第十六話 その心にこもる温度
「どうやって、新しい戦い方を?」
アナは率直に質問をした。
「そうだね。色々と方法自体はあるとも。アナちゃんは、その武技をどこで身に付けたのか知らないけれど、普通武技っていうのは受け継いでいくものなんだぁ~」
そうなんだ、と頷いて続きを待つ。
「家系であったり、師事する者であったり、文献なんかもあるねぇ~」
「アタシは、どれも違う」
「と、言うと~?」
一瞬、言い淀んだが続けた。
「アタシは、誰からも教わっていない。戦わなきゃ死ぬって状況で、敵だけの事を考えてたら、いつの間にかこの武技が発動してた。一点に集中すると発動するみたいだから、それ以来『集中』って、アタシは呼んでる」
「……なるほど、集中かぁ~。それにしても継承じゃないなんて、なかなか珍しいもんだねぇ、僕もまだ会ったことがないよぉ~」
その言葉に少し俯く。シャンメリーもそれに気づいた。
「と、まあ。武技の話はここまでにしてぇ、アナちゃんの新しい戦い方に関して提案しようと思うんだぁ~」
「……武技じゃないの?」
そう、と肯く。
「アナちゃんはなんと~、精霊術の適性がありまぁ~す」
聞き馴染みのない言葉に首をかしげる。
「聞いたことが無いって顔だねぇ~。今じゃもう見なくなったもんだから、仕方ないんだけどねぇ~」
「どういうものなの?」
問いにフフンと鼻を鳴らす。
「その名の通り、精霊を使役する術だよぉ~。契約をした精霊の力を借りて、武器に魔素を纏わせたり、一緒に戦ったりするんだよぉ~」
「魔素っていうのは?」
「魔素は魔素だねぇ~。自然が含む魔力の元となる元素のことだよ。精霊は魔力ではなくて、この魔素で生きているから、戦いにも魔素を使うんだぁ~」
質問したはいいものの、アナには少し難しかった。
「……ちょっと、難しかったかぁ。とりあえず、自然の力を使うのが精霊、って覚えておくと大丈夫だよぉ」
肯きで返す。
「それで、その精霊術の適性がアタシにもあるって?」
「うん、アナちゃんの身体を調べてから分かったんだけどねぇ~。適性がある者自体けっこう珍しいから、少し分析に手間取っちゃってね」
「珍しい?」
うん~、と返事。
「人間としては特に、ね。精霊自体、珍しいものだし。人間界だと絶滅種に分類されているくらい。まあ、人間が邪悪だから姿を見せないだけかもね」
ガハハ、と笑った後に気づいたのか、申し訳なさそうにした。
「ごめんね……アナちゃんを悪く言うつもりはなかったんだぁ~」
「いや、大丈夫だよ。アタシも、人間の悪い部分は知ってるから」
安堵の色が出る。
「話を戻すけどねぇ~、アナちゃんの適正としては、風の精霊が合っているみたいなんだぁ~。だから、これ!」
おもむろに指を鳴らすと、鳴らした手元に緑色の光が現れた。
「なにそれ!?」
「これが精霊。僕は職業柄、色んな精霊を研究していてねぇ~。この子は風の精霊だよ。等級は低い方だけどねぇ~」
光がアナへ向かって飛ぶ。身体の周りを見るかのように飛び回り、やがて肩の上辺りで止まった。
「うん、やっぱり思った通り。アナちゃんが気に入ったみたいだよぉ~。いつもよりウキウキしているよ」
点滅する。どこか嬉しそうだ。
「うん、連れてってあげてよ。ここでずっと過ごしているよりも、その子にとっても良いことだろうからねぇ~」
まだ少し理解していないながらに、アナは承諾した。
「じゃあ、契約成立だねぇ~。楔を決めないと」
「クサビ?」
「そう、互いに何を出すのか。契約だからね、差し出すものは必要。精霊からは魔素を共有することを条件に設定してるから、後はアナちゃんが何を欲しがるか、ってことだねぇ~」
無欲な少女は、そう言われて少し困ってしまった。
「うーん、そうだな……じゃあ、アタシの友達としていてほしい、かな」
照れくさくて少し目を伏す。シャンメリーは笑っている。
「アナちゃんは健気だねぇ~、君もそれでいいかい?」
精霊の方に促す。点滅で返事をする。
「うん、じゃあこれでおしまいだ。きっと君の力になってくれるから、いっぱい頼ってあげてねぇ~」
わかった、と返事をする。ちょうど、マルシェラがやってきた。
「隊長、アナ様、武技の分析の方は順調ですか……って、なんですその精霊!?」
来るなり精霊に対して驚きの声を上げる。
「ん~、アナちゃんの精霊だよぉ~。適性があったからね、僕のところにいた子を付かせることにしたんだ」
「あなたはまた、勝手に……!!」
「そ、そんなに怒らないでよぉ~……別に了承の上でだし、悪いことをしているわけじゃないだろぉ~?」
はぁ……とため息を一つ。
「報告することがまた一つ増えました。諸々は隊長がまとめてください、あと二時間ほどで報告に向かいますから、早めに、お願いしますね」
笑顔で詰め寄る。シャンメリーは肯くしかないようだった。
◇
泣きながら報告書をまとめているシャンメリーを遠目に、少しの時間休憩をとることになった。マルシェラがコーヒーを淹れ、アナに手渡す。
「どうぞ、アナ様」
「ありがとね」
一口含む。ミルクと砂糖をいっぱいにしてくれたが、それでもまだ少し苦かった。
「どうか、悪く思わないであげてくださいね。隊長も、良かれと思ってしたことだとは思うので……」
「何か悪いことされたっけ?」
心当たりが全くない。
「説明がなかったかもしれないですが、精霊との契約は本来危険を伴うものです。それこそ、悪魔との契約ほどではないですが、対価を求められるという事は、不履行になった場合、その分、返ってくるという事ですから……」
申し訳なさそうに説明をする。
「うーん、あんまりよく分かんないけどさ。アタシは新しい友達もできて、戦いを手伝ってくれて、あの武技を使わなくてもいいかも、なんて考えたら、結構嬉しかったりもするよ」
すみません……と述べる。
「何か身に危険がありましたら、ちゃんと私でも主様でも、大隊長でもいいので報告してくださいね。その時は対処しますので……」
「うん、でも大丈夫だと思うよ。この子、良い子みたいだし」
指に留めて笑う。マルシェラも心労は減ったようだ。
「……ありがとうございます」
「終わった~!!」
少ししてシャンメリーが大きな声を出した。
「まとめ終わったようですね…では、主様の元へ向かいましょうか」
「行ってらっしゃ~い」
マルシェラがじろりと隊長を見る。
「あなたも来るんですよ?」
「少しは休ませてよぉ~」
泣きながら首根っこを掴まれて、研究室を後にした。
◇
「……以上が、本日の諸報告になります。それと、隊長の方から急ぎ報告しておくことがありますので、ここから先は隊長に代わります」
圧をかけて促す。しぶしぶ前に出るシャンメリー。そして声を発する。
「うーん、何から言おうかなぁ~」
「まずは今朝の謝罪でしょう」
リセが口を挟む。
「うう、わかってるよぉ……主ぃ、朝はすっぽかしてごめんなさい」
項垂れるように腰を曲げる。
「ああ、次からは気をつけるようにな」
甘い、と言いたげな様子を抑えるように、リセが目を伏せる。
「それで、何か報告があるそうだが」
「あ~、えっとねぇ。アナちゃんに精霊を契約させたんだぁ~」
「また勝手に……」
リセはあきれた様子を見せる。魔王は変わらない。
「そうだろうな。微量だが魔素の気配を感じる。大方、アナに精霊術の適性があったからだろう。普段管理している低級か」
魔王の声に反応するかのように精霊が飛び出し、点滅する。
「はい~、アナちゃんの武技は結構危険だなぁと思ったので、勝手ながらさせていただきました~。たぶん、主もビスキーから聞いてるんでしょぉ~?」
そうだな、と返事。
「無論、精霊との契約はどれほど低級であろうとも危険を伴うものだ……だが、アナが望んだことであれば、それもまた一つの選択。アナの成長の一歩となったのであれば、責めることもないだろう。それに、その精霊は……」
「やったぁ~、じゃあこれで解決ってことでぇ~」
あっけらかんと笑って安堵の声を洩らす。言葉を遮られた魔王は困ったように笑ってシャンメリーへと言葉を継いだ。
「それはそれとして、リセの心労もあったからな。マルシェラに十分叱られただろうが、本人からの言葉をもらった方が今後につながるだろう」
リセがシャンメリーを手招きする。外に出るようだ。
「……は~い」
本当に嫌そうながら、リセと共に部屋から出ていった。
「して、マルシェラ。お前から見てアナはどう映った?」
急な問いにアナは驚いた。マルシェラも面食らっている。
「どう、とは……アナ様はとても良い方に思えましたが」
「いや、何。給仕部隊の仕事も、外交部隊以外はすべて経験させたが、副部隊長の目から見て、人間であるアナはどのように感じたか、知っておこうと思ってな」
アナは気にかけなかった。言わんとすることは分かっていたからだ。
「そう言う事でしたら……」と取り直す。
「アナ様は、正直に申し上げますと、人間とは思えないです」
「え!?」
思わず声を上げてしまうアナ。マルシェラは直ぐに弁解する。
「ああ、申し訳ありません。そう感じさせない、と言う意味です。気を悪くしてしまったのであれば謝罪を。ですが……やはり、アナ様は他の人間のような傲慢さも不遜さも、なにより強欲さもないものですから…私から見ると、どうしても人間には思えないのです」
それを聞いて納得する。
「我々は、ムルーム様から派生した者でございますので、人間の性質も、他の種の者よりは理解しているつもりです。彼らは、救えない者たち……関わること自体が間違いであると、知っていますから……」
「ですが、アナ様を見て、皆がそうではないと気づかされました。時代が変わり人も変わったのかもしれない、と。ですが、それも間違い。現に、アナ様はひどい仕打ちを受けたうえで今ここに居住している」
少し、心苦しさがマルシェラの顔に現れている。
「であれば、アナ様だけが特別である、と。そう私は感じております。アナ様のそのような心根は、とても素晴らしいものだと、そう思います」
重々しい空気の中、魔王が口を開く。
「……やはり、皆そう感じるみたいだな」
含みのある言い方をする。
「皆って、もしかして」
「ああ、他の副部隊長にも同様の質問をした。それぞれ、自身の感性から客観的意見を述べていたが、最終的には同じ点に着地したな」
アナに疑問が残る。
「ディミも……?」
「そうだな。あやつも、今ではお前の心根を称賛している。あんなことがあったというのも、お前を見極めたかったのかもしれんな…」
「おそらく、全員が根底でつながっているからでしょうね。ムルーム様がそも、お優しいというのもありますが、アナ様の心根に寄り添えるのは、そういった点が起因しているのでしょう」
「というか、そんな風に思ってくれてたんなら、言ってくれてもいいのに」
照れ隠しで口をつく。
「そんなに簡単に伝えては、言葉に重みがありませんもの」
コロコロと笑う。かわいい。
「確認できて良かった。すまないマルシェラ、時間を取らせたな」
「いえ、何なりと。それでは失礼いたします」
そう言って扉の方に進むが、ふとアタシに向き直る。
「アナ様、先ほども言いましたが、私はあなたの心根を素晴らしいと思っております。それは
恥ずかしげもなく告げる竜女。
「うん、ありがとう、マルシェラ。それだけじゃなくて、今日のことも。シャンメリーに怒ったのも、多分アタシを思っての事なんでしょ。そうやって怒ってくれる人、此処に来るまでいなかったから、嬉しかった」
マルシェラの目頭が熱くなる。
「これから、よろしくね」
「ええ……ええ……!もちろんでございます!」
笑顔を見せて部屋を後にしていった。こんなに心が暖かくなったのはいつ以来か分からない。ただその温度を、これからも大切にしようと少女は胸に留めた。
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