第19話 電撃作戦


都市047の防衛壁の上には防衛塔と呼ばれる守備の要となる施設がある。塔の最上階から遠くに映る赤い空を見ながら対策会議を開くことになった。


「今回のシロ救出は砂小人が役に立ったんよ」


砂小人は砂粒くらいの石片から作り出す擬人化したもので、拳程度の大きさしかないため、警備の厳重な敵陣営に潜入するにはうってつけだった。


「これからどう守るかが、問題ですな」

「いんや、あの機巧人形をどう破壊するかが問題」


副ギルド長サンプラーの取り巻きである豚顔の男が、自信満々に物知り顔で話し始めた。いかにも虚勢を張った様子だったが、クロがすぐにそれを否定した。その瞬間、豚顔の男の顔がかすかに歪んだのが見えたが、彼は即座に何事もなかったかのような表情を取り繕った。


クロは周囲の視線を一身に集める中、都市047の幹部たちに向けて核心を突く問いを投げかけた。


都市329の兵たちは、士気が高いわけではない。彼らの多くは、シロのように洗脳された者たちだろう。感情を失い、ただ命令に従う機械のような存在……そんな彼らを無闇に叩くのは、正直、気が進まない。そうクロは考えているんだと思う。


「個別で撃破するしか手が無いように思えますが?」

「そうなんよ、でも、戦力が足りない」


機巧人形の戦闘力はすさまじく、クロが試しに岩から擬人化した岩巨人を差し向けたところ、単体で撃破したそうだ。そのことから、この都市で正面からまともにやり合えるのはクロの眷属ふたりと騎士団長クロウドくらいしかいない。


「クロさま、ご報告が!」

「どしたん?」


防衛壁を守る兵のひとりが、下から上がってきた。


「都市329から亡命してきた男が報告したいことがあるそうです」

「そうなん? じゃあ上がってもらって」


しばらく他の案件について、話し合っていると亡命してきた父娘が塔の最上階へ登ってきた。


「ふーん、雷が弱点なんや」

「はい、間違いありません」


数年前の雨の日。都市329で防衛門の昇降装置が故障し、都市の中に魔獣がなだれ込むという事件が起きた。その騒動の最中、雷が一閃し、偶然にも魔獣討伐に当たっていた機巧人形の1体に直撃。雷を受けた人形はその場で動かなくなったという。


亡命者である男は、当時それを目の当たりにしたそうだ。機巧人形の噂といえば、炎や冷気に強く、雨の中で魔獣討伐をしていたことから、耐水性も高いだろうと男は話す。そう考えるとやはり雷を中心に対策を練った方がいい。


「シロの魔法ならどうなん?」

「うーん、私の魔法ではたぶん無理じゃないかな……」

「シロがダメなら、他の連中じゃ無理やな」


クロが私に話を振ったが、いい返事ができない。私の雷魔法は先のダンジョン内での戦いでも雷魔法は詠唱こそ短時間で済むが威力が低くて、雷魔法だけでは魔物を倒すことはできなかった。私の他にも元都市031の北エリアには何人か魔法使いがいるが、魔法の詠唱時間が長く、威力もそこまでない。そのため彼らを実戦に投入するのはとてもリスクが高くうまくいくとも思えない。


「フラメル様、アレが役に立つのではないですか?」

「トルナーデさん。でも、完成したばかりで試験もしてないですし……」

「何の話してるん?」

「実は……」


魔導技術機関の機関長フラメル・ド・アレと副機関長のトルナーデ・レイフがふたりでヒソヒソ話をしているのをクロが気が付いた。


フラメルによると、昨日、量光機関工房で新たに開発された魔導機【雨雲発生装置】について話していたらしい。その装置とは、一時的に任意のエリアに雨雲を発生させることができるという画期的な代物。その性能をさらに引き出せば、雨雲を濃縮して雷雲へと変化させることも可能だと彼は説明した。


だが、その技術にはまだ課題が多い。生成できる雷雲の規模は限られており、装置自体も試作品に過ぎない。さらに、大きすぎて持ち運びは困難だという。たしかに魅力的な魔導機だが、実用化には程遠く、現状では戦況を左右する切り札とはなりえないと感じる。


「前線にどう運ぶのかと、どうやって機巧人形だけを狙うかやな?」


クロの疑問はもっともだ。たしかにランダムに雷が落ちてしまうなら、落雷の範囲内にいる味方も犠牲になってしまう。


それに魔動機の重さは鋼鉄の塊で馬や牛くらいの大きさだというので、元いた世界の単位で数トンもしくは数十トンくらいにはなるはずなので、荷馬車で運ぶのも現実的ではない。


「魔導機の運搬はシロさまの魔法とクロさまの岩巨人で運べるのでは?」


使節団団長のミモリが発言した。


そっか、私の魔法の中に【軽量化】という魔法がある。ひとや物にかけると5分の1まで質量を下げられるので、岩巨人が持ち運べるくらいには軽くなるかもしれない。


「雷を連中に落とすのは儂の発明品で何とかなりそうじゃわい」


ギルド長ボーリングさん。東街の自分の工房に戻れば、雷起球という親指の爪くらいの小さな球を金属に当てたら放電するアイテムがあるらしい。元々はダンジョンの坑道を広げる時に使う火薬に引火させるために使うものだそうだが、金属にぶつけて放電するのであれば、機巧人形オートマタのメタルボディにこの雷起球を当てることができたら、確実に落雷するだろうということだった。


「でも、雨が降ってるなら、地面からビリビリが伝わるんちゃう?」


それはそうだ。

地面が濡れているから離れたところから雷起球を当てても地面を伝って電流が流れるんじゃ……。


「絶縁体で身を包めば何とかなるんじゃないですか?」

「絶縁体とはなんじゃ、シロ?」

「えーと電気を通さない物です」


私が意見したが、ボーリングさんに不思議そうに尋ねられた。この世界では絶縁体という概念がないらしく、雷を通さない物について説明した。


幸い、ゴムはダンジョンの上層にいるカエル系のモンスターからドロップ品として手に入るため、それを雨靴とレインコートのように加工すれば完全ではないにしろ、多少は雷対策になるだろう。


この方法で、機巧人形さえ無力化できれば、彼ら都市329の兵士だけではクロたちの小石兵や巨岩兵をはねのける力はないだろう。ましてや今はマルトゥークの季節でもない。機巧人形がいてはじめて自由に壁の外を歩けるのであって、人形たちが動けなくなったら、四方から襲ってくる魔獣たちの相手もしなければならない。


さらに私を助けるために敵陣営のあちこちに分けて備蓄してあった食糧庫に火をつけたそうだ。魔獣のせいで兵站を整えることもできないのに長期間の継戦は維持できないはず。彼らが次に取る行動はこれまで魔獣を味方陣営に寄せ付けないように運用していた機巧人形7体と大魔法使いトルク・ランドールを玉砕覚悟で突撃させるつもりではとクロが予想している。もし、トルクが倒れた場合、機巧人形もその制御を失うため、使い捨ての駒として、使うだけ使ってダメな場合は見捨てて撤退を始めるつもりではないかと予想している。


私はあの大魔法使いを助けたいと思っている。すこしだけ我に返った知識の塊である老人は死なせるのはあまりにももったいないし、人間としても立派だ。クロだってトルクのことは嫌いじゃないはず。首無しの人形を見せるように言われたけどそれでどうなるかまでは、追われていたので聞く時間がなかった。彼が都市329に固執する理由も謎だ。あんなに政情の不安定な都市に留まり続ける理由はなんなのか? それがわからないとトルクを助け出すことはできないのかもしれない。


頭の中でいろいろと考えを巡らせている間に話し合いは終わったらしく、クロが席を立ち、塔の窓から見える敵陣に人差し指を向けて、銃を撃った後の反動を真似してみせた。


「じゃあ準備するで! 名付けて『電撃作戦』決行や!」


クロが、居並ぶメンバーにそう告げると全員、席を立ち、さっそく作戦遂行のために散っていった。


それにしても、電撃作戦、ね……ネーミングにもう一ひねり欲しかった気がするのは私だけか……。




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