第7話 首置いてけ!
雪乃は、生まれついての戦闘系プレイヤーだ。
いや…「生まれながらの殺し屋」とでも言ったほうが正しいかもしれない。
どんなジャンルのVRMMOをプレイしても、雪乃は常に他のプレイヤーを圧倒し、最強の一角に食い込む。
今回も同様に、『勇者』の戦闘システムを触った瞬間、秋人をはるかに超える戦闘センスを見せつけた。
「Yuki、『勇者』の戦闘、どう?」
秋人が地面に転がる黒霧に侵されたモンスターの死体を眺めながら尋ねると、
雪乃はその死体の山の中心で立ち、太刀を一振りして鮮やかな「血振り」を決めた後、太刀を静かに鞘に収めた。
「最高!なんて言うか…まるで現実の自分の身体を動かしてるみたい。全く遅延がないんだ。」
「まるで、これが本当に私の身体みたいで、何をしようとしてもすぐに反応するの。」
雪乃は軽く腕を振りながら言う。その声には、抑えきれない興奮がにじみ出ていた。
今の主流VRMMOでは、プレイヤーには大きく分けて2つの戦闘スタイルが用意されている。
1つ目は、最も一般的で、多くのプレイヤーが選ぶ「アシスト戦闘モード」だ。
このモードでは、難しい動作を自分で行う必要はなく、「このスキルを使いたい」「この方向に技を出したい」と思うだけで、
システムがその動作をサポートしてくれる。アサシンのバックスタブや武士の居合抜き、魔法使いの呪文詠唱などの高度なアクションも簡単に実行可能だ。
このアシスト戦闘モードは、一般のVRMMOプレイヤーに非常に人気がある。
現実で剣術や魔法に精通しているプレイヤーなんてほとんどいないし、システムのサポートがあれば、誰でも強力な剣士を演じられるからだ。
2つ目は「フルコントロールモード」。
これは少数の熟練VRMMOプレイヤーが選ぶモードで、このモードを極めたプレイヤーだけが、プロ級のVRMMOプレイヤーと呼ばれる。
アシスト戦闘モードは、動作がパターン化されやすく、予測可能な攻撃になりがちだ。
PVPでは大きな弱点となるし、高難度のボス戦でも予期せぬ事態に陥ることがある。
だからこそ、フルコントロールモードでは、プレイヤー自身の意思でゲーム内の技を繰り出す必要がある。
スキルの動作や魔法の詠唱も、全て自分で練習して習得しなければならない。
このモードでVRMMOを続けていけば、現実でも強力な剣士になる可能性がある。
ただ、残念なことに現代社会には…魔法というものが存在しないのが惜しいところだが。
雪乃が選んだのはもちろん二つ目のモードだ。
それにしても、彼女はその二つ目の戦闘方式を使いこなすプレイヤーの中でも、間違いなくトップクラス、まさに「化け物」だ。
普通のプレイヤーが戦闘中に「次はどのスキルを使おうかな?」と迷っている間に、雪乃は反応速度があまりにも速すぎて、ゲームの戦闘システムすら彼女の動きに追いつけなくなるほどだった。
そう、これこそが雪乃が『神域』をプレイしていたときに抱えていた問題だ。
戦闘システムが彼女の反応に追いつかず、彼女が剣を振ってスキルを発動しようとするたびに、わずかに0.数秒の遅れが生じてしまう。
そのほんの少しの遅れが、雪乃にとっては大きなストレスだった。
彼女の口癖は「『神域』の操作感、どんどん悪くなってる。全然スムーズじゃない」。
だが、『勇者』では、ついに雪乃は真の感覚を味わうことができた。
「これ、ゲーム内のキャラじゃなくて、私の本当の体みたい!」
「私はまさに、居合斬りに生涯を捧げる独り武士『一心拔刀』なんだ!」
戦闘が苦手な秋人には、プロ級のプレイヤーが何を求めているのか、正直よくわからない。
けれど、そんな雪乃が『勇者』の戦闘システムをここまで称賛するなら、間違いなく素晴らしいゲームに違いない。
ところが、その後すぐに秋人は、自分の幼馴染がどれだけ凄まじい実力を持っているのかを再確認することになる。
「Aki!後ろ、気をつけて!」
鋭い声で雪乃が叫んだその瞬間、秋人は呆然としながら後ろを振り返った。
いつの間にか、背後に身長3メートル近い巨大なオークが迫ってきていたのだ。
黒霧に侵されたそのオークは、咆哮しながら巨大な斧を振り上げ、秋人に向かって振り下ろそうとしていた。
「抜刀!」
その声とともに、雪乃の姿が一瞬にして秋人の背後に現れた。
彼女は腰に差した太刀を素早く抜き、秋人の背後で鮮やかな紅い軌跡を描いた。
オークの手首が一瞬にして斬り落とされ、斧が地面に落ちた。
だが、それで終わりではなかった。
オークの手首から血が噴き出す前に、雪乃は太刀を再び鞘に収め、瞬く間にオークの背後へ回り込んだ。
再び一閃、オークの両脚の腱を断ち切り、巨体のオークは地面に崩れ落ち、その頭は無防備に晒された。
「首置いてけ!」
雪乃はまるで鬼のような笑みを浮かべながら、再び太刀を抜き、一撃でオークの首を斬り飛ばした。
オークの首は空高く舞い、鮮血が噴水のように飛び散った。
首級を挙げた雪乃は、その場で太刀の血を振り払い、すぐに秋人のもとへ駆け寄った。
秋人の前に戻ってきた雪乃の表情は、先ほどの殺気に満ちた狂気から一変し、まるで隣の家の可愛い少女のように心配そうな顔をしていた。
「Aki、大丈夫だった?」雪乃は優しい声で尋ねた。
「うん、大丈夫だよ。どうせVRMMOだし、死んでもすぐに復活できるしさ。それより、Yuki、一戦終えてどうだった?」と秋人は聞いた。
「感想?最高だった!このゲーム、どうなってるの!?戦闘中に全然ラグを感じないし、本当に自分の体みたいだよ!私は本当に異世界で居合斬りを極める勇者になったみたい!」
雪乃は完全に、この「現実で超強力な武士になった」ような感覚に夢中になっていた。
というのも…ここは本物の異世界なのだから。
今、君は本当に異世界に存在する勇者なんだ。
「Aki!さあ、どんどん攻略していこう!他のプレイヤーも続々と参加してきてるみたいだし、私たちもレベルを上げなきゃ!」
「早く、いろんな『居合Build』を試したいんだから!」
雪乃は秋人の手を引っ張り、このリアルな異世界での冒険を続けていった。
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