ワイ、TS白髪美少女と都市マスターになる

あ・まん@田中子樹

第1話 二重人格 → 分裂!?


月曜の朝がやって来た。

これからまた地獄の5日間が始まると思うとMP1からのスタートやねんけど?


週休2日制ってどうなん?

ワイは短いと思うに一票入れとくわ。

もし、週休3日制になるなら水曜日がよくない?

だって、月曜日は昨日、おととい休みだったから頑張る。火曜日は明日休みだから頑張るって、無限ループできるんよ。

このマインドを最初に発見した人、天才やと思う。 


今年4月に入社した新入社員のワイは、この半年間で多様なハラスメントを受けて、心が壊れたった。


ってか、多様なハラスメントって、なんなん?

多様性って、言葉の意味を間違えてるやん。


そもそも家が何より落ち着くワイにとっては通勤が地獄なんよ。

なんで同じ時間帯に出社して帰宅するん? もっと分散しようや。

あと、コロナ禍の時って、学生もオンライン授業とかあって、最高やった。


ワイが新社会人になると同時にオンラインブームが過ぎ去るって、マジでありえんわ。


ああ、なによりアイツの顔を見ると思うと、吐き気がしてくる……おぇ。

ほら、想像しただけで体が即レスしてきた。いい加減ヤバいて。


吐き気はストレスからくる逆流性胃腸炎って医者に言われた。








「あいさつは?」

「おはようございます」

「士郎、声がちいさいっ!?」

「おはようございますっ!」


今日も、上司の戸塚課長に大声で叱られた。

は士郎宗近。武士みたいな名前だけど、先祖は百姓だったと聞いている。家の玄関から出た瞬間、主人格「ワイ」から「私」という人格に切り替わる。


もともとの主人格は怠け者で、家にいることが何より至福だと思っている人間。そのため、この気合田きあいだホームズに入社して3日くらいで、私という人格が生まれ、日中は入れ替わるようになった。


気合田ホームズは、大手不動産会社の子会社で、土地の買い取りを専門にしている。働いている支店は営業ノルマが他支店よりも厳しいと入社した後に聞かされた。


毎月のノルマを達成するまで、連日徹夜覚悟で遠くの県外まで新しい契約を取りに回ることもある。


「社訓唱和の時間だ」


朝9時、戸塚課長に毎日の日課を言い渡される。


「我、気合田ホームズの一員なりぃぃッ!」

「我、気合田ホームズの一員なりぃぃッ!」


「我、全身全霊を以て、社に尽くす者なりぃぃッ!」

「我、全身全霊を以て、社に尽くす者なりぃぃッ!」


「バカヤロぉぉお! 声が小せーぞ!?」

「はいっ! 我ぇぇ、全身全霊を以てぇぇ……」


従順な社員にするべく徹底した洗脳教育が毎日行われる。

会社の都合のかたまりのような社訓を声高に唱和させて、社員の個性を徹底的にそぎ落としていく。


「柏、士郎、今夜は飲みに行くから店を予約しとけ」

「課長、申し訳ありません、今日は母親の誕生日会がありまして……」

「柏ぁぁ、お前、会社の団結を壊す気か?」

「いえ、そんなことは」

「ババァの誕生日だぁ? ほっとけば勝手に歳を取るだろ」

「そんな……あんまりですよ、パワハラじゃないですか」

「貴様ぁぁ! 会社の名誉を傷つける気かぁぁぁ!」


バチンバチン、とフルスイングの往復ビンタ。自分も以前あれをやられて、2週間くらい顔に青あざができて、お客さんに見られないように絆創膏で隠す羽目になった。


その日の夕方、1つ年上の柏さんは結局、母親の誕生会に参加できなかった。給湯室で隠れて、急な仕事が入ったと家族に嘘をついているのを見かけてしまった。


「おーまえら、本当に使えねーな」


ビール瓶のラベルが上を向くように、戸塚課長のグラスの口をつけたところに瓶を当てないように気をつける。ビールは必ず3杯目までしか飲まない。そのため、4杯目の焼酎を課長がビールを飲んでいる間に水割りを作っておく必要がある。


しかし、今日は平日にもかかわらず、客がかなり多い。そのせいでお店の焼酎セットの提供が遅れてしまった。


「バカヤロー、カウンターに取ってくるのが常識だろうが!」


俺が若い頃は……と課長が話し始める。昔はこんなに気が利かないヤツは、すぐに田舎の支所に飛ばされたものだと説教をしだした。



「よぉぉし、ネーちゃんのいる店に行くぞ!」


居酒屋を後にして、スナックへと移動する。そこで酔っ払った課長は毎回、セクハラまがいの行動をする。そのたびに、あまり酔っていない部下たちが店の人に苦情を言われることになる。


「ねえ、柏さんって結構、胸があるよね~~っ」

「うそぉぉ? ホントだ、すごーい!」


スナックの女の子たちが柏さんの胸筋を触りながら盛り上がっている。柏さんとは同期入社だが、昨年配送業を辞めて気合田ホームズに入ったらしい。


「キャァァ、なんで? 痛そう……」

「こいつ、本当に使えないバカなんだよ」


柏さんは何もしていないのに、突然課長に頬をビンタされた。課長は嫉妬しているのか、その後30分ほど柏さんに絡み、柏さんは下手な返事をするたびにビンタされていた。時々、こちらも頬を叩かれるが、柏さんほどではないので、なんとか耐えられた。


「課長、しっかりしてください」

「うっへーボゲぇぇ、ぶんなぶるぞぉぉ?」


ひとりで立てないくらい酔っ払った課長を自宅まで送る必要がある。もちろん、交通費は自腹だ。


「……なんだ」

「はい?」


駅のホームで酔っ払った課長に肩を貸して電車を待っていると、背後から柏さんの声が聞こえた。


「もう、限界なんだよぉぉぉぉぉぉっ!」


あっ、これ、ダメなやつだ……。


柏さんが、ゆがんだ顔のまま、課長と私をホームから線路に突き落とした。駅構内では快速電車が通過するため、白い線の内側から出ないようにというアナウンスが流れたばっかりだった。まわりで悲鳴が上がるのが聞こえた瞬間、まぶしい光が真横から迫ってきた。










「やった、召喚が成功したぞ!」

「おお、これでこの街は助かる」


あれ、生きてる?

課長のとばっちりで一緒に駅のホームから突き落とされて、快速電車に轢かれたはずじゃ……。


あ、大丈夫だった。ちゃんと生きてる。

士郎宗近が私の隣で一緒に目を覚ました。


へ……? いや、士郎宗近は私なのだが?


よくみると、目の前の士郎宗近は23歳のはずが、すこし若返っている感じ。見た目的には10代半ばくらい?


「ワイ、気を失ってたん?」


その話し方は……主人格の方の士郎宗近?

っということは、私はいったい誰?


「私も士郎宗近……だと思う」

「いやいや、自分の顔を見てみ?」


まわりに鏡らしきものは見当たらないが、噴水があるので、自分の顔を覗く。


──いや、これ誰!?


噴水の水面には白い髪をした可愛い女の子が写っていた。これが私?


「ってことは、毎日会社に出勤してた『私』の方ってことでよい?」

「そう……みたい、って私も士郎であなたも士郎?」

「いいやん、それで。それよりここどこなん?」


そう整理しないとこの状態が説明がつかない。

主人格の士郎が私よりも気になるのは周囲の状況。


ホント、ここ、どこ?


周りにある建物や私たちを取り囲んでいる人たちの身なりがとても不思議に見える。少なくとも自分の知っている日本の街並みや格好には見えない。


「あのー、どちらがマスターですか?」


30代くらいの貫禄がある体型の男性が、こちらの様子をうかがいながら、私と主人格の士郎に質問した。


「たぶんワイ。それより、ここはどこなん?」

「ここはマルサイユ王国、【都市508】です」


城壁に囲まれた都市508はマルセイユ王国の508都市のうちのひとつだと教えてくれた。


「つまり異世界ね、なんでワイたちはここにおるん?」

「私たちが召喚の儀で異界人……あなた方を呼び寄せました。しかし……」


召喚の儀で呼び出せるのは、言い伝えではひとりだけ。

なので、2人召喚されたのは何かの手違いがあったと男性が話す。


「それでワイ達をなんで召喚したん?」

「それは……」


マルセイユ王国は、1位から508位まで都市に順位がつけられていて、最下位を脱するために禁断の術を使ったそうだ。


「まあ詳しい話は何か食べながら聞きたいねんけど?」

「わかりました……おい、愚図ども、はやく何か買ってこい!」


男は主人格の士郎と話している時とは別人のような声で、彼の使用人と見られる男女に命令した。しかし、なにを買ってきたらよいかわからず戸惑っている使用人たちに腹を立てて、手に持っている鞭で使用人たちを叩きはじめた。


この世界にもパワハラみたいなのがあるんだ。なんかヤだな……。


「あーオッサン、オッサン」

「はい?」


主人格の士郎が男に声をかけると、こちらに振り返った男の顔面に拳をめりこませて吹き飛ばした。


「ぶへぇ、なっ、なにを?」


鼻血を抑えながら男が私たちを見る。主人格の士郎はニタリと悪役顔のまま男に告げた。


「パワハラ禁止な?」











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