第28話 大戦の兆し


「ただちに1,000人の兵を派遣願いたい」

「いやー、そんなことを急に言われても困りますなー」

「これは王命だ。逆らえばこの都市を反逆の意思ありと見なす」

「ちょちょ、どしたん?」


シロが新しく生成系の魔法を習得して約1か月後、都市047にあわただしくやってきた他都市の使者が門を抜けた広場で騒いでいる。


騎士団副団長モラオがのらりくらりと相手をしていたが、相手の声がどんどん高圧的になっていく。クロは人の輪の中をゆっくりと前に掻き分け進みながら大きな声でモラオを止めた。


「クソ餓……じゃなくて、クロさま! へへっ、いえね、この者が王都の使者だって嘘をつくものですから」


騎士団副団長モラオ。騎士団長クロウドの父であり、以前クロにボコボコにされた後、おとなしくなったので、副団長の地位をクロが許してあげたが、大した働きは聞こえてこない。


「そちらの御仁がこの都市のマスター、クロ殿か?」

「そうだけど、そっちは?」

「私はヴェール・フレーレル、金翼騎士団に所属する騎士だ」


重厚な鎧がわずかに擦れる音を響かせながら、ヴェールは毅然とした声で名乗った。その金色に輝くマントが微かな風に揺れ、朝陽の光を受けて眩しいほどに輝いている。彼女の鋭い眼差しには迷いがなく、その姿からは威厳が漂っている。


金翼騎士団――それは、マルサイユ王国が誇る王都001の最強の剣と称される精鋭部隊。彼らの名を聞くだけで、敵はおののき、味方は奮い立つと言われている智勇兼備の存在。


「まず王都で何があったん?」


クロが問いかけると同時に、近くの街路樹の葉がざわめく音が耳に届く。周囲の人が見守る中、ヴェールは深く息を吸い込み、遠くの空を見つめた。沈黙の後、彼女の低く落ち着いた声が響く。


「実は……」


マルサイユ王国――大陸西方に位置するこの超大国は、これまで幾度となく侵略を受けながらも、すべてを撃退してきた歴史を持つ。その強さを保つため、国内では常に「争奪戦」と呼ばれる争いが敢行され、国民は常に鍛えられ続けてきた。しかし、2週間前の事件は、その歴史を揺るがすものだった。


「国境に接する三つの都市が、隣国ロンガイア帝国の手に落ちたんだ」


ヴェールの声には微かに疲労が滲む。その言葉を聞くと、遠くで飛んでいる黒鳥の鳴き声が一層不吉に感じられた。


「まさか……3つも同時に?」


周囲の人から驚きの声が漏れる。近くにある市場から漂ってきたスパイスの香りも、緊張に包まれた空気の中でかすんでいく。


「そうだ。そして、その後の激戦にも関わらず、王都だけの力では状況を覆すのは難しいと判断された」


ヴェールは拳を握り締めた。その硬い革手袋が擦れる音が、彼女の無念を語っているかのようだった。


「だから、各都市には争奪活動の全面停止命令が下され、王都への協力要請が出された」


空には灰色の雲が漂い始め、戦乱の影を思わせるような陰りを落としていた。


重い空気。

周囲に人々も言葉を失い、皆一様に黙り込む。


しかし……。


「報酬もちゃんと出るん?」

「ちょっとクロ!」


なんというかこの重たい空気をあえて読まないというか気にしないふてぶてしさ。そもそもそこまで危機だと感じていないのかもしれない。


「問題ない、貴都市の半年分の維持費を約束しよう」


騎士ヴェールは報酬までちゃんと約束してくれた。王都からすればそれほど人材が足りないということみたい。


「急で申し訳ないが、明日朝までに出立願いたい」

「ああ、それなら今からでも大丈夫なんよ」

「なっ、馬鹿な! 1,000人もの兵の準備が整っていたというのか?」


驚くのも無理はない。でも、クロの言う1,000人は彼の特殊なスキルで小石たちのことを指している。クロのスキルを知らないのであれば当然の反応だといえる。


「ちなみにシロも行くんよ」

「えっ私も?」

「当たり前やん、ワイの眷属と4人だけで大丈夫」

「私は1,000人の兵だと申したはずだが……?」


騎士ヴェールの声が暗くなる。

クロのことを疑っているようなので、さっそくネタばらしをした。


「ほら? これを1,000体出せるんよ」

「なっ、これは? 幻惑魔法ではない……」


クロが小石を擬人化付与して1体、目の前で出してみると驚きながら触って実体であることを確めている。


「ほっほっほっ、それは幻惑魔法や霧魔法ではない」


騒ぎを聞きつけて、大魔法使いトルク・ランドールもこの場に駆け付けた。トルクがクロの力の正体を説明した。


「それは異界人にしか使えないレアスキル。本にも載っておらんわい」


こんなバカげたスキルを多くの者が使えたらとっくに世界が滅んでおるわ、とトルクはあきれた声でため息をついた。


「ご老人はもしや?」

「いかにも儂はトルク・ランドール。レイクシティの3賢者とは宿縁の仲じゃ」


杖を地面に突いてトルクは馴染みの面々を思い出すように立派に蓄えた白い顎髭をさする。ちなみにトルクも含めて4人の魔法使いは前世の記憶を持つ輪廻転生者リインカーネイターで、何回もこの世界に転生しているとのこと。


まあ、驚いたけど私とクロもある意味輪廻転生者と言えるかもしれない。転生した世界は違うけど……。


ちなみにトルクはその隣国ロンガイア帝国の生まれで、出国する前の記憶では帝国とは言っても小国の集まりで超大国であるマルサイユ王国に喧嘩を売るような国力は到底なかったと話す。


「さて、私も詳しい話は知らないのだが……」


情報がちゃんと伝わってないらしく、前線では頭に角を生やした種族や体が鱗に覆われた種族がいたと噂が流れているらしい。


「乗っ取られたんちゃう? 次はこの国が標的なんかも」


うーん、それはあり得るかも。

他の大陸のことはわからないが、少なくともこの大陸では先ほど話の出た種族がいるなんて、聞いたこともない。


それから、私とクロ、眷属パリバラのワサビとアネの4人は騎士ヴェールの案内で王都レイクシティへ向かうことになった。

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