第二十八話

そして迎えたイベント当日。

蒼月はベッドから起き上がり、カーテンを開ける。



「グッモーニンッ!」

イベントに備え、前日は早めに床についたおかげで体調はバッチリだ。

軽い足取りで冷蔵庫に向かい、エナジードリンクを取り出す。

ベッドに座ってエナジードリンクを一気に飲み干して、空き缶をベッドの傍にある台に置く。


壁にかけてあるデジタル時計の方へ視線を移すと、時刻は10:45あと15分で開始時刻だ。


「よっしゃ!いい時間だし行くか!」

蒼月はVRゴーグルを装着し、『Abyss Gate Online 』にログインする。


「蒼月様!おはようございます!」


「「おはよー」」


「おは」

ログインすると皆挨拶をしてくれる。


グッモーニンッ!と返事してUIを操作し、イベントエリアに移動するとポップアップが現れる。


「バトルロイヤル参加者ですか?」

「観戦者ですか?」


蒼月は迷わずバトルロイヤル参加者の方をタッチして辺りを見渡す。


「うわぁ、こりゃかなりの人だな。一体何ブロックになるんだか」

イベントエリアにはどこぞのテーマパークの大人気アトラクションの列待ちくらい、どこを見ても人、人、人である。


「こりゃ、お嬢とあまねに会うのは無理そうだな。まぁ今回はバトルロイヤル形式だから同じブロックでないことを祈ろう」

だがイベントエリアでやることも無いので、キョロキョロと知り合いが居ないか探しているとだだっ広い広場にアナウンスが流れ始める。


「皆さん!

『Abyss Gate Online 』をプレイしていただきありがとうござます!

本日進行を務めさせていただきます。ゲームマスターの斉藤です」


ボムッと音がして可愛らしいうさぎのアバターが空に現れる。


「斉藤って名前なのにえらく可愛いアバターだな。しかも声渋すぎだろ」

ブリブリの可愛いアバターに反してかなり渋めの声だ


「今回のイベントにおけるルールを改めて説明させていただきます。

自身が持つ超能力と銃を駆使して戦い、最後まで残ったものが優勝。

俗にいうバトルロイヤル形式で本イベントは行われます。

バトルロイヤル会場に入ると外とのチャットなどは不可能になりますのでご注意ください」


コミカルに動きながらうさぎのアバターは話を続ける。


「1回戦は各ブロックにランダムに割り振られ、2回戦は各ブロックで生き残った上位30名で戦っていただきます。

すでにこのイベントエリアに入った時点で皆様のアイテム欄は装備品以外全て回収させていただいております。

回収したアイテムはイベント終了後もしくはイベントエリアから退出した際に返却されるのでご安心ください」


いつの間にかうさぎの後ろにはホワイトボードが用意されていて、うさぎも教師風のアバターに変わる。


「なお、現在装備している銃の弾薬と回復丸薬はバトルロイヤル開始時にアイテム欄に入れておきます。

弾薬がなくなってしまうと銃が打てなくなってしまいますが、ご安心ください!

弾薬と回復丸薬はエリア内にも点在しております。

そちらを見つけ出して使っていただければと存じます」


手に持っていた指示棒でホワイトボードをバンと叩く。

おそらく重要なことなのだろう。


「バトルロイヤルですので当たり前ですが、プレイヤーに倒されてしまうことがあると思います。

そうすればゲームオーバーです。

もちろん、なんらかの方法で体力が無くなった場合も同じです。

ゲームオーバーになった場合、その場で所持している武器と防具、装飾品以外のアイテムを全てドロップしてしまいます。

ドロップしたアイテムは拾った人が使用できますので、必要であれば拾って使ってもらえれば良いかと存じます」


ホワイトボードに表示されたデスボックスをバンバンと叩き熱弁している。

段々と声と動きのギャップがクセになってきた。


「また、ゲームオーバーになれば本エリアへ帰還されますので、そのままイベントの行く末を見守るも良し、エリアから出てしまっても構いません」


斉藤がホワイトボードをぐるりとひっくり返す。


「最後に本イベントは時間加速機能を使用し行います。

本エリアも同じく時間加速機能を使っていますので、バトルロイヤル会場と同様に時間が流れております。

ゲーム内ではイベントエリア内でのみバトルロイヤル会場の観戦が出来ますので、ご注意ください。

ゲーム外では各動画サイトで配信をしていますので、Abyss Gate Online公式アカウントをご覧ください

それでは、そろそろイベント開始します

皆様ご準備はよろしいでしょうか!」

斉藤はここまで噛まずに完璧にアナウンスを終える。

相当練習してきたんだろうか、少しホッとしている気がする。


「おぉぉぉぉ!」

斉藤の掛け声にプレイヤー達が声を挙げて応える。


「準備万端のようですね!それではイベントスタートです!」

斉藤がポチッとスイッチを押すとイベントエリアにいた参加者が一斉に転移する。


「うわっ。真っ暗だ」

蒼月が辺りを見渡しても誰もいない。

目線を前に向けるとカウントダウンが始まっている。


「なるほどね。あれが0になったら開始か。」


3・2・1 スタート!

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