ライバルは前世
リラックス夢土
第1話 前世の記憶
私の名前は
魔界の妖魔族の男爵家に生まれた16歳になる女性だ。
私には前世の記憶がある。前世で私は人間だった。
人間だった時の名前はアリシア。
そしてアリシアだった頃私は一人の男性を愛した。
その男性は今目の前の机に飾ってある肖像画の中の男性。
魔公爵の
烈牙様は魔界を治める魔王の同母弟で魔公爵と呼ばれ魔王軍の元帥もやっている素晴らしい力と美貌を誇るお方。
人間だった私は魔界に迷い込み烈牙様と出逢って恋に落ちた。
烈牙様は私が人間だったにも関わらず私を正妻に迎えた。
あの時は魔王様ですら驚いていらしたわ。
私と烈牙様の間には九人の息子をもうけた。
でも人間であった私には魔界の空気が合わなかったのか一番末の息子が5歳になった時に病に倒れあっけなく死の国へと旅立った。
私を最後まで看病してくれた烈牙様の優しさが忘れられない。
もし生まれ変わったらまた烈牙様の妻になりたいと思った。
それに遺した息子たちの成長も気になっていた。
彼らが無事に大人になったのか。
息子たちには愛情を注いで育てたつもりだが全員が成人する前に私が死んでしまったのは事実。
子供たちには申し訳ない気持ちが生まれ変わっても残っている。
自分が妖魔族という魔族に生まれ変わって分かったことがある。
魔族は自分の子供に対する情が薄いということ。
魔族でも貴族に生まれれば子供に教育をすることもあるが基本的には放任主義の家庭が多い。
これは魔族というモノがその内に秘めた魔力で上下関係を決めることが基本にある。
もちろん貴族と呼ばれる魔族は魔力も高い者が多い。
だから貴族なのだと言われればそれまでだが。
私の転生先は妖魔族の男爵家。しかもそこの六女。
家を継ぐ者でもない私は両親から成人したら働くように言われていた。
うちの男爵家は貴族と言っても名ばかりで魔王城への入城許可も持たない。
そんな男爵家の六女にいい縁談なんて来ないから一人で生きていきなさいというのが我が家の教え。
でもそのおかげで私は気兼ねなくこの家を出て行くことができる。
魔族の成人は16歳。
そして魔族は100歳までは年齢は数えるがそれ以上は年齢を数えない。それだけ長生きをするということだ。
そういえば烈牙様が何歳か私は知らない。前世で出会ったときにはすでに年齢不詳だったから。
それに魔力が強ければ強いほど寿命は長いらしい。
それもそうね。私が生まれ変わるまでの時間が過ぎても烈牙様は生きているのだから。
今はその寿命の長さに感謝しましょう。
でも私は一つだけ自分の中で決心していることがある。
私にはアリシアの記憶がある。
でも私はアリシアではなく真雪という存在だ。
真雪として育った16年間は私のいろんな価値観を変えた。
けれど烈牙様を愛する心は変わらない。
だから烈牙様にはアリシアの生まれ変わりを愛するのではなく真雪という自分を愛してもらいたいのだ。
烈牙様に自分がアリシアの生まれ変わりと話すのは簡単なことだ。
噂では魔公爵は亡くなった妻を未だに愛していると聞いている。
でも私は烈牙様に自分がアリシアの生まれ変わりという話はしないつもりだ。
また一から真雪という人物を好きになってもらいたい。
それが今の私の望み。
大それた望みだということは分かっている。
誰もが憧れる魔公爵にもう一度愛してもらいたいと思うなんて。
そして私は先日魔公爵邸のメイドの面接を受けた。
魔公爵邸はちゃんとした身分の者しか働けない。
男爵家とはいえ私は男爵令嬢という肩書きがあったせいか面接は合格して明日から魔公爵邸に住み込みで働くことになった。
ああ、久しぶりに烈牙様にお会いできるかもしれない。
それに大人になっただろう子供たちとの再会も楽しみだわ。
私は机の上に置いてあった烈牙様の小さな肖像画を最後にカバンに詰める。
準備はこれでお終い。
明日から楽しみだわ。
私は部屋の明かりを消した。
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