の面を被ってる間は攻撃が全く通じないようだな。っとそろそろか?)
魔族は一定の時間が経つと、クロスボウを構える。クロスボウは無数の矢を発射することができ、正面から大量の矢がユウキを襲ってくる。
「喰え!スライム!」
その度にユウキはスライムを投げて自分に当たりそうな矢だけを喰わせる。しばらく喰わせ続けると、矢は止む。
さっきからずっと、こんなことを何度も繰り返していた。
ユウキが色々な手段で攻撃し、魔族はその攻撃をしばらく受け続けると、クロスボウで攻撃してくる。その度にユウキがスライムで攻撃を防ぐ。
ユウキが攻撃、魔族はそれを受けるが通じない。クロスボウで攻撃。ユウキが防ぐ。
ユウキが攻撃、魔族はそれを受けるが通じない。クロスボウで攻撃。ユウキが防ぐ。
ユウキが攻撃、魔族はそれを受けるが通じない。クロスボウで攻撃。ユウキが防ぐ。
ユウキが攻撃・・・・・・。
これを何度も繰り返したあと、魔族は鬼面を上げて顔を見せるとユウキに言った。
「もうそろそろ、投降したらどうですか?」
「何だと?」
「とっと白旗をあげて降伏してください。この面を被っている限り私には攻撃は通じません。さらにこのクロスボウから発射される無数の矢・・・・・・攻撃においても防御においても全く隙はありません。どんな莫迦が考えても、私には勝てっこないとわかります。今は奇跡的に均衡を保っているだけです。この天秤があなたの敗北へと傾いてしまわないうちに、さっさと投降するべきなんですよ」
魔族のその言葉を聞くと、ユウキはニヤリと笑みを浮かべてからこう言った。
「俺が投降すべきだと?違うね。そいつは違う」
「何が違うというのですか。さっさと────」
「投降すべきなのは俺じゃねえ。逆だ。逆なんだよ。とっとと投降した方がいいのはてめえだぜ、魔族さんよ」
このとんでもない発言に、魔族は何を言っているんだ、という表情で答えた。
「私のどこに投降すべき要素があるというんですか?現にあなたは今の今まで私のこの鬼の面相手に攻めあぐねて、クロスボウに関しては防ぐだけしか出来ず、防戦一方だったではないですか」
「俺は攻めあぐねていたわけじゃない」
ここでユウキは正面から魔族の目を見据えた。静かだがどこか威圧感のある、海の底のような青い目に、魔族は思わず気圧された。
「俺はただ観察していただけだ。見ていたんだ、お前のすることの一部始終を。一挙手一投足まで見逃さずにな」
ユウキはそこで押し黙り、一呼吸置いた。魔族は固唾を飲む。
1、2秒置いて、ユウキは再び口を開いてこう言った。
「その観察の結果、わかった。お前のその面には時間制限があるんだろ?」
その言葉を聞いた魔族は、これまでと打って変わって激しく動揺する様子を見せた。
「な、何を言って、そんなのあるわけが────」
「誤魔化しても無駄だぜ。お前は一定の時間が経つと必ずそのクロスボウで矢を撃つ。時間が経つまでは撃たない。最初、俺はそのクロスボウがまた使用できるようになるまで待ってるのかと思ったんだ。だが違う。クロスボウはカモフラージュだ。俺が矢を防いでる間にお前はこっそりその面を一旦外して、数秒ほどのクールタイムを置いてからまたつける。それを繰り返していた。んで、隙がないと思わせて俺の心が折れただろう頃合いを見計らって、投降を勧めてきたんだよ」
こう言いながら、ユウキは一歩一歩、魔族へと近づいていく。
「・・・・・・」
「だけど、俺を舐め過ぎたな。流石にそれくらいのことに気づかないわけないぜ。たった数秒だが、隙は隙だ。その隙を狙って攻撃すれば簡単にお前を殺せる」
「・・・・・・」
ユウキはポケットに片手を突っ込みながら魔族に近づき、そして立ち止まるとこう言った。
「だから投降するのはお前の方だ。タネはもう割れたんだ、投降しろ。お前だって命をかけるほど、魔王に忠誠を誓ってはいないんだろ?・・・・・・それとも、やっぱり死ぬか?」
魔族はクロスボウを捨て、両手を上げるとこう言った。
「投降します・・・・・・」
◇
しばらく経ってから、三人は無事に合流した。
「いやー無事合流できてよかったぜ!まあでもきっと合流できるって信じてたけどな!全裸だから!」
「全裸はもういいですよ全裸は!・・・・・・しかし本当に僕らのいるところがよくわかりましたね、ユウキさん」
「ああ、実をいうとな、このスライムは仲間同士でいる位置がわかるんだよ。フルカ、お前に一匹貸したろ?それでわかったんだ」
「なるほど!」
「さてと・・・・・・すまんな、二人とも。まさか敵の中に影に潜れるような奴がいるとは思わなかった。こんなんでA級なんて、全く片腹痛いぜ。・・・・・・本当にすまない」
「いえいえ、そんな謝らないでください!ユウキさんが悪いわけじゃないですから!」
「おう!それに、どんな敵が来たって平気だぜ!何せ全裸だからな!」
「うーんでも、それじゃ俺の気がすまないしな・・・・・・そうだ、なら夕飯を奢らせてくれ!とびきり豪華なのをご馳走してやるよ!」
「マジで!?よっしゃあ!」
「ちょっとフルカさん!いいんですか?すいません・・・・・・」
三人は魔族を連合軍の支部に引き渡したあと、豪華で美味しい夕飯を食べたのだった。
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