第29話 逃亡中の王女
道中、クロの擬人化付与された小石兵や巨岩兵が周囲に展開し、付近の魔獣を一掃したため、私たちが魔獣と直接、対面したのは一度きり。とんでもなく狂暴で討伐ランクS級の大型個体「デッドコング」というゴリラが巨大化したようなモンスターに襲われたが、アネとワサビによってあっさり討伐された。彼女たちもまた以前よりもかなりレベルアップしていて、そうそう後れを取るような相手は出てこないと思われる。
都市047を発って10日目。
行程としてはまだ数日残っているが、遠く前方に砂埃が見えた。
徐々に近づいてくると5頭の馬で人を乗せている。
ライオンのような見た目の魔獣数頭に追われているため、クロの指示で小石兵たちに馬を通し、魔獣を迎え撃たせた。
「これは王女殿下」
5頭の馬のうち、二人乗りで騎乗している後ろの人物の顔を見てヴェールがかしづき、頭を下げた。
「我が王都レイクシティへの救援、感謝します。ですが……」
馬に乗ったまま、王女は申し訳なさそうに現在の状況を説明した。
マルサイユ王国都市001……王都レイクシティが陥落した!?
圧倒的な兵力と資源。人材にも恵まれている王国最強の都市がたった3日で落とされるなんて尋常ではない。
「ひとつはロンガイア帝国は一人の男に占領されたからです」
男の名は、バフワン・キルラッケル……。
マルサイユ王国3賢者の一人で、仮面の賢者と呼ばれている。1年前にロンガイア帝国に駐留大使として、5年間の任務に行ったそうだが、ロンガイア帝国の帝国民をある方法で隷属化して、マルサイユ王国に攻めてきたという。
「次に他の3賢者の内、迷宮の賢者マレイア・ホワイトが裏切って手引きしました」
3賢者最後のひとり、結界の賢者リリス・エターナーは、マレイアの罠にはまり、特殊な迷宮に閉じ込められ、マレイアが王都レイクシティ内部を迷宮化し、混乱している隙に城壁を破られたそうだ。
国王と王妃は都市に残り、王都とともに運命をともにしたそうだ。姫だけはなんとか少数の近衛兵に守られて、王都を脱出できたものの、すぐに追手がかかって、ここへ来るまでに足止めのものが何人も犠牲になったという。姫は近衛兵を犠牲にするくらいなら投降するとなんども配下の者たちに話したが、捕まればすぐに殺されてしまうとして、王と王妃の命令を順守し、ここまで半ば強引に連れられてきたらしい。
「クロ殿、早くここを離れないと追手がきます」
姫をここまで連れてきた5人の近衛兵は皆、一様に疲労の影が濃い。馬もくたびれていて、かなり無理してここまで来たとみえる。
「手遅れみたいニャよ」
ワサビは視力が悪い。だが、その分、聴力が異常に発達していて、まだここから見えてもいない追手の足音を聞き取った。
「森の方、層を厚くするんよ」
ワサビが指さした方は、比較的近い距離に森がある。クロが小石兵に指示を出して数秒後に茂みから追手とみられる一団が姿を現した。
小世界で遭遇した魔族によく似た角の生えた種族と蜥蜴人と呼んだ方がよさそうな全身が鱗で覆われている種族。ステータスを見るとレッサーデーモンとリザードマンと書かれていた。
レッサーデーモンが炎魔法、リザードマンが水魔法を使っている。比較的威力の低い魔法だが、戦闘力の高い者が使う魔法はとても脅威である。小石兵たちは次々に各個撃破されていったが、徐々に集まり出して、追手を包囲し、次第に立っている者が減っていった。
「かなりヤバい相手やね。50体以上は壊されたかも」
遠目ではたぶん10人? 10匹くらいしか確認できなかったのに5倍以上の犠牲を払う羽目になった。クロの小石兵たちは使用者であるクロのステータスが伸びれば伸びるほど強くなる仕組みで、この世界に来たばかりと比べて格段に強くなっている。都市047の騎士団の団員と1対1で戦っても引けを取らないほど強くなった。
「今のは隷属化されたロンガイア帝国の者たちかもしれません」
隷属化というのは、以前北街を牛耳っていたギル・ド・アレが使っていた首飾り【
近衛兵のひとりがその隷属化しているところを見たという情報があった。紫色の液体の塗られた武器で斬りつけられて怪我をしたら、その場で隷属化……魔物になってしまうという。
「これね。ホントだ。なんか塗ってある」
紫色の液体が塗られていて、時間とともに煙となって蒸発していくのが見える。完全に蒸発する前にクロに言われて生成スキルで小瓶を作り、液体を垂らして密閉したら、蒸発が止まり、液体のまま保管することができた。
「こんなん、ゾンビ映画やん。爆発的に増えるタイプや」
「『ぞんびえいが』とはなんでしょうか?」
「ああ、異界人の世界の話。シロ、説明してやって」
「はい、王女様、ゾンビ映画というのは……」
私が、王女にそもそも映画という概念を丁寧に説明している間にクロが小石兵たちに指示をし、森の中を捜索して、刷毛とバケツを見つけた。バケツの中には紫色の液体がたまっており、魔法と思しきもので蓋をしている。
「いったん退却やな、この紫色の液体をどうにかしないと勝ち目ないんよ」
たしかに……。
王都マルセイユの都民とロンガイア帝国民がほとんどこの隷属化されているならその数は1万では効かないはず。クロの擬人化付与でもまったく話にならないレベル。
来た道を急いで引き返し、行きは10日かかった道程を8日で踏破した。
「バフワンとマレイアがリリスを? なんということじゃ」
都市047に戻ったシロ達はさっそくトルクを筆頭に魔法技術に精通した者たちを集めて経緯を説明した。
「3賢者の内、ふたりが相手だなんて厳しいですね」
「もう一人を迷宮に閉じ込めるなんて、以前から計画していたとしか思えません」
魔導技術機関、機関長フラメルと副機関長トルナーデ。
フラメルの弟子のユイエも後ろで彼らの話を聞いている。
「賢者ふたりは儂とシロが何とかするが、その従属化を促す液体が厄介じゃの」
「私も賢者と戦うんですか?」
「当たり前じゃ、お主はもう3賢者や儂と同格かそれ以上じゃからな」
「この液体の解析と解毒薬を作ってほしいんよ?」
トルクがため息をつきながら、私をちゃっかり戦力に数えているので、抗議したがダメだった。私の抗議を無視してクロが、フラメルとトルナーデに相談した。
「はい、やってみます。ですが、賢者が作ったものを簡単に解析できるかが……」
「たぶん、時間との勝負になるんよ。すぐに始めて」
「わかりました」
魔導技術機関の3人が部屋から退出すると、今度は騎士団や使節団に所属する面々が部屋に入ってきた。
「ワイらが対抗できる術は魔砲や魔銃といったものが主力になるけど準備はどう?」
「それなのですが……」
眉目秀麗な女騎士クロウド。都市047の最強剣士にして騎士団長を務める彼女の声音が暗く部屋に響いた。
「ダンジョンがないん?」
「はい、10日以上も前からダンジョンの入り口が塞がれました」
地下迷宮に潜っていた者たちも消息不明で、クロウドの父で騎士副団長モラオは土木建築集団ダイゴロウ組の組長であるため、父親に頼んで現在も地下を掘っているが、数十メートル掘り下げてもダンジョンが出てこないらしい。
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